表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友に彼女をNTRられた俺は、俺にだけ優しいクール系ギャルヒロインとお試しで付き合うことになりました。  作者: 沢田美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/118

体育祭までの愛の限界

 新学期が始まって二週間が経った。


 体育祭まで、あと三日。


 俺は、もう限界だった。


 ※ ※ ※


 今日も、屋上で一人で昼食を食べる。


 蓮を待つ。でも、蓮は来ない。


 コンビニのパンを口に運ぶ。味なんて、分からない。ただ機械的に噛んで、飲み込む。空腹を満たすためだけの作業。


 スマホを取り出す。蓮とのLINEを開く。


 昨日送ったメッセージ。既読がついているが、返信はない。


『今日、少し話せないか?』


 その前のメッセージも。


『蓮、無理してないか? 心配だ』


 その前も。その前も。ほとんどが既読スルー。


 今日も送る。返信がこないとわかっていても、少しの期待が俺を魅了する。


『今日も屋上にいる。来れないか?』


 送信。すぐに既読がつく。


 一分。二分。五分。十分。


 返信は来ない。


 もう、慣れた。でも、その度に胸が裂けそうになる。なんで、俺、こんなことやってるんだろう。


「蓮……」


 呟いた声が、風に消えていく。


 空を見上げる。秋晴れの青空が、どこまでも広がっていた。


 夏には、蓮と一緒にこの空を見上げた。プールで。海で。夏祭りで。花火の下で。


 あの時の蓮の笑顔。その温もり。全てが、まるで幻だったかのように遠い。


「俺、何か間違えたのか……?」


 自問する。でも、答えは見つからない。もしかしたら、蓮に失礼なことをしたかもしれない。


 蓮が忙しいのは分かっている。体育祭の準備で、生徒会副会長として、限界まで働いている。それは理解している。


 でも、理解することと、耐えることは別だ。


 毎日、顔を見ても話せない。メッセージを送っても返ってこない。生徒会の会議でも、蓮は俺を避ける。目も合わせてもらえない。


 この二週間、蓮とまともに会話をしていない。


 恋人として、扱われていない。


 いや、それ以前に、人として扱われていない気がする。避けられて、目も合わせて貰えない。


 俺の存在が、蓮にとって邪魔なのか。


 その考えが頭をよぎると、胸が締め付けられる。


「違う……そんなはずない」


 自分に言い聞かせる。蓮は俺を愛している。あの夏の日々は、嘘じゃない。


 でも、その確信が、日に日に揺らいでいく。


 昼休みが終わる。俺は重い足取りで、教室に戻った。


 ※ ※ ※


 午後の授業。


 教師の声が、遠くに聞こえる。黒板に書かれた文字が、意味をなさない。


 頭の中は、蓮のことでいっぱいだった。


 隣の席の生徒が、何か話しかけてくる。でも、何を言っているのか分からない。適当に相槌を打つと、相手は諦めたように黙った。


 窓の外を見る。秋の空が、どこまでも青い。


 蓮は、今頃何をしているのか。生徒会室で、一人で書類と向き合っているのか。


 助けたい。側にいたい。支えたい。


 でも、拒絶される。


 その現実が、俺を苦しめる。


 ※ ※ ※


 放課後、生徒会の会議。


 生徒会室に入ると、既に他のメンバーが集まっていた。桐谷会長、蓮、藤崎書記、野村会計。


 蓮の横顔は、疲労で青ざめている。目の下の隈が、ひどい。


 俺の胸が痛む。


「それじゃ、始めるぞ」


 桐谷会長が会議を始めた。今日の議題は、体育祭の最終確認だ。


「鈴波、準備状況は?」


「はい」


 蓮が立ち上がった。その動作が、少しふらついている。


「全て予定通りです。プログラム、用具、人員配置、全て完了しています。あとは、当日の運営のみです」


 蓮の声は、疲れていた。でも、淡々と報告を続ける。その姿が、痛々しい。


「鈴波、お前、大丈夫か? 顔色悪いぞ」


 桐谷会長が心配そうに尋ねた。


「はい、大丈夫です」


 蓮は即座に答えた。でも、その声は震えている。


「体育祭まで、あと三日だ。無理するなよ」


「はい、ありがとうございます」


 蓮は小さく頷いた。でも、その目には、限界が見えている。


 会議は続いた。各自の担当について、確認していく。


 俺も、自分の担当について報告する。


「それと春川、当日の音響設備の確認は?」


「はい、完了しています」


「分かった。じゃあ、当日頼むぞ」


「はい」


 会議中、蓮は一度も俺を見なかった。俺が発言しても、視線を合わせない。まるで、俺が透明人間になったかのようだ。


 会議が終わり、メンバーたちが帰っていく。


 俺は、蓮に声をかけようとした。今度こそ、ちゃんと話そう。このままじゃ、駄目だ。


「鈴波副会長」


「……何?」


 蓮が振り返った。その表情は、疲れている。そして、冷たい。


「最近、ちゃんと話せてないから、少し――」


「ごめん。今、本当に疲れてるの」


 蓮は、俺の言葉を遮った。その声は、素っ気ない。拒絶の意思が、明確に込められている。


「体育祭が終わったら、ちゃんと話そう。だから、今は……」


「……いつもそう言ってる」


 俺の声が、震えた。抑えきれない感情が、溢れそうになる。


「もう二週間だ。二週間、まともに話してない」


「分かってる。でも――」


「俺、何かしたか? 蓮を怒らせるようなこと」


 傑や夢に裏切られた時と同じような焦燥感が俺の中にあった。見捨てられ、捨てられ、ドブ水のような感情が再び浮き上がる。


「してない」


 蓮ははっきりと答えた。


「海斗は、何も悪くない」


「じゃあ、どうして」


「……ごめん」


 蓮は俯いた。その肩が、小さく震えている。俺は悔しかった。今俺以上に彼女が、蓮が苦しんでいるというのに、それをどうすることもできない自分に。


「今は、これが精一杯なの」


「蓮……」


「体育祭が終わったら、ちゃんと話す。約束する」


 蓮は顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいる。


「だから、待って」


「……分かった」


 俺は頷いた。これ以上、蓮を追い詰めたくない。蓮は限界に近づいている。それが、見て分かる。


「ありがとう、海斗」


 蓮は小さく微笑んだ。その笑顔は、どこか遠い。


「体育祭、頑張ろうね」


「……ああ」


 蓮は、生徒会室を出ていった。


 俺は、その場に立ち尽くした。


 体育祭が終わったら、ちゃんと話す。


 その約束を、蓮は守ってくれるのか。


 いや、それ以前に――


 体育祭が終わった後、俺たちの関係は元に戻るのか。


 その不安が、俺の胸を締め付ける。


 ※ ※ ※


 校門を出ると、凛音が待っていた。


「春川くん!」


 凛音は嬉しそうに手を振った。その笑顔が、眩しい。


「橘……」


「今日も、元気ないね」


 凛音は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。その距離が近い。


「ちょっと、話さない? いつものカフェ」


 俺は、少し迷った。蓮に対する裏切りではないか?傑や夢がした事と大して変わらないことをしていると思ってしまうほどに。


 でも、今の俺には、誰かと話したかった。この孤独を、誰かに埋めてほしかった。


「……ああ」


 二人で、いつものカフェに向かった。窓際の席に座り、飲み物を注文する。


「それで、鈴波副会長とは?」


 凛音が尋ねた。その声は、優しい。


「……変わらない」


 俺は正直に答えた。もう、隠す気力もない。


「今日も、話そうとしたけど、断られた」


「そっか……」


 凛音は、少し寂しそうに微笑んだ。


「春川くん、もう限界なんじゃない?」


「……かもしれない」


 俺の声が、震える。胸の奥から、苦しさが込み上げてくる。


「毎日、辛い。蓮に会えない。話せない。メッセージも、返ってこない」


「……」


「触れることもできない。目も合わせてもらえない」


 俺の手が、震えていた。その手を、テーブルの上に置く。


「まるで、俺が透明人間になったみたいだ」


「春川くん……」


「夏は、あんなに幸せだったのに」


 俺は天井を見上げた。涙が出そうになる。でも、我慢する。


「プールに行って、海に行って、夏祭りに行って……」


「うん」


「花火の下で、キスした」


 その思い出が、今は痛い。


「あの時の蓮は、どこに行ったんだ」


「……春川くん」


 凛音は俺の手に、自分の手を重ねた。その手は温かく、柔らかい。


「春川くん、我慢しすぎだよ」


「……でも」


「鈴波副会長が忙しいのは分かる。でもね、春川くんだって人間だよ」


 凛音は俺の手を握った。その手に、力が込められている。


「寂しいって、感じていいんだよ」


「……」


「辛いって、言っていいんだよ」


 凛音の言葉が、俺の心に染み込んでくる。純粋な心が段々と毒されていくように。


「我慢することが、愛じゃない」


「橘……」


「春川くんは、もう十分我慢した」


 凛音は真剣な表情で俺を見つめた。


「体育祭まで、あと三日。体育祭が終わったら、鈴波副会長と話せるんでしょ?」


「ああ、蓮がそう言ってた」


「じゃあ、その時まで待とう」


 凛音は微笑んだ。その笑顔は、優しい。


「でもね、春川くん」


「ん?」


「もし体育祭が終わっても、鈴波副会長が変わらなかったら」


 凛音の言葉が、俺の胸に突き刺さる。


 体育祭が終わっても、蓮が変わらなかったら。


 その可能性を、考えたくない。でも、考えざるを得ない。


「その時は……」


 凛音は俺の手を強く握った。


「私のこと、考えてくれる?」


「橘……」


「私なら、春川くんを一番に考える」


 凛音の瞳には、真剣な光が宿っている。


「どんなに忙しくても、春川くんとの時間を作る。メッセージには必ず返信する。毎日、春川くんと話す」


「……」


「春川くんを、透明人間にしたりしない」


 その言葉が、俺の心を揺さぶる。


「私、春川くんのこと、本当に好きだから」


 凛音は俯いた。その肩が、小さく震えている。


「鈴波副会長が春川くんを大切にしてくれないなら……」


「橘……」


「私が、春川くんを幸せにする」


 凛音は顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいる。


「だから、考えて。私のこと」


「……ありがとう」


 俺は、凛音の手を握り返した。その温もりが、俺の心を少しだけ楽にしてくれる。


「でも、俺の気持ちは、まだ蓮にある」


「分かってる」


 凛音は寂しそうに微笑んだ。


「でも、春川くんが辛そうなのを見るのは、もっと辛い」


「橘……」


「だから、せめて側にいさせて」


 凛音は俺の手を握り締めた。


「春川くんが一人で苦しまないように」


「……ありがとう」


 俺は、凛音の優しさに感謝した。


 でも、同時に罪悪感も感じる。


 蓮を裏切っているような気がする。


 でも、蓮は俺を見てくれない。


 その矛盾が、俺をさらに苦しめる。


「体育祭、頑張ろうね」


 凛音は明るく言った。その笑顔が、俺の心を少しだけ軽くしてくれる。


「ああ」


「私も、春川くんの応援してるから」


「ありがとう」


 ※ ※ ※


 凛音と別れ、俺は家に帰った。


 リビングのソファに寝転がる。


 蓮との距離。凛音の優しさ。全てが、俺の心を揺さぶっている。


 スマホを見ると、蓮からメッセージが届いていた。


『ごめんね、海斗。今日も、ちゃんと話せなくて。体育祭が終わったら、ちゃんと話そう。約束する。おやすみ』


 蓮からの謝罪。


 でも、それだけ。


 俺の「愛してる」には、何も返さない。


 俺の「寂しい」には、何も応えない。


 ただ、「待って」と言うだけ。


 俺は、返信を打った。


『分かった。蓮も無理しないで。体育祭、一緒に頑張ろう。おやすみ、蓮。愛してる』


 送信。すぐに既読がつく。


 一分。二分。五分。


 返信は、来ない。それに慣れてしまった自分が憎い。


 俺の「愛してる」に、蓮は何も返さない。


 その事実が、俺の心を深く傷つけた。スマホを置く。天井を見つめる。涙が、頬を伝って落ちた。


「蓮……」


 呟く。でも、その声は虚しく部屋に響くだけ。


 俺は、まだ蓮を愛している。


 でも、蓮は俺を愛しているのか。


 その答えが、分からない。


 体育祭まで、あと三日。


 その時、全てが決まる。


 蓮との未来が。俺の未来が。


 もし、蓮が変わらなかったら――


 俺は、どうすればいいのか。


 その答えを、俺はまだ見つけられずにいた。


 窓の外から、虫の声が聞こえてくる。秋の夜の音だ。


 夏は終わった。


 あの幸せな日々は、もう戻ってこない。新しい季節が始まろうとしている。


 でも、その季節に蓮はいるのか。その不安を抱えたまま、俺は深い眠りについた。夢の中で、俺は蓮を探していた。でも、どこにも見つからなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ