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親友に彼女をNTRられた俺は、俺にだけ優しいクール系ギャルヒロインとお試しで付き合うことになりました。  作者: 沢田美


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文化祭準備

 六月一日。梅雨入り前の晴れた日。


 放課後の生徒会室は、窓から差す光のせいでいつもより明るかった。

 その分だけ、机に広がる資料の影が濃い。――仕事量の輪郭まで、くっきり見える気がした。


 蓮、俺、藤崎、野村、神崎、そして新メンバーたち。全員が揃う。

 文化祭準備の「立ち上げ会」。ここで方向を間違えると、七月の現場が地獄になる。


「それでは、文化祭準備会議を始めます」


 ホワイトボードの前に立つ蓮の声は、きれいに通った。

 緊張はある。けど、逃げない目だ。


「文化祭は七月の第一週末。七月四日と五日」


 日程を書き込みながら、蓮は一度だけ全員を見渡した。


「残りは一ヶ月ちょっと。時間はありません。だから、最初に“優先順位”を決めます」


 その言い方が、会長だった。

 “頑張る”じゃなく、“設計する”。


 蓮はテーマを板書する。


『青春~僕らの今を輝かせよう~』


「今年のテーマです。各クラスも部活も、これに沿って企画を組んでください」


 神崎が頷く。


「いいテーマですね。分かりやすい」


「ありがとう。次に、生徒会の担当を決めます」


 蓮は資料を配り、淡々と読み上げた。


「生徒会の仕事は四つ。全体運営、クラスサポート、来賓対応、安全管理」


 言い切った後、蓮は少しだけ声のトーンを落とす。


「特に安全管理。ここだけは“最後に考える”を禁止します。最初から組み込みます」


 藤崎の背筋が伸びる。

 野村が、予算表を開く音がした。


「春川くんは、全体の調整役」


「はい」


 俺は頷きながら、頭の中でタスクを分解する。会場割り、タイムテーブル、動線、注意事項、校内ルール、先生方との擦り合わせ。


「神崎くんは、各クラスとの連絡係。窓口一本化で混乱を潰します」


「分かりました」


 神崎の返事は迷いがなかった。ここ最近の神崎は、“口だけ”じゃない。


「藤崎さんは、広報とプログラム作成。ポスター、SNS、当日配布物まで一貫で」


「はい」


「野村さんは、予算管理と物品調達。発注は締切を前倒し。遅れたら、現場が詰みます」


「承知しました」


 役割が決まるたび、空気が締まっていく。

 “楽しいイベント”が、“運営プロジェクト”に変わる瞬間だ。


「じゃあ、今日のゴールを言います」


 蓮はホワイトボードに、太字で三つ書いた。


・会場割り(暫定)

・提出期限(統一)

・安全チェック項目(一次)


「この三つを今日中に出して、明日から各クラスへ展開します。異論は?」


 誰も手を挙げない。

 蓮が小さく頷いた。


「――開始します」


 ※ ※ ※


 会議が終わると、室内は一気に“作業場”になった。


 俺は各クラスの出し物リストを広げ、体育館・教室・廊下の使用を仮で割り振る。

 演劇、カフェ、お化け屋敷、展示。種類が多いほど、ぶつかる場所が増える。


「春川さん」


 神崎が、メモを片手に寄ってきた。


「三年A組が演劇希望です。舞台の使用時間について相談が」


「了解。音響とリハ時間、どれくらい必要って言ってる?」


「本番三十分、リハ一時間は欲しいと」


「――なら“午前中の二時間枠”で切ろう。リハを先、転換を含めて二時間。午後は別団体に回す」


 神崎がすぐにスマホを操作する。

 こういうレスポンスが速いと、全体の遅延が減る。


 ふと見ると、蓮は来賓リストと会場図を同時に見ていた。

 “表の顔”と“裏の段取り”を一人でやろうとしている。


「海斗」


「ん?」


「来賓席、どれくらい用意すればいいと思う?」


「去年の記録は五十。欠席が出ても見栄えを崩さないなら六十。動線は“入口から最短”で」


「……分かった。六十席で仮確定。動線も引き直す」


 蓮の判断が速い。迷いがない分、疲労だけが蓄積していくのが分かる。


 気づけば、時計は午後六時。

 今日の“最低ライン”は出せた。会場割り、期限統一案、安全チェック一次。


「今日はここまで。明日は、各クラスに展開して『遅れを可視化』します」


 蓮が全員に言った。


 メンバーが帰っていき、生徒会室が静かになる。

 残ったのは、俺と蓮だけ。


 椅子に座った蓮が、息を吐く。

 それは“ため息”というより、緊張が抜けた音だった。


「……疲れた?」


「少し。でも、今のうちに整えないと、後で崩れる」


 その言い方に、責任の重さが滲む。


「蓮、今日は“勝てた”よ。立ち上げがちゃんとできた」


「ほんと?」


「ああ。あとは崩れない仕組みにするだけ」


 俺が肩に手を置くと、蓮は小さく笑って、手を重ねた。


「海斗がいると、迷わなくて済む」


「迷うのは悪くない。ただ、迷う時間を減らす」


 蓮が頷く。

 その瞬間、俺のスマホが震えた。


 ――担任からの連絡。


『文化祭の安全基準、学校側で追加あり。近日、教頭から説明入る』


 蓮に見せると、蓮の表情が一瞬だけ引き締まった。


「……来たね」


「来たな」


 文化祭は、ここからが本番だ。


 ※ ※ ※


 六月五日。準備開始から五日目。


 教室では、三年B組の出し物会議が進んでいた。

 今年、うちのクラスはカフェ。――“楽しそう”に見える分、現場は意外と忙しい。


「じゃあ、メニュー決めよう」


 クラス委員が前に立ち、ホワイトボードに項目を書いていく。


「コーヒー、紅茶は必須」


「ケーキも置きたい」


「軽食どうする? サンドイッチ?」


 意見は次々出る。

 盛り上がるのはいい。けど、実行できる形に落とさないと破綻する。


 俺は資料をめくりながら、現実の制約を思い出す。

 衛生、アレルギー、火気、保管、当日の人員、そして――俺と蓮は生徒会シフトもある。


「役割分担行くよ」


 クラス委員がリストを作る。


「調理担当、接客担当、会計担当、装飾担当」


「鈴波さんと春川くんは、生徒会の仕事あるから当日のシフト調整ね」


「ありがとう。でも、できる範囲でクラスの手伝いもする」


 蓮の声は柔らかいのに、芯がある。


 その時、後ろの方で小さな声がした。


「生徒会って、結局“優先”されるんでしょ?」


 空気が一瞬止まる。

 こういう火種は放置すると、後で必ず大きくなる。


 蓮は振り返って、逃げずに言った。


「優先じゃない。責任が違うだけ。だから、その分“見える形”で負担も引き受ける」


 蓮は、クラス委員に視線を向ける。


「当日のシフト、私たちの穴は事前に全部埋める。準備期間の手伝いも、週何時間までって上限を決めて守る。――曖昧にしない」


 “頑張る”を禁止して、“運用”に落とした。

 それだけで、場の温度が変わる。


「……それなら、いいかも」


 誰かが小さく言って、空気が戻る。

 蓮は俺の方を見て、ほんの少しだけ不安そうに笑った。


「ねえ、海斗。クラスと生徒会、両方……ちゃんと回せるかな」


「回せる。回す方法を作ればいい」


 俺は蓮の手を握った。


「俺が隣にいる。ここは“二人でPM”だ」


「……うん」


 蓮が頷く。

 教室は、また準備の熱に戻っていった。


 ※ ※ ※


 六月十日。放課後、生徒会室。


 広報班の机の上に、藤崎のスケッチが並んでいた。

 テーマカラー、ロゴ案、キャッチコピー。どれも“青春”の空気をまとっている。


「どれがいいと思う?」


 藤崎が聞く。


 神崎が一枚を指差した。


「これ、爽やかで目に入ります。校内掲示でも埋もれない」


 蓮も頷いた。


「うん。これで決定。文字サイズだけ、遠目でも読めるように調整しよう」


 藤崎が嬉しそうにペンを走らせる。


「印刷は来週までに仕上げます。掲示場所は……」


「俺が校舎図で優先順位つける。人の動線上から潰そう」


 こういう噛み合いが出てきたのは、いい兆候だ。

 “会長が全部背負う”形から、チームの形に移ってきている。


 その流れで進捗確認に入ると、神崎がメモをめくった。


「鈴波会長。二年生のお化け屋敷、相談です。暗幕が足りないと」


「追加購入できる?」


 蓮が野村を見る。


 野村は即答しなかった。予算表だけじゃなく、別の紙も見ている。


「予算は余裕があります。ただ……」


「ただ?」


「教頭から“安全基準の追加”が来ていて。暗幕、難燃素材指定になるかもしれません。普通の布だと却下の可能性が」


 空気が一段重くなる。

 ここだ。イベント運営の“見えない敵”――学校ルールの更新。


 蓮は一秒だけ黙って、すぐに言った。


「よし。買う前に仕様を確定させる。神崎くん、二年生には『購入は保留、代替案も用意』って伝えて」


「はい」


「野村さん、難燃指定が来た場合の見積もりと納期を調べて」


「分かりました」


「藤崎さん、プログラムに“安全注意”の欄を作って。文章は私が叩く」


「はい」


 蓮が“止めない”。

 問題を、手順に変換して処理していく。会長の仕事だ。


 午後七時。作業を区切って、皆が帰り支度を始める頃。


 蓮だけが、椅子に沈むように座った。机に突っ伏す。

 さっきまでの速度が、嘘みたいに消えた。


「……蓮」


「ごめん。ちょっと、頭が回らない」


 声が小さい。目の下に薄い影がある。

 “責任の疲れ”は、休憩じゃ抜けにくい。


「今日は終わり。ここから先は事故る」


「でも、まだ――」


「明日やる。やるために、今日は切る」


 俺は、蓮の手を取って立たせた。

 蓮は抵抗しかけて、諦めたように頷く。


「……うん。分かった」


 廊下に出ると、蓮が俺の腕に縋るように触れた。


「海斗」


「ん?」


「私、ちゃんと会長できてる?」


「できてる。むしろ“できすぎてる”。だから休め」


 蓮が小さく笑って、息を吐いた。


「……ありがとう。隣にいてくれて」


「隣にいる。最後まで」


 校舎を出る直前、掲示板の前で立ち止まる。

 貼り出されたプリントのタイトルが目に入った。


『文化祭 安全運用ルール(改訂) ※全団体必読』


 俺と蓮は、同時に目を細めた。


「……来週、荒れるね」


 蓮が静かに言う。


「ああ。けど――先に握れば勝てる」


 蓮は頷く。

 その目に、疲れの奥の闘志が戻っていた。

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