這い寄る影に潜むNTR
翌日の放課後も、俺は蓮と一緒に勉強することになった。
蓮と過ごす時間が増えるたびに、俺の心は満たされていく。勉強という口実があるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて、少し前の俺には想像もできなかった。
「今日は、図書館で勉強しようか」
蓮が提案した。その声は明るく、どこか弾んでいる。
「図書館?」
「うん。たまには環境を変えた方が、集中できるかなって」
蓮の瞳が、期待に満ちている。その表情を見ているだけで、俺の胸が高鳴る。
「それもいいな」
二人で図書館に向かった。廊下を並んで歩く。蓮の横顔を盗み見る。集中した表情で前を見つめる蓮の姿が、どうしようもなく愛おしい。
放課後の図書館は、意外と生徒で賑わっていた。みんな、期末テストに向けて勉強しているようだ。ページをめくる音、鉛筆の走る音。図書館特有の静かな空気が、俺たちを包み込む。
「あ、空いてる席があった」
蓮が奥の席を見つけた。二人で並んで座り、教科書を広げる。蓮の隣に座れる。それだけで、俺の心臓は少し早く鼓動する。
「今日は、国語と理科をやろう」
「分かった」
蓮は国語の教科書を開いた。
「この古文、意味分かる?」
「……全然。古文、苦手なんだよな」
「大丈夫。私が教えるから」
蓮は優しく微笑んだ。その笑顔を見ると、不思議と「頑張ろう」という気持ちが湧いてくる。
「古文はね、まず文法を理解することが大事なの」
蓮は丁寧に説明し始めた。動詞の活用、助動詞の意味。一つ一つを噛み砕いて、分かりやすく教えてくれる。蓮の声は柔らかく、聞いているだけで心が落ち着いていく。
「へえ、そういうことか」
「でしょ? 分かってくると、面白いよ」
蓮は嬉しそうに笑った。その笑顔が、俺の心を照らしてくれる。
「じゃあ、この文章を現代語訳してみて」
俺は蓮に教わった文法を思い出しながら、訳していく。
「……こんな感じかな」
「見せて」
蓮は俺のノートを覗き込んだ。その時、蓮の顔が俺の顔に近づいた。距離が一気に縮まる。
「……っ」
俺は思わず、ドキッとした。心臓が、激しく鼓動する。蓮の甘い香りが、鼻をくすぐる。蓮の長い睫毛が見える。白い肌が、間近にある。
「うん、大体合ってる! すごいじゃん、海斗!」
蓮は気づいていないようだった。その無自覚さが、また可愛い。
「あ、ああ……」
俺は照れながら答えた。顔が熱くなっているのが、自分でも分かる。
「次の問題も、頑張ろう」
「……うん」
一時間ほど勉強を続けると、蓮が立ち上がった。
「ちょっと、トイレ行ってくる」
「ああ」
蓮が席を離れると、俺は一人で教科書を眺めていた。さっきの距離の近さを思い出す。胸が、まだドキドキしている。
その時、後ろから声がかかった。
「春川くん?」
振り返ると、凛音が立っていた。ギャル風のメイクに派手なアクセサリー。
「橘……」
「勉強してるんだ。偉いね」
凛音は俺の隣の席に、無遠慮に座った。蓮が座っていた席に。
「私も頑張らないと。ねえ、春川くん」
凛音は少し身体を寄せてきた。その距離が、近い。
「この問題、分からないんだけど。教えてくれない?」
凛音は自分のノートを俺の前に差し出した。凛音の香水の香りが鼻をくすぐる。蓮とは違う、少し大人びた香りだ。
「ああ……でも、俺もあんまり得意じゃないんだけど」
「春川くんが教えてくれるなら、頑張れる気がする」
凛音は微笑んだ。その笑顔には、何か意味ありげなものが含まれている。
「この古文なんだけど……」
俺が説明し始めたその時、蓮が戻ってきた。そして、蓮の表情が一瞬固まった。その瞳が、明らかに険しくなる。
「……橘さん」
蓮の声は、いつもより明らかに冷たい。その声には、抑えきれない怒りが滲んでいる。
「そこ、私の席なんですけど」
「あ、鈴波副会長。おかえりなさい」
凛音は涼しい顔で立ち上がった。
「ちょっと分からない問題があって、春川くんに教えてもらってたの」
「……そうですか」
蓮の表情は、笑顔を作っているが、その目は全く笑っていない。むしろ、怒りの炎が燃えている。
「でも、人の席に勝手に座るのは、どうかと思いますけど」
蓮ははっきりと言った。その声には、遠慮がない。
「あら、ごめんなさい。でも、席が空いてたから」
「空いてたんじゃなくて、私が一時的に離れていただけです」
蓮の声は、さらに厳しくなる。
「それに、彼氏の隣に勝手に座るって、常識的にどうなんですか?」
蓮ははっきりと「彼氏」という言葉を強調した。その言葉には、強い主張が込められている。
「……そうね。ごめんね」
凛音は謝ったが、その表情には後悔の色は見られない。
「でも、春川くんは優しく教えてくれた。ありがとう、春川くん」
凛音はウインクして、自分の席に戻っていった。
蓮が席に座ると、俺に寄りかかってきた。いつもより明らかに強く。
「海斗」
「ん?」
「ごめん。ちょっと怒っちゃった」
「いや……」
「でも、許せなかった」
蓮は俺の腕を握る手に、力を込めた。
「海斗の隣は、私の場所なのに」
蓮の声には、強い独占欲が込められている。
「蓮……」
「橘さん、わざとやってるよね。私がいない間に、海斗の隣に座って」
「多分、そうだと思う」
「やっぱり……」
蓮は俺の腕に、もっと強く寄りかかってきた。
「海斗は私のものなのに」
「分かってるよ」
俺は蓮の頭を撫でた。蓮の髪が、指の間をすり抜けていく。
「俺は、蓮だけのものだ」
俺ははっきりと言った。
「……ありがとう」
蓮は少し安心したように微笑んだ。でも、その瞳には、まだ怒りの名残がある。
「でも、次また橘さんが海斗の隣に座ろうとしたら、絶対に許さない」
蓮ははっきりと宣言した。
「海斗の隣は、私だけの特等席なんだから」
「蓮……」
蓮の強い想いに、俺の胸が熱くなる。
「じゃあ、続き頑張ろうか」
「ああ」
再び勉強を始めた。蓮は時々、チラリと凛音の方を見ている。その視線には、明確な警戒心が込められている。
次は理科。蓮が理科の教科書を開く。
「この化学式、覚えてる?」
「……微妙」
「じゃあ、語呂合わせで覚えよう」
蓮はノートに語呂合わせを書いていく。
「ほら、これなら覚えやすいでしょ?」
蓮が俺の方を向いた。その顔が、また近い。蓮の瞳が、俺を見つめている。
「確かに」
夕方になり、図書館を出た。外の空気は、図書館の中よりも温かい。
「今日も、お疲れ様」
「蓮も」
駅までの道を、手を繋いで歩く。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「明日も、一緒に勉強しようね」
「ああ」
「でも、明日は土曜日だから、一日中勉強できるね」
「一日中?」
「うん。朝から私の家に来て、一緒に勉強しよう」
蓮は嬉しそうに提案した。蓮の家。二人きりの空間。
「お昼ご飯も作るから」
蓮は少し照れた表情を浮かべた。
「それに……二人きりで、ゆっくり勉強できるから」
その言葉には、「橘さんに邪魔されない」という意味が明確に込められている。
「私の家なら、誰にも邪魔されない」
「それは嬉しいな」
「じゃあ、決まり」
駅の改札前で、蓮が立ち止まった。
「じゃあ、また明日」
「ああ」
別れ際、蓮が俺の頬にキスをした。柔らかい感触が、頬に残る。
「海斗」
「ん?」
「橘さんには、絶対に負けないから」
蓮ははっきりと宣言した。
「海斗の隣に座れるのは、私だけ。海斗は、私だけのものだから」
「分かってるよ」
俺は蓮を抱き寄せた。
「俺が見てるのは、蓮だけだ」
「……ありがとう」
蓮は幸せそうに微笑んだ。
「おやすみ、海斗」
「おやすみ、蓮」
蓮が改札を通っていく。その後ろ姿を見送りながら、俺は思った。凛音の存在が、蓮を不安にさせている。でも、同時に、蓮の強い想いを改めて感じた。俺の気持ちは揺るがない。蓮だけを、ずっと愛し続ける。
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