体育祭午前の部 揺れ動く純愛
体育祭当日。
俺は、朝早くから学校に向かった。空は晴れ渡り、絶好の体育祭日和だった。青い空に、白い雲が浮かんでいる。爽やかな秋の風が、俺の頬を撫でていく。
道を歩きながら、俺は空を見上げた。高い空。その青さが、眩しい。
今日。体育祭が終わったら、蓮と話せる。二人の関係を、元に戻せる。
昨日の夜、蓮から「大好き」というメッセージをもらった。久しぶりの、愛の言葉。その言葉が、俺の心を支えている。
スマホを取り出して、もう一度メッセージを読む。
『大好き』
その文字を見るたびに、胸が温かくなる。
蓮は、まだ俺を愛してくれている。その確信を胸に、俺は校舎に向かった。
校門をくぐると、既に多くの生徒たちが集まっていた。体育祭のための準備をする声。笑い声。全てが、明るく聞こえる。
紅組、白組のテントが張られている。それぞれの色で飾り付けられた旗が、風に揺れている。
俺は白組。蓮も白組だ。同じチーム。その事実が、嬉しい。
※ ※ ※
開会式が始まった。
校庭には、全校生徒が集まっている。紅白に分かれたチーム。応援団の声。全てが、体育祭の雰囲気を盛り上げている。
太陽の光が、校庭を照らしている。その光が、眩しい。
俺は、白組の列に並んでいた。前を見ると、壇上に生徒会のメンバーが立っている。
桐谷会長が、マイクを持って挨拶をしている。その隣に、蓮が立っていた。
蓮。
久しぶりに見る、蓮の姿。制服ではなく、体操着姿の蓮。髪を後ろで結び、凛とした表情で立っている。
その姿を見ただけで、俺の胸が高鳴った。会いたかった。話したかった。触れたかった。
蓮の横顔。真剣な表情。副会長としての蓮。
でも、その目の下には、薄いクマがある。疲れている。無理をしている。
蓮も、俺の方を見た。その瞳が、俺を捉える。
一瞬、蓮の表情が緩んだ。微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、俺の心が温かくなった。蓮は、まだ俺を見てくれている。その事実が、俺を幸せにする。
俺も、微笑み返した。
蓮の笑顔が、さらに輝く。
その瞬間が、永遠に続けばいい。
「それでは、体育祭を始めます!」
桐谷会長の声が、校庭に響いた。生徒たちから、歓声が上がる。
応援団が、声を張り上げる。太鼓の音。旗が振られる。
体育祭が、始まった。
※ ※ ※
午前中は、様々な競技が行われた。
短距離走。障害物競走。玉入れ。綱引き。生徒たちが、それぞれの競技で全力を尽くしている。
俺も、いくつかの競技に出場した。短距離走では、クラスメイトと競い合った。
位置について。用意。ピストルの音。
俺は、全力で走った。風を切る。足が地面を蹴る。その感覚が、心地よい。
ゴール。
息を切らしながら、俺は空を見上げた。青い空。白い雲。
クラスメイトたちが、俺の背中を叩いてくれる。
「海斗、速いな!」
「ナイスラン!」
その声が、嬉しい。
でも、俺の目は、時折蓮を探していた。
蓮は、生徒会のテントにいた。各競技の進行を確認し、トラブルがないか見回っている。
桐谷会長と話している蓮。メモを取っている蓮。走り回っている蓮。
その姿は、いつもの副会長の蓮だった。クールで、完璧で近寄りがたい。
でも、俺にはわかる。蓮も、疲れている。無理をしている。
額の汗。時々見せる、疲れた表情。
蓮は、頑張りすぎている。
綱引きが終わった後、俺は少し休憩をとった。校舎の影で、水を飲む。
冷たい水が、喉を通っていく。その冷たさが、心地よい。
疲労が、心地よく身体に残っている。でも、心は軽い。
蓮の笑顔を思い出す。開会式で見せてくれた、あの笑顔。
蓮は、まだ俺を見てくれている。
「春川くん」
突然、誰かが俺を呼んだ。振り返ると、凛音が立っていた。
体操着姿の凛音。髪を結び、額に汗を浮かべている。その頬が、少し赤い。
「橘……」
「お疲れ様。短距離走、かっこよかったよ」
凛音は微笑んだ。その笑顔が、明るい。
「ありがとう」
俺も、微笑み返した。
「ねえ、春川くん」
凛音は、俺の隣に座った。その距離が、少し近い。
「鈴波副会長、忙しそうだね」
凛音が、生徒会のテントを見た。蓮が、まだ走り回っている。
「ああ……」
俺は頷いた。蓮は、今も生徒会の仕事を、完璧にこなそうとしている。
「春川くん、寂しくない?」
凛音の言葉に、俺の胸が締め付けられる。
寂しい。
その感情を、否定できない。
蓮と、一緒にいたい。蓮と、話したい。蓮に、触れたい。
でも、蓮は仕事で忙しい。
「まあ……」
俺は曖昧に答えた。
「やっぱり」
凛音は、少し寂しそうに微笑んだ。
「鈴波副会長、体育祭でも春川くんより仕事優先なんだね」
凛音の言葉が、俺の心に突き刺さる。
仕事優先。
その言葉が、胸を痛める。
「仕方ないだろ。蓮は、副会長だから」
俺は蓮を擁護した。蓮は責任感が強い。完璧にこなそうとしている。
「それは、言い訳だよ」
凛音ははっきりと言った。その声には、厳しさが込められている。
「本当に好きな人なら、ちょっとでも時間を作って会いに来るよ」
凛音の目が、真っ直ぐに俺を見つめる。
「私なら、絶対に会いに行く」
「橘……」
「でも、鈴波副会長は来ない」
凛音の言葉が、俺の心に突き刺さる。
蓮は、来ない。俺のところには、来てくれない。
その事実が、俺を苦しめる。
「春川くん」
凛音は、俺の手を握った。その手は温かく、柔らかい。
「体育祭が終わったら、鈴波副会長とちゃんと話せるんだよね?」
凛音の目が不安そうだ。
「ああ、約束してる」
俺ははっきりと答えた。蓮と、約束した。体育祭が終わったら、ちゃんと話す。
「……そっか」
凛音は、少し安心したような表情を浮かべた。でも、その目には、まだ不安が残っている。
「じゃあ、私は待ってる」
「橘……」
「もし、鈴波副会長が約束を守らなかったら」
凛音は俺を見つめた。その瞳には、強い決意が宿っている。
「その時は、私が春川くんを奪う」
凛音の言葉に、俺の目が見開かれた。
「そんなことにはならない」
俺ははっきりと否定した。その言葉に、一切の迷いはない。
「蓮は、約束を守ってくれる」
俺の声が、強い。
「……そうだといいけどね」
凛音は立ち上がった。その表情が、複雑だ。
「じゃあ、午後も頑張ろうね」
そう言って、凛音は去っていった。
その背中を見送りながら、俺は複雑な気持ちになった。
凛音の言葉が、俺の心を揺さぶる。
蓮は、本当に約束を守ってくれるのか。
その不安が、少しずつ膨らんでいく。
でも、俺は蓮を信じる。
蓮は、約束を守ってくれる。
そう信じて、俺は不安を振り払った。
※ ※ ※
昼休み。
俺は、校舎の裏に向かった。人が少ない場所。そこで、一人で弁当を食べようと思った。
校舎の裏。日陰。ベンチがある。
ベンチに座り、コンビニで買ったおにぎりを取り出す。いつもと同じ、一人の昼食。
蓮と一緒に食べたかった。二人で並んで、笑いながら食べたかった。
でも、それは叶わない。蓮は、今も生徒会の仕事で忙しいだろう。
おにぎりの包装を開ける。その音が、静かに響く。
おにぎりを口に運ぶ。味なんて、分からない。ただ、空腹を満たすために食べているだけ。
蓮が作ってくれた弁当が、食べたかった。温かくて、愛情が詰まっていた。あの弁当を、また食べたい。
「海斗」
突然、誰かが俺を呼んだ。
その声に、俺の心臓が跳ねた。
聞き慣れた声。愛しい声。
驚いて振り返ると、蓮が立っていた。
蓮。
体操着姿の蓮。額に汗を浮かべ、息を切らしている。走ってきたのだろう。
その頬が、少し赤い。髪が、少し乱れている。
「蓮……」
俺の声が、震える。
「やっと、見つけた」
蓮は俺の隣に座った。その距離が、近い。
蓮の体温が俺に伝わってくる。蓮の匂い。その匂いが、懐かしい。
「探してたのか?」
俺の声が小さい。
「うん。昼休み、一緒に食べたくて」
蓮の言葉に、俺の胸が熱くなった。
蓮が俺を探してくれた。一緒に昼食を食べたいと思ってくれた。
その事実が、俺を幸せにする。
「でも、仕事は……」
俺の問いに、蓮は微笑んだ。
「少しだけ、時間作ったの」
蓮の笑顔。久しぶりに見る、本当の蓮の笑顔だった。
副会長としての顔じゃない。俺の恋人としての顔。
「海斗と、一緒に食べたかったから」
蓮の声が、優しい。
「蓮……」
俺の目に、涙が浮かんだ。嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらない。
蓮が俺のために時間を作ってくれた。俺を優先してくれた。
「ごめんね、海斗」
蓮は、俺の手を握った。その手は温かく、その温もりが俺の心を満たしていく。
「最近、ちゃんと話せなくて」
蓮の目が、潤んでいる。
「いや、いいんだ」
俺は、蓮の手を握り返した。
「よくない」
蓮ははっきりと言った。その声には、強い意志が込められている。
「海斗を、一人にしちゃってた」
蓮の目から、涙が溢れてくる。その涙が、頬を伝って落ちていく。
「……」
「海斗が、苦しんでたのに、気づかないふりしてた」
蓮の声が、震える。
「海斗が、どれだけ寂しかったか」
蓮の涙が、止まらない。
「どれだけ、待っててくれたか」
蓮の手が、俺の手を強く握る。
「ごめん、海斗。本当に、ごめん」
蓮の謝罪に、俺の胸が痛む。
「蓮……」
「体育祭が終わったら、ちゃんと話そう。全部、話そう」
蓮は俺を見つめた。その瞳には、真っ直ぐな想いが宿っている。
「今までのことも、私の気持ちも、全部」
蓮の声が、はっきりしている。
「約束、守るから」
蓮の言葉に、俺の胸が温かくなった。
「ああ、分かってる」
俺は蓮を抱きしめた。
蓮の身体が、俺の腕の中に収まる。その温もりが、どれだけ恋しかったか。
蓮の匂い。蓮の鼓動。全てが、懐かしい。
「俺も、ごめん。我慢ばかりして、ちゃんと伝えられなくて」
俺の声が、蓮の耳元で響く。
「ううん、海斗は悪くない」
蓮は俺の胸に顔を埋めた。その身体が、小さく震えている。
「全部、私のせいだから」
蓮の声が切ない。
「そんなことない」
俺は蓮の頭を撫でた。蓮の髪が、指の間をすり抜けていく。
「二人とも、悪かったんだ。だから、ちゃんと話そう」
「うん」
蓮が俺の胸の中で頷く。
しばらく、二人で抱き合っていた。
蓮の温もり。蓮の匂い。全てが、俺を幸せにしてくれる。
この時間が、永遠に続けばいい。そう思いながら、俺は蓮を抱きしめ続けた。
風が吹く。木々の葉が揺れる音。セミの鳴き声。
全てが優しい。
「海斗、午後も頑張ろうね」
蓮が顔を上げた。その目が、輝いている。
「ああ」
俺は微笑んだ。
「私、午後に借り物競走に出るの」
蓮の声が嬉しそうだ。
「そうなのか?」
「うん。生徒会の代表として」
蓮は微笑んだ。その笑顔が、輝いている。
「海斗も、見ててね」
蓮の目が、俺を見つめる。
「ああ、絶対に」
俺は、はっきりと答えた。
蓮は立ち上がった。仕事に戻らなければならない。
「じゃあ、また後で」
蓮の声が、優しい。
「ああ」
蓮が去ろうとした時、俺は蓮の手を掴んだ。
「蓮」
「ん?」
蓮が、振り返る。
「愛してる」
俺ははっきりと言った。その言葉に、一切の迷いはない。
蓮の目が、見開かれる。そして、涙が溢れてくる。
「……私も」
蓮は微笑んだ。その笑顔が、美しい。涙に濡れて、輝いている。
「海斗のこと、愛してる」
蓮の言葉に、俺の胸が熱くなった。
そう言って、蓮は去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、俺の胸が温かくなった。
大丈夫だ。蓮は、まだ俺を愛してくれている。二人の関係は、まだ終わっていない。
午後。借り物競走。蓮が出場する。
その時を、俺は楽しみに待った。
そして、全てが終わったら、ちゃんと話そう。二人の未来を、一緒に築いていこう。
その希望を胸に、俺は午後の競技に向かった。
空を見上げる。青い空。白い雲。
その空が、美しい。
今日は、きっといい日になる。
そう信じて、俺は歩き出した。
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ここからが海斗と蓮の体育祭編でのハイライトです!次話の借り物競争を乞うご期待ください!長いすれ違いが報われる瞬間をご覧あれ!
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