バレンタイン企画、始動
一月四日。冬休みも残りわずかとなった。
俺は、朝から生徒会室に向かった。今日から、バレンタインイベントの準備が本格的に始まる。校舎は、まだ冬休み中で生徒は少ない。静かな廊下を歩きながら、俺は生徒会室に向かった。
ドアを開けると、既に桐谷会長と蓮が来ていた。二人とも、真剣な表情で資料を見ている。
「おはよう」
「おはよう、春川」
桐谷会長が、笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、海斗」
蓮も微笑んだ。その笑顔が、少し照れくさそうだ。昨日、蓮とメッセージでやり取りをしていた。その時の会話を思い出して、俺の頬も少し熱くなる。
「さて、全員揃ったな」
桐谷会長が、立ち上がった。藤崎書記と野村会計も、既に来ていた。
「今日から、バレンタインイベントの準備を本格的に始める」
会長の声が、生徒会室に響く。その声には力強さがある。
「まず、鈴波から全体の説明を」
「はい」
蓮が立ち上がった。その姿は、いつもの副会長の蓮だ。クールで、完璧で、美しい。
「バレンタインイベントは、二月十四日に開催します」
蓮の声が、淡々と響く。
「イベントは二部構成です。昼休みに『チョコレート配布イベント』、放課後に『バレンタインパーティー』」
蓮が資料を配った。そこには、詳細なスケジュールが書かれている。
「チョコレート配布イベントは、事前に応募してもらった生徒が、匿名でチョコレートを渡せるシステムです」
「匿名?」
藤崎書記が首を傾げた。
「はい。渡す相手の名前だけを記入してもらい、生徒会が代わりにチョコレートを渡します」
蓮の説明が分かりやすい。その説明を聞きながら、俺は蓮の横顔を見つめる。真剣な表情。でも、その表情の裏には、少しの疲れが見える。
「バレンタインパーティーは、体育館で開催します。音楽を流して、軽食を用意して、みんなで楽しむ形式です」
「軽食の手配は?」
野村会計が質問した。
「既に業者に見積もりを取っています。予算内で収まるよう、調整中です」
蓮の答えが的確だ。さすがだ。
「それでは、役割分担を確認します」
蓮がホワイトボードに、各自の役割を書いていく。その字が綺麗だ。
「春川くんは、会場設営担当。体育館の装飾と音響設備の準備をお願いします」
「分かった」
俺は、頷いた。
「藤崎さんは、チョコレート配布システムの管理。応募の受付と、配布当日の運営をお願いします」
「了解です」
「野村さんは、予算管理。各部門の支出を管理して、予算オーバーしないようチェックをお願いします」
「任せてください」
蓮が、全員に役割を割り振っていく。その手際が見事だ。
「私は、全体の統括と、関係各所との調整を担当します」
「無理するなよ、鈴波」
桐谷会長が、心配そうに言った。
「大丈夫です。今回は、ちゃんと周りに頼りますから」
蓮は微笑んだ。その笑顔を見て、俺の胸が温かくなる。
「それでは、各自準備を進めてください。次回のミーティングは、一月十一日です」
「了解」
全員が立ち上がった。
※ ※ ※
ミーティングが終わり、藤崎と野村が生徒会室を出ていった。桐谷会長も、何か用事があるらしく、すぐに出ていった。
部屋には、俺と蓮だけが残された。
蓮が椅子に座ったまま、深くため息をついた。その肩が少し下がっている。
「疲れた?」
「うん、ちょっと」
蓮は正直に答えた。その表情が、少し疲れている。
「無理してない?」
「大丈夫。まだ、準備が始まったばかりだから」
蓮は微笑んだ。でも、その笑顔が、少し無理をしているように見える。まるで、何かに囚われていそうな。
「蓮」
「ん?」
「辛くなったら、すぐに言ってくれ」
俺は蓮の手を握った。その手が、少し冷たい。
「ありがとう、海斗」
蓮は俺の手を握り返した。その手に、少し力が込められている。
「でも、本当に大丈夫。今回は、海斗がいるから」
「ああ」
「海斗が支えてくれるから、頑張れる」
蓮の目が、俺を見つめる。その目には、信頼が満ちている。
「任せてくれ」
俺は蓮を抱きしめた。蓮の身体が、俺の腕の中に収まる。その温もりが、愛おしい。
「海斗……」
「ん?」
「今日、帰りに一緒にご飯食べない?」
蓮の言葉に、俺は頷いた。
「ああ、いいよ」
「やった」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が輝いている。
※ ※ ※
生徒会室を出て、二人で学校の近くのカフェに向かった。
冬の夕方は、冷え込みが厳しい。二人で寄り添いながら歩く。蓮が、俺の腕にしがみついてくる。その温もりが心地よい。
カフェに入ると、温かい空気が俺たちを包み込んだ。窓際の席に座り、メニューを見る。
「何にする?」
「私は、カルボナーラ」
「じゃあ、俺はボロネーゼで」
注文を済ませると、蓮が俺の手を握った。その手が、温かい。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「バレンタイン、楽しみだね」
蓮の目が、輝いている。
「ああ」
「イベントの準備は大変だけど、当日は海斗と一緒に楽しみたいな」
「もちろん」
俺は、蓮の手を握り返した。
「蓮からチョコレート、もらえるんだよな?」
俺の言葉に、蓮の頬が赤く染まった。
「当たり前でしょ。海斗は、私の大切な人だもん」
「嬉しい」
「でも、ちゃんと手作りするからね。楽しみにしててね」
蓮の声が、甘える。その声が可愛らしい。
「楽しみにしてる」
料理が運ばれてきた。二人で楽しく食事をする。蓮の笑顔。その笑顔を見ているだけで、俺は幸せになる。
食事を終えて、カフェを出た。外は、既に真っ暗だ。街灯が、道を照らしている。
「じゃあ、駅まで送るよ」
「ありがとう」
二人で、駅に向かった。手を繋いで、ゆっくりと。
駅の改札前で、蓮と別れた。
「おやすみ、海斗」
「おやすみ、蓮」
別れ際、蓮が俺の頬にキスをした。その柔らかい感触が頬に残る。
「また明日ね」
「ああ」
蓮が改札を通っていくのを見送りながら、俺は幸せを噛み締めた。
バレンタインイベントの準備が始まった。これから、忙しくなる。蓮も、また仕事に追われる。あの時のように。
でも、今度は大丈夫だ。俺が、蓮を支える。
その決意を胸に、俺は家路についた。
※ ※ ※
一月十一日。二回目のミーティングが開かれた。
生徒会室には、全員が集まっている。桐谷会長が、各自の進捗を確認していく。
「藤崎、チョコレート配布システムの進捗は?」
「はい。応募用紙のデザインが完成しました。来週から、校内で配布を開始します」
藤崎書記が、デザインされた用紙を見せた。ピンクとハートのデザインが、可愛らしい。
「いいな。野村、予算は?」
「問題ありません。現時点で、予算の七割を使用していますが、残りで十分賄えます」
野村会計が、資料を見せた。その管理が完璧だ。
「春川、会場設営は?」
「はい。装飾の案を考えました」
俺はスケッチを見せた。体育館を、ピンクと白の装飾で彩る案だ。
「いいな。これで進めてくれ」
「分かりました」
「鈴波、全体の進捗は?」
「はい。順調です。予定通り、二月十四日に開催できます」
蓮の声が自信に満ちている。でも、俺には分かる。蓮が少し疲れている。
ミーティングが終わり、全員が帰り支度を始めた。蓮が資料を整理している。その動作が、少しぎこちない。
「蓮、大丈夫?」
俺が声をかけると、蓮は微笑んだ。
「うん、大丈夫」
でも、その笑顔が少し無理をしているように見える。
「今日は、早く帰ろう」
「でも、まだ――」
「明日でいいだろ。今日は、休め」
俺の言葉に、蓮は少し迷った表情を浮かべた。でも、すぐに頷いた。
「ありがとう、海斗」
二人で、生徒会室を出た。廊下を並んで歩く。蓮が、俺の腕にしがみついてくる。
「海斗……」
「ん?」
「今日、私の部屋に来てくれない?」
蓮の声が、少し弱々しい。その声を聞いて、俺の胸が締め付けられる。
「ああ、もちろん」
「ありがとう……」
蓮の身体が、俺に寄りかかってくる。その重みが、いつもより重い。蓮が、疲れている。
俺は、蓮を支えながら、駅に向かった。蓮を一人にはしない。俺が、蓮を支える。
その決意を胸に、俺は蓮と一緒に歩き続けた。
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