表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友に彼女をNTRられた俺は、俺にだけ優しいクール系ギャルヒロインとお試しで付き合うことになりました。  作者: 沢田美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/111

副会長としての責務

 私、鈴波蓮は、自宅のリビングで体育祭の企画書と格闘していた。


 パソコンの画面には、まだ半分しか完成していない企画書が表示されている。時計を見ると、夜の十一時を過ぎていた。


「まだ、終わらない……」


 私は小さくため息をついた。


 体育祭の企画書。生徒会長から任された、重要な仕事だ。副会長として、完璧なものを作り上げなければならない。種目の詳細、タイムスケジュール、安全対策、予算配分。全てを一人でまとめる必要がある。


 本当は、生徒会のメンバーで分担すればいいのかもしれない。でも、私は一人でやることを選んだ。誰かに頼れば、また距離を縮めることになる。それは、避けたかった。


 学校では、私は「近寄りがたい生徒会副会長」として知られている。クールで、感情を表に出さず、誰に対しても公平だが距離を置く。それが、私の仮面だ。


 その仮面を被り続けるために、私は一人で全てを抱え込む。


 スマホが鳴った。海斗からのメッセージだ。


『今日、会えないか?』


 私は、そのメッセージを見つめた。会いたい。海斗に会いたい。海斗の顔を見て、声を聞いて、手を繋ぎたい。その想いが、私の胸を満たしていく。


 でも、今は無理だ。


 体育祭の企画書は、明後日までに提出しなければならない。まだ半分しか完成していない。今日も、明日も、企画書作成に時間を費やす必要がある。


 私は、返信を打とうとして――やめた。


 何と書けばいいのか、分からない。会えないことを伝えれば、海斗を傷つけてしまう。でも、嘘をつくわけにもいかない。


 結局、私は返信を保留した。既読をつけたまま、スマホを置く。


「ごめん、海斗……」


 私は小さく呟いた。海斗を傷つけたくない。でも、今は仕事を優先しなければならない。副会長として、責任を果たさなければならない。


 それが、私の役割だから。


 ※ ※ ※


 翌朝、私は早くから生徒会室にいた。


 夏休み中だが、生徒会の仕事は休みがない。体育祭の準備、新学期の行事計画、予算の見直し。やることは山積みだ。


 生徒会室には、私一人しかいない。他のメンバーは、まだ夏休みを楽しんでいるのだろう。それでいい。私は、一人でも構わない。


 むしろ、一人の方が楽だ。


 誰とも話さなくていい。誰にも気を遣わなくていい。ただ、仕事に集中できる。それが、私にとって一番楽な状態だった。


 パソコンに向かい、企画書の続きを書き始める。種目の詳細を詰め、タイムスケジュールを調整し、予算を計算する。機械的に、淡々と作業を進めていく。


 その時、スマホが鳴った。海斗からのメッセージだ。


『おはよう。蓮も休んでくれ。昨日は楽しかったな』


 昨日? 私は首を傾げた。昨日、海斗とは会っていない。何のことだろう。


 ああ、そうか。海から帰った翌日のことを言っているのか。もう、あれから何日経ったのだろう。時間の感覚が、曖昧になっている。


 私は短く返信を打った。


『うん、本当に楽しかった。海斗、大好き』


 送信して、すぐにスマホを置いた。また企画書作成に戻る。海斗のことを考えていると、集中できない。今は、仕事に集中しなければ。


 時間が過ぎていく。気づけば、昼を過ぎていた。お腹は空いているが、食べる時間がもったいない。コンビニで買ってきたおにぎりを、パソコンに向かいながら食べる。


 味なんて、分からない。ただ、空腹を満たすために食べているだけ。それが、最近の私の食事だった。


 スマホを見ると、海斗からのメッセージが届いていた。


『おはよう。蓮も休んでくれ。昨日は楽しかったな』


 また同じメッセージ? いや、違う。これは、今日の朝のメッセージだ。私が返信したのは、いつのメッセージだったのか。


 頭が混乱している。疲れているのだろう。でも、休むわけにはいかない。企画書を、完成させなければ。


 私は、海斗へのメッセージを無視して、また作業に戻った。


 ※ ※ ※


 夕方になり、私はようやく企画書の七割を完成させた。


 でも、まだ足りない。完璧にするには、あと二日かかる。明日も、明後日も、この作業を続けなければならない。


 スマホを見ると、海斗からのメッセージがいくつか届いていた。既読をつけたまま、返信していないものがいくつもある。


『今日、また会える?』


『蓮、大丈夫?』


『無理しないでくれ』


 海斗の優しさが、メッセージから伝わってくる。その優しさが、私の胸を締め付ける。


 会いたい。海斗に会いたい。でも、今は無理だ。


 私は、短いメッセージを打った。


『ごめん、海斗。返信遅くなって。生徒会の仕事、まだ終わらなくて。明日も、多分会えないかも。ごめんね』


 送信して、すぐにスマホを置いた。海斗からの返信を見たくない。見たら、罪悪感で押し潰されそうになる。


 私は、一人でこの広い部屋にいる。誰もいない。静かだ。寂しい。


 でも、これが私の選んだ道だ。


 生徒会副会長として、完璧に仕事をこなす。誰にも頼らず、一人で全てを抱え込む。それが、私の役割。それが、私の生き方。


「海斗……」


 私は小さく呟いた。海斗の顔が、頭に浮かぶ。海斗の笑顔。海斗の優しさ。海斗の温もり。


 全てが、恋しい。


 でも、今は我慢しなければならない。仕事が終わるまで、海斗には会えない。


 それが、副会長としての責任だから。


 ※ ※ ※


 夜、私は再び企画書作成に取り組んでいた。


 時計を見ると、夜の十時を過ぎている。目が疲れて、肩が凝っている。でも、休むわけにはいかない。


 スマホが鳴った。海斗からのメッセージだ。


『蓮、大丈夫? 体調崩してない? 返信なくて心配してる』


 私は、そのメッセージを見つめた。海斗が、心配してくれている。その優しさが、私の胸を温かくする。


 返信したい。でも、何と書けばいいのか分からない。


 私は、海斗を傷つけている。分かっている。返信しないことで、海斗を不安にさせている。でも、今は本当に時間がない。


 企画書を完成させなければ、生徒会長に叱られる。副会長として、失格の烙印を押される。それだけは、避けなければならない。


 私は、スマホを置いた。返信しないまま、既読だけをつける。


「ごめんね、海斗……」


 私は小さく呟いた。涙が、目に浮かぶ。でも、泣くわけにはいかない。泣いている時間があるなら、企画書を完成させなければ。


 一時間後、私はようやく手を止めた。今日は、ここまでだ。これ以上は、頭が働かない。


 スマホを見ると、海斗からのメッセージが届いていた。


『お疲れ様。ゆっくり休んで。おやすみ、蓮。愛してる』


 海斗の「愛してる」という言葉が、私の胸に突き刺さる。嬉しい。嬉しいのに、辛い。


 私は、短いメッセージを打った。


『ごめん、海斗。今、やっと終わった。疲れちゃって。明日も朝から生徒会だから、もう寝るね。おやすみ』


 送信して、すぐにスマホを置いた。海斗の「愛してる」に、何も返さない。返したら、泣いてしまいそうだから。


 私は、ベッドに横になった。広いベッド。広い部屋。全てが、空虚だ。


 一人暮らしは、寂しい。誰もいない。誰とも話さない。ただ、一人で仕事をして、一人で食事をして、一人で寝る。


 海斗がいてくれたら、この寂しさも消えるのに。海斗と一緒なら、この部屋も温かく感じるのに。


 でも、今は会えない。


「海斗……」


 私は枕を抱きしめた。涙が、頬を伝って落ちていく。寂しい。辛い。会いたい。


 でも、我慢しなければならない。副会長として、完璧でなければならない。誰にも弱みを見せてはいけない。


 それが、私の役割だから。


 涙が、止まらない。枕が、涙で濡れていく。


「ごめんね、海斗……」


 私は小さく呟いた。海斗を傷つけている。分かっている。でも、今はどうすることもできない。


 仕事が終わるまで、海斗には会えない。それが、私の選んだ道だった。


 ※ ※ ※


 翌日も、私は朝から生徒会室にいた。


 企画書の残り三割を完成させるため、朝から晩まで作業を続ける。食事も、適当に済ませる。海斗からのメッセージも、ほとんど無視する。


 返信する時間がない。返信する余裕もない。ただ、企画書を完成させることだけに集中する。


 夜、私はようやく企画書を完成させた。


「終わった……」


 私は大きくため息をついた。疲労が、どっと押し寄せてくる。肩が重く、目が痛い。でも、やり遂げた。完璧な企画書が、完成した。


 スマホを見ると、海斗からのメッセージがいくつか届いていた。でも、既読をつける気力もない。私は、そのままベッドに倒れ込んだ。


 意識が、遠のいていく。海斗の顔が、頭に浮かぶ。海斗……会いたい……


 でも、もう限界だった。私は、そのまま深い眠りに落ちていった。


 ※ ※ ※


 夏休み最終日。


 私は、一日中ベッドで寝ていた。疲れが、身体に残っている。起き上がる気力もない。


 スマホを見ると、海斗からのメッセージが届いていた。


『蓮、夏休み最後の日だけど、会えないか?』


 私は、そのメッセージを見つめた。会いたい。海斗に会いたい。でも、身体が動かない。疲労が、私を支配している。


 私は、短いメッセージを打った。


『ごめん、海斗。体調が優れなくて。明日、学校で会おうね』


 送信して、スマホを置いた。海斗からの返信は、すぐに来た。


『分かった。無理しないで。ゆっくり休んでくれ。明日、学校で会おう。愛してる』


 海斗の優しさが、私の胸を締め付ける。ありがとう、海斗。でも、ごめんね。


 私は、また眠りについた。夢の中で、海斗が笑っている。その笑顔が、私を温かくしてくれる。


 でも、それは夢だ。現実では、私は海斗を傷つけている。分かっている。でも、どうすることもできなかった。


 ※ ※ ※


 夏休みが終わった。


 新学期の朝、私は制服に袖を通した。鏡に映る自分の顔を見ると、疲れが滲んでいる。目の下には、隈ができている。


 でも、それを隠さなければならない。


 私は、いつものように化粧をした。ファンデーションで疲れを隠し、アイラインで目元を強調する。そして、表情を整える。


 クールで、近寄りがたい生徒会副会長。それが、学校での私の仮面だ。


 家を出て、学校に向かった。久しぶりの通学路。夏の終わりを感じさせる、爽やかな風が吹いている。


 校門をくぐると、生徒たちで賑わっていた。夏休みの思い出を語り合う声。笑い声。全てが、明るく聞こえる。


 でも、私には関係ない。私は、一人だ。


 昇降口で上履きに履き替え、教室に向かう。廊下を歩いていると、何人かの生徒が私を見る。でも、誰も声をかけてこない。


 それでいい。それが、私の望んだことだから。


 教室に入ると、クラスメイトたちが集まっていた。夏休みの話で盛り上がっている。でも、私に話しかけてくる者はいない。


 私は、自分の席に座った。窓際の席。ここから、校庭が見える。


 海斗は、どこにいるのだろう。会えるだろうか。久しぶりに、海斗の顔を見たい。海斗の声を聞きたい。


 その時、教室のドアが開いた。担任の教師が入ってくる。


「おはよう、みんな。久しぶりだな。夏休みは楽しかったか?」


 教師の声が、教室に響く。生徒たちが、「はい」と答える。


「さて、新学期が始まる。体育祭も近い。みんな、頑張ろう」


 体育祭。私が、この夏休みを犠牲にして作り上げた企画書。それが、これから実行される。


 でも、私の心は、空虚だった。


 海斗に会いたい。海斗と話したい。海斗を抱きしめたい。


 でも、学校では、それができない。私は、生徒会副会長。クールで、近寄りがたい存在。海斗と親しく話すことは、できない。


 それが、私の選んだ道だった。


 ホームルームが終わり、生徒たちが教室を出ていく。私も、生徒会室に向かわなければならない。副会長として、やるべき仕事がある。


 廊下を歩いていると、遠くに海斗の姿が見えた。


 心臓が、高鳴る。会いたい。話したい。手を繋ぎたい。


 でも、私は足を止めなかった。海斗に気づかれないように、そのまま生徒会室に向かう。


 学校では、私は生徒会副会長。海斗の恋人だけれど今は違う。それが、私の仮面だった。


 生徒会室に入ると、会長が待っていた。


「おはよう、鈴波。企画書、完成したか?」


「はい。こちらです」


 私は、企画書を会長に渡した。会長は、それをざっと目を通す。


「よくできてるな。さすが、鈴波だ」


「ありがとうございます」


 私は、淡々と答えた。表情を変えず、感情を見せない。それが、副会長としての私だった。


 でも、心の中では、海斗のことを考えている。海斗は、今どこにいるのだろう。私のことを、どう思っているのだろう。


 会いたい。話したい。謝りたい。


 でも、それができない。それが、私の辛さだった。


 新学期が始まった。でも、私の心は、まだ夏休みのままだった。海斗と過ごした、あの幸せな日々が、忘れられない。


 でも、あの日々は、もう戻ってこない。それが、私の選んだ道の代償だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ