表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友に彼女をNTRられた俺は、俺にだけ優しいクール系ギャルヒロインとお試しで付き合うことになりました。  作者: 沢田美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/14

対峙

 翌朝、昇降口で蓮を待っていると、予想外の人物が現れた。


「あ……海斗」


 夢だった。

 傑を連れた夢が、俺の前に立っていた。それを見て俺は思わず身構えた。


「……何の用だ」


 冷たく言い放つと、夢は困ったような表情を浮かべた。それは何かを企みながらも何かを言いたげな顔をしていた。


「ねえ、海斗。私たち、ちゃんと話した方がいいんじゃないかな」


「話すことなんてない」


「そんな冷たいこと言わないでよ。私たち、3年も付き合ってたんだよ?」


 夢は涙を浮かべながら、俺に近づいてきた。


「それに、海斗がSNSで私の悪口書いてるって聞いて……」


「は?」


 俺は思わず声を上げた。


「俺はそんなことしてない」


「でも、みんなそう言ってるよ? 『春川が雪原の悪口を書いてる』って」


「それもデマだろ。お前が流した」


「ひどい! 私、そんなことしてないのに!」


 夢は大きな声で泣き始めた。周囲の視線が一斉に俺たちに集まる。その視線はどれも夢だけを心配する視線だった。


「雪原さん、大丈夫?」


「春川、また何かしたのか?」


 野次馬が集まってくる。俺は拳を握りしめた。また同じだ。夢の嘘で、俺が悪者にされる。あの時と同じ悪意のこもった暴力的な視線が俺に刺さる。


「海斗……なんでそんなに冷たくなったの? 前は優しかったのに……」


「優しくしてたのに、お前は傑と――」


「それは! それは海斗が私を大切にしてくれなかったから!」


 夢は涙を拭いながら叫んだ。


「海斗、私にお金ばっかり使わせて! 暴力だって――」


「嘘つくな!」


 俺は思わず怒鳴った。周囲がざわめく。夢はさらに泣き声を大きくした。周りの敵意がより一層鋭い視線として向けられる。


「ほら、また怒鳴った……怖い……」


「おい、春川! いい加減にしろよ!」


 男子生徒が俺の肩を掴もうとした、その時だった。


「手、出さない方がいいよ」


 冷たい声が響いた。

 振り返ると、蓮が立っていた。

 いつもより鋭い目つきで、夢を睨みつけている。


「れ、蓮さん……」


 夢が怯えたように後ずさる。


「雪原夢。あんた、また嘘ついてるでしょ」


「嘘なんてついてません! 私、本当に海斗くんに――」


「証拠は?」


 蓮の一言で、夢が黙り込んだ。


「海斗がSNSであんたの悪口を書いた証拠。海斗があんたに暴力を振るった証拠。お金を脅し取った証拠。全部出してみなさいよ」


「そ、それは……」


「出せないでしょ。だって、全部嘘だから」


 蓮は夢との距離を詰めた。蓮が放つ自信と確信に満ちたオーラが周りをも圧倒する。


「私、海斗のこと半年見てた。生徒会の仕事で一緒になることが多かったから、海斗がどういう人間か知ってる」


「で、でも――」


「海斗は、あんたが欲しがったもの全部買ってあげてた。デートの計画も全部立ててた。それなのに、あんたは何もしなかった」


 蓮の言葉に、周囲がざわめいた。


「む、むしろ私が海斗くんに尽くしてたんです! それなのに海斗くんは――」


「嘘」


 蓮はきっぱりと言い切った。


「あんた、半年前から岡波傑と付き合ってたでしょ。海斗と付き合いながら」


「な、何を――」


「証拠なら、ある」


 蓮はスマホを取り出した。


「半年前、あんたと岡波が二人きりで歩いてるところ、たまたま見かけた。その時の写真、残ってる」


「そ、それは――」


「言い訳する? でも無駄だよ。タイムスタンプもばっちり残ってるから」


 夢の顔が青ざめた。その顔はまさに威勢と自信を無くした顔だった。


「さらに言えば、あんたが海斗から買ってもらったコスメやアクセサリー。全部、岡波とのデート前に買ってもらってたよね」


「な、なんで知ってるの……」


「観察してたから」


 蓮は冷たく言い放った。


「あんた、海斗を都合のいい財布としか思ってなかった。そして浮気がバレたら、今度は被害者ぶってデマを流した」


「違う! 私は本当に――」


「じゃあ、証拠を出して」


 蓮の言葉に、夢は何も言えなくなった。周囲の生徒たちも、夢を見る目が変わっていた。その視線のほとんどは、雪原夢という女に対する疑いの視線だった。


「雪原さん……嘘だったの?」


「春川くん、可哀想……」


 風向きが変わったことに気づいた夢は、傑の袖を掴んだ。


「傑くん……助けて……」


「夢……」


 傑は困惑した表情で夢を見ていた。


「岡波傑」


 蓮が傑に視線を向けた。


「あんたも最低だよ。親友を裏切って、その上でデマに加担するなんて」


「俺は……俺は夢を愛してるんだ! だから――」


「愛? 笑わせないで」


 蓮は鼻で笑った。


「本当に愛してるなら、正々堂々と海斗に話すべきだった。陰でコソコソして、挙句の果てに海斗を悪者にするなんて、それは愛じゃない。ただの卑怯」


「う……」


 傑は何も言い返せなかった。

 蓮は俺の方を向くと、手を差し出した。


「海斗、行こ」


「蓮……」


「こんな奴ら、相手にするだけ時間の無駄」


 俺は蓮の手を握った。


 二人で昇降口を抜けようとした時、夢が叫んだ。


「待って! 鈴波さん、あなた海斗くんと付き合ってるんですよね!? でも、それって同情で――」


「違うよ」


 蓮は振り返らずに答えた。


「私、海斗のことが好きで付き合ってる。同情じゃない」


「で、でも! 海斗くんはまだ私のこと――」


「忘れてるよ」


 蓮はそこで立ち止まり、夢を見た。蓮のその目は、何もかも地の底に落ちた彼女を見下ろすような目だった。


「海斗は、もうあんたのことなんか見てない。今、海斗の隣にいるのは私」


 蓮は俺の手をぎゅっと握り締めた。


「だから、もう海斗に近づかないで。あんたには、岡波がいるんでしょ?」


「……っ」


 夢は悔しそうに唇を噛んだ。蓮は俺の手を引いて、そのまま校舎に入っていった。

 廊下を歩きながら、蓮が小さく呟いた。


「……大丈夫だった?」


「ああ、ありがとう」


「当たり前。私、海斗の彼女だから」


 蓮は少しだけ表情を緩めた。


「でも、ちょっと言い過ぎたかも。興奮しちゃった」


「いや、すごく助かった」


 俺は正直な気持ちを伝えた。


「蓮がいなかったら、また俺が悪者にされてた」


「それは許さない」


 蓮はきっぱりと言った。


「海斗は何も悪くない。悪いのは、嘘をついた雪原夢と岡波傑」


 教室の前で立ち止まり、蓮は俺を見上げた。


「ねえ、海斗」


「ん?」


「今日の放課後も、一緒にいてくれる?」


「もちろん」


「よかった」


 蓮は嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、また昼休みに」


「ああ」


 ※ ※ ※


 蓮と別れて教室に入ると、クラスメイトたちの視線が俺に集まった。でも、昨日までとは明らかに違っていた。


「春川……大変だったな」


「雪原、マジで最低だな」


「お前、何も悪くなかったんだな」


 同情の声が次々とかけられる。俺は複雑な気持ちで席に着いた。


 ※ ※ ※

 

 昼休み、屋上で蓮と合流した。


「お疲れ様」


「蓮も」


 二人で並んでフェンスにもたれかかる。


「ねえ、海斗。今日の反応、どうだった?」


「みんな、同情的になった。夢のデマ、もう信じてない人が多い」


「そっか。なら作戦成功だね」


 蓮は満足げに頷いた。


「これで、海斗の評判は少しずつ回復していく」


「全部、蓮のおかげだ」


「違うよ。海斗が何も悪いことしてなかったから、真実が明らかになっただけ」


 蓮は俺の方を向いた。


「海斗、胸張っていいんだよ。あんたは何も悪くない」


「……ありがとう」


 蓮の言葉が、俺の心を温めてくれる。


「そういえば、蓮」


「ん?」


「さっき、夢に言ってたこと……本当なのか?」


「どれ?」


「俺のことが好きで付き合ってるって」


 蓮は少しだけ頬を赤らめた。


「……当たり前でしょ。嘘ついてどうするの」


「でも、お試しで――」


「お試しでも、私の気持ちは本物」


 蓮は真剣な表情で続けた。


「海斗が一週間後にどう答えるかは分からない。でも、私は本気で海斗のことが好き」


「蓮……」


「だから、海斗も真剣に考えて。私と付き合うかどうか」


 蓮は俺の目を見つめた。


「一週間、まだ時間はある。その間に、答えを出してほしい」


「……分かった」


 俺は頷いた。

 蓮の真剣な眼差しに、俺も真剣に向き合わなければならない。


「じゃあ、今日の放課後――」


「うん、一緒に帰ろう」


 蓮は笑顔で頷いた。そして、俺の手をそっと握った。


「海斗、私はずっと隣にいるから」


「ああ」


 空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。


 一週間のお試し期間。その先に、俺はどんな答えを出すのだろう。まだ分からない。

 でも、蓮と一緒にいると、少しずつ前を向けている気がした。


 それだけで、今は十分だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ