鈴波蓮の孤独 ー呪いの言葉ー
私は自宅のリビングで体育祭の最終確認資料を作成していた。
時計を見ると、夜の十一時を過ぎている。疲れが、身体に溜まっている。肩が重く、目が痛い。
でも、休むわけにはいかない。
体育祭は、あと四日後。全てを完璧にしなければならない。副会長として、失敗は許されない。母からも認められるために。
『完璧にこなしなさい』脳裏に響く呪いの言葉。
パソコンの画面を見つめながら、私は小さくため息をついた。
海斗。
最近、ちゃんと話せていない。会えていない。メッセージも、素っ気ないものしか送れていない。
海斗の「愛してる」に、何も返せていない。
罪悪感が、胸を満たしていく。海斗を傷つけている。分かっている。でも、どうすることもできない。
今は体育祭の準備を優先しなければならない。副会長として、責任を果たさなければならない。
それが、私の役割だから。母ならそうするから。
スマホが鳴った。海斗からのメッセージだ。
『お疲れ様。無理しないで。体育祭、頑張ってね。おやすみ、蓮。愛してる』
海斗の優しさが、メッセージから伝わってくる。その優しさが、私の胸を締め付ける。
返信したい。「愛してる」と伝えたい。でも、今の私には、その資格がない。
『誰にも頼らず、誰にも甘えず』私を縛る呪いの言葉。
海斗を傷つけている。海斗を一人にしている。そんな私が「愛してる」なんて言えるわけがない。
私は、短いメッセージを返した。
『ありがとう。おやすみ』
それだけ。送信ボタンを押した瞬間、罪悪感が胸を満たす。でも、これ以上、何も書けなかった。
私はスマホを置いた。胸の奥に、重い何かが沈んでいく。
「海斗……」
私は小さく呟いた。海斗の顔が、頭に浮かぶ。海斗の笑顔。海斗の優しさ。海斗の温もり。
全てが、恋しい。
会いたい。話したい。抱きしめてほしい。
でも、今は無理だ。体育祭が終わるまで、海斗には会えない。
それが副会長としての責任だから。母ならそうすると決まってるから。
私は、また資料作成に戻った。機械的にキーボードを叩いていく。感情を押し殺して、ただ仕事に集中する。
それが、私にできる唯一のことだった。
※ ※ ※
翌日、学校。
昼休み、私は生徒会室にいた。体育祭の資料を、最終チェックしている。
机の上には、今朝作ってきた弁当箱がある。でも、開けていない。食べる時間がない。食べる気力もない。
ただ、仕事に集中する。それだけが、私にできることだった。
「鈴波」
桐谷会長が声をかけてきた。私は、顔を上げる。
「はい」
「昼飯、食ってないだろ」
「……後で食べます」
「無理するな。ちゃんと食え」
桐谷会長の言葉に、私は小さく頷いた。でも、弁当箱には手を伸ばさない。
食べる気になれない。この弁当は、本当は海斗と一緒に食べるはずだった。屋上で、二人並んで。
でも、今はそれができない。一人で食べる気には、なれなかった。
「鈴波」
桐谷会長が、また声をかけてきた。
「お前、最近様子がおかしいぞ」
「……そうですか?」
「ああ。無理してるのが、見て分かる」
桐谷会長の言葉に、私は何も答えられなかった。無理している。それは、事実だ。
「何かあったのか?」
「いえ、何も」
私は首を振った。桐谷会長に、プライベートな悩みを話すわけにはいかない。
「そうか……」
桐谷会長は、少し考え込むような表情を浮かべた。
「体育祭が終わったら、少し休め。お前、このままじゃ潰れるぞ」
「はい、ありがとうございます」
私は淡々と答えた。表情を変えず、感情を見せない。それが、副会長としての私だった。
桐谷会長が生徒会室を出ていった後、私は一人になった。
静かな部屋。誰もいない。その静けさが、私の孤独を際立たせる。
私は、弁当箱を見つめた。海斗のために作った弁当。でも、海斗と一緒に食べられない。
涙が目に浮かんだ。でも、泣くわけにはいかない。泣いている時間があるなら、仕事をしなければ。こんなことで母なら泣いたりしない。
私は涙を拭った。そして、また資料作成に戻る。
感情を押し殺して。ただ、機械的に。
それが、私にできる唯一のことだった。
※ ※ ※
放課後、生徒会の会議があった。
私は、いつものように淡々と報告する。体育祭の進捗。最終確認事項。全てを、完璧に。
海斗も会議に出席している。でも、私は海斗を見ない。目を合わせない。
それが、学校での私のルールだった。生徒会副会長として、プライベートな感情を持ち込まない。
会議が終わり、メンバーたちが帰っていく。海斗が、私に声をかけようとした。
「鈴波副会長」
私は、立ち上がった。海斗の言葉を、遮るように。
「ごめん。今、急いでるの」
そう言って、私は生徒会室を出た。海斗を置いて。
『期待しているわよ、蓮』母からの呪いの言葉。
廊下に出ると、胸が苦しくなった。海斗を傷つけている。分かっている。でも、どうすることもできない。
今、海斗と話したら、泣いてしまう。弱い自分を、見せてしまう。
それだけは、避けなければならない。
私は一人で帰路についた。夕日が傾き、空がオレンジ色に染まっている。
この道を、夏休み前は海斗と一緒に歩いていた。手を繋いで、他愛もない話をしながら。
でも、今は一人だ。
寂しい。辛い。会いたい。
でも、我慢しなければならない。副会長として、完璧でなければならない。
それが、私の役割だから。
※ ※ ※
家に帰り、私は一人でリビングに座った。
広い部屋。誰もいない。静かだ。寂しい。
スマホを見ると、海斗からメッセージが届いていた。
『今日も、お疲れ様。蓮、無理しないでくれ。ちゃんとご飯食べてる? 体調、心配だ。おやすみ、蓮。愛してる』
海斗の優しさが、私の胸を締め付ける。心配してくれている。愛してくれている。
でも、私は何も返せない。
私は、短いメッセージを返した。
『大丈夫。ちゃんと食べてる。ありがとう。おやすみ』
嘘だ。今日も、弁当を食べなかった。食べる気になれなかった。
でも、海斗に心配をかけたくない。だから、嘘をついた。
送信ボタンを押した瞬間、罪悪感が胸を満たす。海斗に嘘をついた。海斗を騙した。
私は最低だ。
涙が溢れてくる。止まらない。枕を抱きしめて、泣く。
海斗に会いたい。海斗と話したい。海斗に抱きしめてほしい。
でも、それができない。今の私には、その資格がない。
海斗を傷つけている。海斗を一人にしている。そうしてしまった私が、海斗に甘えるわけにはいかない。
『それができて初めて、私の娘として認められるわ』母から託された呪いの言霊。
涙が止まらない。枕が、涙で濡れていく。
「ごめんね、海斗……」
私は小さく呟いた。海斗への謝罪。でも、その言葉は、海斗には届かない。
私は、一人で泣き続けた。この広い部屋で、一人で。
体育祭が終わったら、ちゃんと話そう。海斗に謝ろう。全てを、正直に話そう。
その希望を胸に、私は涙を流し続けた。
でも、心のどこかで思う。体育祭が終わった時、海斗はまだ私を愛してくれているのだろうか。
それとも、もう疲れてしまっているのだろうか。
その不安が、私を苦しめていた。
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明日は閑話含めて3話投稿します!閑話は16時頃投稿です!他は変わらない時間帯です。
少し辛い展開が続きますが「体育祭編」ぜひ最後まで見届けてくださると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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