彼女とのテスト勉強
文化祭が終わり、二週間が経った。
学校は再び日常のリズムを取り戻していた。廊下を歩く生徒たちの表情にも、文化祭の興奮は薄れ、いつもの落ち着きが戻っている。俺と蓮の関係も、すっかり学校に定着していた。もう誰も驚かない。むしろ、当たり前のように受け入れられている。
いつものように昇降口で待っていると、蓮が笑顔で現れた。朝の光を浴びた蓮の姿が、眩しく見える。
「おはよう、海斗」
「おはよう」
蓮は自然に俺の手を握り、二人で校舎に入る。蓮の手の温もりが、朝の冷たい空気の中で心地よく感じられた。
廊下の掲示板に、一枚の張り紙が貼ってあった。『期末テスト日程のお知らせ』という文字が、目に飛び込んでくる。
「あ……」
蓮が立ち止まった。
「もうテストの時期か」
「そうだな」
俺も掲示板を見た。期末テストまで、あと二週間。胃が重くなる。また試練が来た。文化祭という大きなイベントを乗り越えたばかりなのに、次はテストだ。
「海斗、テスト勉強してる?」
「いや、まだ全然」
「やっぱり」
蓮は呆れたように笑った。その笑顔には、非難ではなく、優しさが込められている。
「海斗、文化祭の準備で忙しかったもんね」
「蓮もだろ」
「私は、合間を縫って勉強してた」
蓮は得意げに胸を張った。生徒会副会長としての責任感が、蓮を突き動かしているのだろう。
「生徒会副会長として、赤点は取れないから」
「さすがだな」
「でも、海斗は大丈夫?」
蓮は心配そうに俺を見た。その瞳には、俺への気遣いが滲んでいる。蓮の優しさが、俺の胸を温かくする。
「前回のテスト、結構ギリギリだったって聞いたけど」
「……そうなんだよな」
俺は頭を掻いた。前回のテストは、夢のデマで精神的に参っていた時期だった。当然、成績も散々だった。あの時の絶望感が、まだ心のどこかに残っている。
「今回こそは、ちゃんと勉強しないとな」
「じゃあ――」
蓮は俺の手を握った。蓮の手は温かい。その温もりが、俺に勇気をくれる。
「私が、海斗に勉強教えてあげる」
「え?」
「彼女が彼氏に勉強教えるの、普通でしょ?」
蓮は微笑んだ。その笑顔には、俺への愛情が満ちている。
「それに、海斗が赤点取ったら心配だし」
「蓮……」
「だから、一緒に勉強しよう」
「……ありがとう」
俺は蓮の優しさに、胸が熱くなった。こんなに俺のことを想ってくれる人がいる。それだけで、頑張れる気がした。蓮の存在が、俺の支えになっている。
「じゃあ、今日の放課後から?」
「ああ、お願いする」
教室に入ると、クラスメイトたちがテストの話題で盛り上がっていた。あちこちで、焦りの声が聞こえてくる。文化祭の余韻に浸っている暇はなかったようだ。
「やばい、全然勉強してない」
「俺も。文化祭で燃え尽きたわ」
「でも、今回赤点取ったら、夏休みの補習だぞ」
「マジかよ……」
隣の男子が俺に話しかけてきた。その表情には、焦りと不安が混じっている。
「春川、お前は大丈夫なのか?」
「いや、全然」
「だよな。文化祭の準備、忙しかったもんな」
男子は同情するように言った。
「でも、鈴波副会長がいるから大丈夫か」
「え?」
「勉強、教えてもらえるだろ? 羨ましいな」
男子はニヤニヤしながら言った。
「彼女と一緒に勉強とか、最高じゃん」
「まあ……そうかもな」
俺は少し照れながら答えた。確かに、蓮と一緒に勉強できるのは嬉しい。でも、それ以上に蓮の優しさが嬉しかった。
授業が始まり、先生がテストの範囲を説明し始めた。黒板にチョークで書かれていく文字を見て、俺の不安は膨らんでいく。
「期末テストの範囲は、教科書のここからここまで――」
黒板に書かれていく範囲を見て、俺は頭を抱えた。広い。かなり広い。これ、二週間で全部やるのか……? 絶望的な気持ちが、俺の心を覆い始める。
「それから、今回のテストは夏休み前最後のテストです」
先生は続けた。その声には、重みがある。
「赤点を取ると、夏休みに補習があります。皆さん、しっかり勉強してください」
教室がざわついた。生徒たちの焦りが、空気を通して伝わってくる。
「マジで補習とかやばい」
「夏休み潰れる……」
「頑張るしかないな」
俺も焦りを感じ始めていた。夏休みに補習なんて、絶対に避けたい。蓮と過ごす時間が減ってしまう。
昼休み、屋上で蓮と合流した。いつもの場所。いつもの時間。この日常が、どれだけ幸せなことか。
「お疲れ様」
「蓮も」
二人で並んでフェンスにもたれかかると、蓮が弁当箱を取り出した。毎日、俺のために弁当を作ってくれる蓮。その愛情が、嬉しくて仕方ない。
「今日も作ってきた」
「ありがとう」
俺は弁当箱を受け取り、蓋を開けた。今日は、生姜焼き、卵焼き、ブロッコリー、そしてミニトマトが入っていた。彩りも栄養バランスも完璧だ。
「いただきます」
二人で並んで弁当を食べる。屋上から見える景色。青い空。白い雲。そして、隣にいる蓮。全てが、幸せな時間を作り出している。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「テストの範囲、見た?」
「ああ。めちゃくちゃ広いな」
「そうなの。文化祭前の授業も入ってるから」
蓮は少し困った表情を浮かべた。その表情さえ、俺には愛おしく見える。
「でも、大丈夫。私が教えるから」
「頼りにしてる」
「うん」
蓮は微笑んだ。その笑顔が、俺の不安を和らげてくれる。
「放課後、私の家に来て。そこで勉強しよう」
「いいのか?」
「もちろん。その方が、集中できるでしょ?」
「そうだな」
弁当を食べ終えると、蓮が俺の肩に頭を預けてきた。蓮の温もりが、俺の肩から伝わってくる。この感触が、どうしようもなく愛おしい。蓮の髪から漂う優しい香り。その香りが、俺の心を満たしていく。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「テスト、一緒に頑張ろうね」
「ああ」
俺は蓮の手を握った。蓮の手は、いつも温かい。この温もりが、俺に力をくれる。
「蓮と一緒なら、頑張れる」
「……私も」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
「海斗が隣にいてくれるだけで、嬉しい」
「蓮……」
「だから、一緒に乗り越えよう」
「ああ、絶対に」
午後の授業を終え、俺は蓮と一緒に彼女の家に向かった。夕方の日差しが、二人の影を長く伸ばしている。手を繋いで歩く道。この時間が、何よりも幸せだ。
「ただいま」
蓮が鍵を開けて部屋に入る。
「お邪魔します」
俺も後に続いた。蓮の部屋は、いつ来ても清潔で整理されている。蓮の几帳面な性格が、部屋にも表れていた。
「じゃあ、早速始めよう」
蓮はテーブルに教科書とノートを広げた。その手際の良さに、俺は感心する。
「まず、どの科目が苦手?」
「数学と英語かな」
「分かった。じゃあ、数学から始めよう」
蓮は数学の教科書を開いた。ページをめくる音が、静かな部屋に響く。
「ここの単元、分かる?」
「……いや、正直よく分からない」
「そっか。じゃあ、基礎から教えるね」
蓮は丁寧に説明し始めた。公式の使い方、問題の解き方。蓮の説明は、学校の先生よりも分かりやすかった。蓮の真剣な横顔を見ていると、胸が温かくなる。こんなに一生懸命、俺のために教えてくれている。その姿が、どうしようもなく愛おしい。
「ここはね、こうやって解くの」
蓮がノートに式を書いていく。その手つきは流れるように滑らかで、迷いがない。
「分かった?」
「ああ、何となく」
「じゃあ、この問題やってみて」
蓮が問題集を指差した。俺は言われた通りに問題を解き始めた。蓮に教えてもらったばかりの知識を、必死に思い出しながら。
「……できた」
「見せて」
蓮は俺のノートを覗き込んだ。蓮の顔が、すぐ近くにある。蓮の息遣いまで聞こえてきそうな距離だ。この距離感が、俺の心臓を高鳴らせる。
「うん、正解! すごいじゃん、海斗!」
「蓮の教え方が上手いからだよ」
「そうかな」
蓮は照れた表情を浮かべた。その頬が、ほんのり赤く染まっている。
「じゃあ、次の問題も頑張ろう」
二時間ほど勉強を続けると、蓮が立ち上がった。時計を見ると、もうこんな時間か。集中していると、時間があっという間に過ぎていく。
「ちょっと休憩しよう。お茶淹れるね」
「ありがとう」
蓮がキッチンに向かう間、俺は教科書を眺めていた。蓮と一緒だと、勉強も苦じゃない。むしろ、楽しい。こんな風に感じるなんて、以前の俺からは想像もできなかった。
「はい、お茶」
蓮がマグカップを持ってきた。湯気が立ち上り、お茶の香りが部屋に広がる。
「ありがとう」
俺が一口飲むと、蓮は俺の隣に座った。蓮の温もりが、すぐ隣にある。この距離が、心地いい。蓮との時間は、いつも幸せで満ちている。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「勉強、楽しい?」
「蓮と一緒だから、楽しい」
「……ずるい」
蓮は顔を赤らめた。その表情が、可愛くて仕方ない。
「そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃう」
「本当のことだよ」
俺は蓮の手を握った。蓮の手は、いつも温かい。この温もりが、俺の全てを満たしてくれる。
「蓮と一緒なら、何でも頑張れる」
「私も」
蓮は俺の肩に頭を預けた。蓮の髪から、優しい香りが漂ってくる。この幸せな時間を、ずっと忘れたくない。蓮の温もり。蓮の香り。蓮の存在。全てが、俺にとってかけがえのないものだ。
しばらくそうしていると、蓮が顔を上げた。名残惜しそうに、ゆっくりと。
「じゃあ、続き頑張ろうか」
「ああ」
再び勉強を始めた。次は英語。蓮は教科書を開き、単語帳を取り出した。
「海斗、この単語覚えてる?」
「……いや」
「じゃあ、一緒に覚えよう」
蓮との勉強は、まるでゲームのようだった。楽しみながら学べる。こんな経験は、初めてだった。
「私が単語を読むから、海斗が意味を答えて」
「分かった」
「じゃあ、いくよ。『persevere』」
「え……と……」
俺は必死に考えた。蓮の期待に応えたい。その一心で、記憶を探る。
「『辛抱する』?」
「正解! すごい!」
蓮は嬉しそうに笑った。その笑顔を見ると、もっと頑張ろうという気持ちが湧いてくる。
「じゃあ、次。『diligent』」
「『勤勉な』」
「正解!」
蓮との勉強は、ゲームみたいで楽しかった。正解するたびに、蓮が喜んでくれる。その笑顔が見たくて、俺はもっと頑張れる。
夕方になり、俺は蓮の家を出た。外はすっかり暗くなっている。街灯が、道を照らしていた。
「今日は、ありがとう」
「ううん。また明日も続きやろうね」
「ああ」
別れ際、蓮が俺の頬にキスをした。その柔らかい感触が、俺の頬に残る。
「おやすみ、海斗」
「おやすみ、蓮」
家に帰り、ベッドに横になる。今日の疲れが、身体に心地よく残っている。でも、それは充実した疲れだった。
スマホを見ると、蓮からメッセージが届いていた。
『今日はお疲れ様。海斗、勉強頑張ってたね。明日も一緒に頑張ろう。おやすみ』
俺は返信を打った。
『蓮のおかげで、勉強が楽しかった。明日も、よろしく。おやすみ』
送信すると、すぐに既読がついた。そして、ハートマークのスタンプが送られてきた。蓮らしい、可愛らしいスタンプだ。
「蓮……」
俺は思わず、スマホを抱きしめた。
テストまで、あと二週間。蓮と一緒なら、絶対に乗り越えられる。そう信じて、俺は目を閉じた。明日も、蓮と一緒に頑張ろう。蓮の笑顔が思い浮かぶ。その笑顔のために、俺は頑張れる。胸の奥に、温かいものが広がっていった。蓮への愛情が、俺の心を満たしていく。この幸せを、ずっと守り続けたい。その想いを胸に、俺は深い眠りについた。
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