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感情は本のようには扱えない。  作者: マモシ


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1/9

彼女は彼のものだった。

小さなことから、私は人と違った。


「花ちゃん、どうして笑わないの?」


お母さんは悲しそうに顔を曇らせて聞いてくる。


「何で笑うの?」

「だって、それ花ちゃんが好きなオムライスだよ?」

「……??」


私は昔から、感情の出し方がわからなかった。


「お前がそんな不気味な子供産んだのが悪いんだろ!」

「不気味なんかじゃありません!花ちゃんは表情に出ないだけです!」

「もう我慢の限界なんだよ!」


両親は、私のことでよくもめていた。

その結果、離婚することになり、父さんは家を出た。


「花ちゃん、今日からはママと二人よ?」

「ママ、ごめんなさい」

「いいの。花ちゃんは悪くないんだから」


お母さんは泣いていた。

私は悲しいはずなのに、泣けなかった。

おかしい。


私は感情がないんだ。

その時、確信した。



「花ちゃん、行ってらっしゃい!」

「うん。行ってきます」


いつもの通学路。

景色は変わらない。

でも、周りの人の顔は昨日とは違って見えた。

私には理解できないことだった。


教室に着くと、皆がこちらを見ている。


「おはよー、黒崎!」

「おはよう」


礼儀として、挨拶を返す。


「なあ、今日こそ遊びに行かないか?」

「興味がない」


そう言って席に着く。


「はあ……今回もダメだった」

「ドンマイ!お前じゃ黒崎さんは無理だろ」

「そ、そんなことあるかよ!」


男子たちは自分のグループに戻り、笑い声を上げる。

何が面白いのか、私には理解できなかった。



「おはよう、黒崎さん」


隣の席から声が聞こえる。


「おはよう、結城君」


結城君は大人しい男子で、隣だから苗字しか知らなかった。

他の人と違い、挨拶以外はほとんど話さない。



私はカバンから本を出し、読み始める。

本は、私が唯一、感情を理解できるもの。

整理され、明確で、文字でそう書かれている。

現実のように曖昧で不確定なものではない。


本の中で、私は安心する。



放課後。

みんなが帰っていく中、私は一人、図書室に向かう。


扉を開ければ、本の匂いで満たされていて安心する。

この高校を選んだ理由も、この図書室があるからだ。


いつもの窓際の席に座り、読書を始める。



しばらくして、窓の外が騒がしいことに気づいた。


知らない女と男がいて、その奥に結城君がいる。


「京子はその人がいいの?」

「ええ、あなたみたいなヘタレ幼馴染よりね」

「そういうことだから、ばいばい。元彼氏君」


女と男は笑って去った。

結城君だけが残っていた。

彼は手をぎゅっと握り、赤くなっている。


結城君がこちらを向いた。

私は目線を逸らすが、遅かった。

彼は図書室に入ってきて、私の前に座る。



「……見てた?」

「……」


私は何も答えない。

答える必要もない気がしたから。


「ごめんね。嫌なものを見せて」

「別に」


声が静かに響く。


「……ありがとう」


彼の顔は泣きながら笑っていた。

私は無意識に、彼を思いっきりビンタしていた。


「笑うな」

「へ?」


彼は呆気にとられていた。


「あなた、今悲しいんでしょ。なら泣きなさい。

作り笑顔は気持ち悪いから」


彼は言葉を聞き、大声で泣いた。

私はその間、ただ本の世界に入り込む。


しばらくして、彼は泣き止む。


「…ごめんね」

「いいから、もう話しかけないで」

「……はい」


彼はしゅんとして、まるで怒られた犬のようだった。

それでも、何か聞いてほしそうに私を見ている。



「はあ、何か用なの?」


目線がうるさくて、そう聞いてしまう。


「えっとね、話を聞いてほしいんだ……」

「それは私にとって、時間の無駄」

「……お願いします」


彼は頭を深く下げる。


「10分だけよ」

「ありがとう!」


彼は話し出す。

幼馴染の女の子のことを。



「僕と京子は幼稚園からの幼馴染でね」

「手短に」

「は、はい!」


彼は背筋を伸ばして続ける。


「付き合いだしてから様子がおかしくて……」

「……」


私は黙って聞き続ける。


「毎週水曜日は一人で下校するようになったり、僕の家に遊びに来なくなったり」

「浮気でしょ」

「でも、おかしいんだ!付き合ったばかりなのに、そんな暇あるはずないんだ!」

「……」


私は本の縁をなぞり、考える。


付き合ってからおかしい。

本当にそうだろうか?


「あなた、京子さんとは家族ぐるみの付き合いなの?」

「う、うん。仲がいいよ。よくキャンプとかにも行くね」


家族がそこまで親密なら、二人の結婚は自然だったかもしれない。


私は仮説を立てる。


「あなたは遅かったのね」

「え?遅かった?」

「ええ、()()()だったともいうわ」

「???」


ここで、彼に平坦に告げる。


「あなたが()()()()だったのよ」


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