土曜勉強会――奪われかけた隣を取り戻した彼女のぬくもり
土曜日の朝、俺は蓮の家に向かった。朝の空気は清々しく、これから始まる一日への期待で胸が高鳴る。蓮と一日中一緒にいられる。その事実が、俺の足取りを軽くする。
蓮が住んでいるのは、駅前の高層マンションだ。エントランスに入ると、高級感のある内装が目に入る。大理石の床、シャンデリア。まるでホテルのようだ。蓮の家は、このマンションの高層階にある。
約束の時間より少し早く着いてしまった。蓮に迷惑じゃないだろうか。少し不安になりながら、インターホンを押す。
『はーい。今開けるね』
その声は明るく、俺を安心させてくれる。
扉が開くと、エプロン姿の蓮が現れた。エプロン姿の蓮は、いつもと違う雰囲気で、どこか家庭的だ。その姿を見て、俺の胸が高鳴る。こんな蓮の姿を見られるのは、俺だけだ。
「おはよう、海斗」
「おはよう。早かったか?」
「ううん、ちょうどいいよ。今、朝ごはん作ってたの」
「朝ごはん?」
「うん。海斗の分も作ってるから、一緒に食べよう」
蓮は嬉しそうに笑った。その笑顔が、朝日に照らされて輝いている。
「お邪魔します」
部屋に入ると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。バターと卵の香り。食欲をそそる匂いが、部屋中に広がっている。
リビングは広く、大きな窓からは街が一望できる。高層階ならではの眺めだ。朝日が差し込んで、部屋全体が明るい。
「すごくいい匂いだな」
「今日は、フレンチトーストとスクランブルエッグ作ったの」
蓮はテーブルに料理を並べた。丁寧に盛り付けられた料理が、テーブルの上に並ぶ。まるでカフェのような仕上がりだ。
「すごい……まるでカフェみたいだ」
「そう? 嬉しい」
蓮は照れた表情を浮かべた。その頬が、ほんのり赤く染まっている。
「じゃあ、いただきます」
二人で朝食を食べる。フレンチトーストは甘くてふわふわで、スクランブルエッグはとろとろだった。一口食べるたびに、幸せな気持ちが広がっていく。
「美味い……」
「よかった」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
「海斗が喜んでくれると、作った甲斐がある」
「蓮、料理上手だよな」
「ありがとう。海斗のためなら、もっと頑張れる」
蓮の言葉に、俺の胸が熱くなる。
「蓮……」
朝食を終え、二人で勉強を始めた。テーブルの上に教科書と問題集を並べる。今日一日、蓮と一緒に勉強できる。その事実が、俺を満たしていく。
「今日は、数学の応用問題をやろう」
「応用か……」
「大丈夫。私が教えるから」
蓮は問題集を開いた。
「この問題、まず何をすればいいか分かる?」
「……図を描く?」
「正解! そうやって、視覚化することが大事なの」
蓮は俺のノートに図を描き始めた。その図は丁寧で、分かりやすい。
「ほら、こうすると分かりやすいでしょ?」
蓮が俺の方を向いた。その顔が、また近い。蓮の吐息が、頬に触れそうなほど近い。
「確かに」
俺も蓮の真似をして、図を描いていく。
「じゃあ、この問題やってみて」
俺は集中して問題を解いた。蓮に教わった方法を思い出しながら、一つ一つ丁寧に計算していく。
「……できた」
「見せて」
蓮は俺のノートを覗き込んだ。その表情は真剣で、俺の答えを丁寧に確認している。
「うん、完璧! すごいじゃん、海斗!」
蓮は俺の頭を撫でた。蓮の手が、優しく俺の髪を撫でていく。この温もりが、俺を満たしていく。
「ちゃんと理解できてる」
「蓮のおかげだよ」
「二人で頑張ったからだよ」
蓮は微笑んだ。その笑顔には、喜びと誇りが混じっている。
しばらく勉強を続けていると、蓮がふと窓の外を見た。その表情が、少し曇る。
「……どうした?」
「ん、ううん。何でもない」
蓮は首を振った。でも、その瞳には、わずかな不安が滲んでいる。
「昨日のこと、まだ気になってる?」
俺が尋ねると、蓮は少し驚いた表情を浮かべた。
「……分かる?」
「分かるよ」
俺は蓮の手を握った。
「橘のこと、だろ?」
「……うん」
蓮は小さく頷いた。
「昨日、図書館で橘さんが海斗の隣に座った時、すごく嫌だった」
蓮の声は、少し震えている。
「海斗の隣は、私の場所なのに」
「蓮……」
「だから、今日は誰にも邪魔されたくない」
蓮は俺を見つめた。その瞳には、強い決意が宿っている。
「海斗と二人きりで、ゆっくり勉強したい」
「俺も」
俺は蓮の手を握り締めた。
「俺も、蓮と二人きりがいい」
「……ありがとう」
蓮は安心したように微笑んだ。
「ここなら、誰にも邪魔されない」
蓮は少し強く俺の手を握った。
「海斗を、誰にも渡したくない」
「分かってる」
俺は蓮の頭を撫でた。
「俺は、蓮だけのものだから」
「……うん」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。でも、時々不安そうな表情を浮かべる。昨日の凛音の行動が、まだ蓮の心に引っかかっているようだ。
「よし、続き頑張ろう」
蓮は気を取り直したように、教科書を開いた。
昼になり、蓮がキッチンに立った。エプロンを着けた蓮の姿が、台所で動いている。
「お昼、何が食べたい?」
「蓮の作るものなら、何でも嬉しい」
「じゃあ、オムライスにしようかな」
蓮は楽しそうに料理を始めた。フライパンを振る音、卵を混ぜる音。キッチンから聞こえる音が、心地よく響く。
「できた!」
蓮が二つのオムライスを持ってきた。ケチャップで、ハートマークが描かれている。
「可愛い……」
「恥ずかしいけど、海斗のために」
蓮は照れた表情を浮かべた。
「いただきます」
二人で昼食を食べる。オムライスは、ふわふわの卵とチキンライスの相性が抜群だった。
「美味い」
「よかった」
蓮は嬉しそうに笑った。
昼食後、再び勉強を始めた。午後の時間が、ゆっくりと流れていく。
「午後は、英語の長文読解をやろう」
「分かった」
蓮は英語の問題集を開いた。
「長文は、まず全体を読んで、内容を把握することが大事なの」
「なるほど」
「それから、設問を読んで、答えを探す」
蓮は丁寧に解説していく。
「じゃあ、この問題やってみて」
俺は集中して長文を読み始めた。
「……できた」
「見せて」
蓮は俺の答えを確認した。
「うん、正解! 海斗、すごい成長してる!」
「蓮のおかげだ」
「私も、海斗が頑張ってくれて嬉しい」
蓮は俺の手を握った。蓮の手は温かい。その温もりが、俺に勇気をくれる。
「このまま頑張れば、絶対いい点取れるよ」
「ああ、頑張る」
夕方になり、勉強を一旦終えた。一日中勉強して、さすがに疲れた。でも、心地よい疲労感だ。
「今日は、よく頑張ったね」
「蓮も」
二人でソファに座った。柔らかいソファが、疲れた身体を優しく包み込む。
「疲れたでしょ? お茶淹れるね」
「ありがとう」
「はい、お茶」
蓮がマグカップを持ってきた。
「ありがとう」
俺が一口飲むと、蓮は俺の隣に座った。蓮の温もりが、すぐ隣にある。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
「ああ、すごく」
「蓮と一緒だと、勉強も楽しい」
「……私も」
蓮は俺の肩に頭を預けた。蓮の温もりが、肩から伝わってくる。
「海斗と一緒だと、何をしても楽しい」
「蓮……」
「だから、これからもずっと一緒にいてね」
「当たり前だろ」
俺は蓮を抱き寄せた。蓮の身体が、俺の腕の中に収まる。
「俺は、ずっと蓮の隣にいる」
「……ありがとう」
蓮は幸せそうに微笑んだ。
しばらくそうしていると、蓮が顔を上げた。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「橘さんのこと、気にしてる?」
蓮は少し不安そうに俺を見つめた。
「全然」
俺ははっきりと答えた。
「俺が見てるのは、蓮だけだ」
「……本当?」
「本当だ」
俺は蓮の頬に手を添えた。
「誰が何をしても、俺の気持ちは変わらない」
「海斗……」
蓮の瞳が潤んでいる。
「ありがとう。私、昨日すごく不安だった」
「不安?」
「うん。橘さんが海斗の隣に座った時、心臓が痛くなった」
蓮は俺の胸に顔を埋めた。
「海斗を取られちゃうんじゃないかって」
「そんなことない」
俺は蓮を抱きしめた。
「俺は、蓮だけのものだから」
「……うん」
蓮は安心したように微笑んだ。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「キスして」
蓮の声は、少し恥ずかしそうだ。
「……ん」
俺は蓮の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけた。
唇が触れ合う。柔らかくて、温かい。何度キスをしても、この温もりに慣れることはない。
離れると、蓮は恥ずかしそうに笑った。
「海斗とのキス、大好き」
「俺も」
「じゃあ、もう一回」
蓮は少し甘えたような声で言った。
「蓮……」
「だめ?」
蓮は上目遣いで俺を見つめた。
「だめじゃない」
俺はもう一度、蓮とキスをした。今度は、さっきよりも少し長く。蓮の温もりを、もっと感じていたい。
夕方になり、俺は蓮の家を出た。外の空気は、少し冷たくなっている。でも、胸の中には、蓮の温もりがまだ残っている。
「今日は、ありがとう」
「ううん。また明日も、一緒に勉強しようね」
「ああ」
別れ際、蓮が俺の頬にキスをした。
「おやすみ、海斗」
「おやすみ、蓮」
※ ※ ※
家に帰り、ベッドに横になる。今日一日のことを思い返す。蓮と過ごした時間が、俺の心を満たしていく。
スマホを見ると、蓮からメッセージが届いていた。
『今日は一日お疲れ様。海斗、すごく頑張ってたね。このまま頑張れば、絶対いい点取れるよ。明日も一緒に頑張ろう。今日のキス、すごく幸せだった。二人きりで勉強できて、本当によかった。おやすみ』
最後の一文に、蓮の安堵が込められているのが分かった。
俺は返信を打った。
『蓮のおかげで、勉強が楽しかった。明日も、よろしく。今日一日、幸せだった。蓮と一緒にいられて、本当に幸せだ。蓮以外、誰も見ない。約束する。おやすみ』
送信すると、すぐに既読がついた。そして、ハートマークのスタンプが送られてきた。
「蓮……」
俺は思わず、スマホを抱きしめた。
蓮は、凛音のことを気にしている。でも、俺の気持ちは揺るがない。蓮だけを、ずっと愛し続ける。その決意を、改めて胸に刻んだ。蓮のキスの感触が、まだ唇に残っている。その感触を思い出しながら、俺は深い眠りについた。
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