たとえそれでも
「ど、どうい事なの黒崎さん?」
「そのままの意味よ」
私は本をゆっくりと閉じ、視線を彼に目線を向ける。
「あなたは邪魔だったのよ。彼女には」
「え?邪魔だった?」
私か彼の鈍感さに我慢できず指で机をたたく。
「はあ、あのね。あなたの彼女はあなたと付き合う前から彼と付き合っていたの」
「そ、そうなの!?」
私は足を組み替え話を続ける。
「そう、だけど困ったことがあった。それはあなた」
「……家族からの期待があって邪魔だったってこと?」
「そう、だから彼女は彼と表立って付き合えなかった。そこで考えた一度お付き合って別れたことにしたら家族も納得してくれるとね」
「だからわざと付き合って僕に愛想をつかしたふりをして別れたってこと?」
私は頷く。
「……」
彼は俯き黙ってしまう。
それを見て私は本を開く。
目の前の現実は理解できない。
人を利用して侮辱するかのような方法で自分の幸せを優先する。
やはり、感情は理解できない。
「話は終わりよ」
私はどこかに言ってくれと言葉ではなく雰囲気で伝える。
だけど彼は動かない。
「はあ、落ち込むくらいなら話を聞かせないでくれる?」
「……ありがとう」
彼は初めと同じ笑顔だった。
ただその笑顔ははじめと違って本物だった。
「何で感謝されるの…ただ嫌な現実を知っただけでしょ」
「……そうかもしれない……でも、良かったとも思ったんだ」
何を言っているのだろうか。
なにも良くないではないか。
彼は侮辱され利用されて捨てられたのだ。
本の世界の住人なら怒って復讐でもしているところだ。
「彼女はたぶんきつかったんだと思う。好きな人がいてその人とのことをみんなに話せず。本当は胸を張って言いたかったはずなのに……だから良かったんだ」
「あなたの気持ちはどうなるの?」
自然と口から言葉が出ていた。
私はなぜそんなことを聞いたのか分からなかった。
それはきっと好奇心だった。
人の心、そして感情への。
「僕は確かに悲しいし悔しくもあるよ。でも…今、こうして話を聞いてもらって真実を知れて少しすっきりしてるんだ。だから大丈夫」
紙をめくる音が遠くから聞こえる。
「あなた変ね……」
「はは、よく言われるよ」
私には到底理解できない。
それはまさに生きている感情だった。
生きて泳ぎ続けている魚みたいだ。
「ねえ、あなた放課後時間はある?」
「放課後?特に予定はないから時間はあるけど……どうして?」
「協力してあげたお礼と言うのもないけど、あなたには私に協力してもらうわ」
「きょ、協力?」
彼の顔が困惑していた。
「ええ、私見ての通り表情がないの」
「そういえば表情が変わらないね?」
「そう、で感情もないのよ。昔から」
「感情がない?」
「ええ、または理解できないと言っていいかもね」
私は本のページをめくる。
「だから聞かせてほしいのあなたが日常で感じた感情を」
「それ参考になるかな?」
「…分からないわ……でもほかの人よりは参考になりそうだから消去法ね」
「そ、そう」
窓から夕日が少しさしていて机の上で小さく揺れていた。
まるで踊っているかのように。
まずは、ここまで読んでいただきありがとうございます。
この物語はここから、彼女が「生きた感情」と少しずつ向き合っていくお話になります。
もしこの先が少しでも気になりましたら、ぜひ続きを覗いてみてください。
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