文化祭 閉幕
文化祭も終盤に差し掛かり、夕方の光が校舎を照らしていた。
俺と蓮は最後の見回りをしながら、各クラスの片付けを確認していた。廊下を歩くと、あちこちから片付けの音が聞こえてくる。
「みんな、いい表情してるね」
蓮が嬉しそうに言った。
疲れているはずなのに、どのクラスの生徒たちも満足そうな笑顔を浮かべていた。その笑顔が、今日一日の充実を物語っている。
「ああ。やり切った顔だ」
「うん」
一年C組の前を通ると、カフェとお化け屋敷のメンバーが一緒に片付けをしていた。あれだけ対立していたのに、今は仲良く協力している。
「鈴波副会長! 春川くん!」
クラス委員長が手を振った。
「今日は本当にありがとうございました! おかげで、クラス全員が協力できました!」
「よかったね」
蓮は微笑んだ。
「お疲れ様」
三年B組の展示も片付けが進んでいた。
「春川くん、鈴波副会長」
クラス委員長が声をかけてきた。
「午前中の混雑対応、本当に助かりました。おかげで、たくさんの人に見てもらえました」
「それは良かった」
俺が答えると、委員長は嬉しそうに笑った。
「来年も、こんな文化祭にしたいです」
生徒会室に戻ると、桐谷と美咲、野村が待っていた。
「お疲れ様、二人とも」
桐谷が労いの言葉をかけた。
「今年の文化祭、大成功だったな」
「はい」
蓮は少し照れた表情を浮かべた。
「みんなが協力してくれたおかげです」
「でも、蓮と春川くんがいなかったら、ここまでうまくいかなかった」
美咲が言った。
「二人とも、本当にお疲れ様でした」
「ありがとうございます」
野村も頷いた。
「特に、午後のステージ。鈴波副会長の歌、すごかったです」
「……ありがとう」
蓮は恥ずかしそうに俯いた。その頬が、少し赤く染まっている。
「さて、そろそろ閉会式の時間だ」
桐谷が時計を見た。
「蓮、準備はいいか?」
「はい」
「じゃあ、行こう」
体育館に向かう途中、蓮が俺の手を握ってきた。
「海斗」
「ん?」
「今日、本当にありがとう」
「俺こそ。蓮と一緒だったから、乗り越えられた」
「……うん」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
※ ※ ※
体育館に到着すると、すでに全校生徒が集まっていた。みんな、疲れた表情の中にも満足感が滲んでいる。
閉会式が始まり、桐谷が壇上に立った。
「皆さん、今日は本当にお疲れ様でした」
桐谷の言葉に、会場から拍手が起こった。
「今年の文化祭は、過去最高の来場者数を記録しました」
会場がどよめいた。
「これは、皆さん一人一人が全力で取り組んでくれた結果です」
桐谷は続けた。
「そして、特に感謝したいのが――」
桐谷は蓮を見た。
「生徒会副会長の鈴波蓮と、彼女を支えてくれた春川海斗くんです」
会場から、大きな拍手が起こった。
俺の胸が熱くなる。蓮の頑張りが、こうして認められている。その事実が、俺の心を満たしていく。
「二人は、準備期間中も当日も、数々のトラブルを解決してくれました」
桐谷の言葉に、生徒たちが頷いている。
「予算不足、人手不足、当日のトラブル。全てを乗り越えて、この文化祭を成功させてくれました。それに、午後のステージ。鈴波副会長が急遽ボーカルを務めてくれたことも、みんな知っての通りです」
会場から、さらに大きな拍手が起こった。
「鈴波副会長、春川くん。本当にありがとう」
桐谷は深々と頭を下げた。
蓮は照れた表情で立ち上がり、小さくお辞儀をした。
俺も慌てて立ち上がり、頭を下げた。
会場の拍手は、なかなか鳴り止まなかった。その拍手が、俺たちの頑張りを認めてくれている。
閉会式が終わり、生徒たちが体育館から出ていく。
俺と蓮は、しばらく椅子に座ったままだった。
「終わったね」
蓮が静かに呟いた。
「ああ」
「すごく長かった気がするけど、あっという間だった」
「そうだな」
俺は蓮の手を握った。
蓮の手は温かい。この温もりと一緒に、俺たちは文化祭を乗り越えてきた。この手を握っていると、全てを乗り越えられる気がする。
「でも、最高の文化祭だった」
「……うん」
蓮は俺の肩に頭を預けた。
「海斗と一緒だったから、楽しかった」
その時、体育館の入口から声がかかった。
「鈴波さん!」
振り返ると、一人の男性が立っていた。
見覚えのある顔――閉店予定の飲食店の店主だった。
「店主さん!」
蓮は驚いた表情で立ち上がった。
「来てくださったんですか!?」
「ああ。君たちが頑張ってる姿、見たくてね」
店主は優しく微笑んだ。
「素晴らしい文化祭だったよ」
「……ありがとうございます」
蓮の目に、涙が浮かんだ。
「店主さんに、見てもらえて……嬉しいです」
「こっちこそ、ありがとう」
店主は蓮の肩を叩いた。
「君たちのおかげで、最後にいい思い出ができた」
「店主さん……」
蓮は涙をこらえきれず、泣き始めた。
俺の胸も熱くなる。蓮の想いが、店主さんに届いた。蓮の優しさが、こうして報われている。
「ごめんなさい……私……」
「泣かなくていいよ」
店主は優しく言った。
「嬉し涙だろう?」
「……はい」
蓮は涙を拭いた。
「本当に、ありがとうございました」
「写真、楽しみにしてるよ」
店主はそう言うと、体育館を出て行った。
蓮は俺の胸に顔を埋めて、しばらく泣いていた。
「海斗……」
「どうした?」
「嬉しくて……涙が止まらない」
蓮の声が震えている。
「私たちの文化祭、店主さんに喜んでもらえて……」
「ああ。良かったな」
俺は蓮を抱きしめた。
蓮の身体が、小さく震えている。嬉し涙なんだ。蓮の優しさが、俺の胸を満たしていく。蓮のこの優しさが、俺は大好きだ。
「蓮が頑張ったから、みんなが幸せになれた」
「……ありがとう」
蓮は顔を上げて、俺を見つめた。
「海斗がいてくれたから、ここまでこれた」
「俺も」
俺は蓮の涙を拭った。
蓮の頬は柔らかくて、温かい。この温もりを、ずっと感じていたい。
「蓮と一緒だったから、頑張れた」
二人で体育館を出ると、夕日が校舎を赤く染めていた。
「綺麗だね」
蓮が呟いた。
「ああ」
「ねえ、海斗」
「ん?」
「屋上、行かない?」
「屋上?」
「うん。二人だけで、ゆっくり話したい」
「……いいな」
※ ※ ※
俺たちは校舎の階段を上り、屋上に向かった。
屋上に出ると、夕日が二人を包み込んだ。空が、オレンジ色に染まっている。
蓮はフェンスに寄りかかり、空を見上げた。
「今日、色々あったね」
「ああ」
「開会式の挨拶、すごく緊張した」
「でも、成功したじゃないか」
「海斗が励ましてくれたから」
蓮は俺を見た。
「それから、午前中のトラブル。食材不足も、混雑も、全部解決できた」
「二人で協力したからな」
「うん」
蓮は微笑んだ。
「そして、午後のステージ。まさか、自分が歌うことになるなんて思わなかった」
「蓮の歌声、最高だったよ」
「……ありがとう」
蓮は恥ずかしそうに俯いた。
「海斗が見ててくれたから、頑張れた」
「蓮」
「ん?」
俺は蓮の手を握った。
「今日、蓮がどれだけ頑張ったか、俺は全部見てた」
「海斗……」
「開会式で、みんなを鼓舞した蓮。トラブルを冷静に解決した蓮。そして、急遽ステージで歌った蓮」
俺は続けた。
「全部、かっこよかった」
「……っ」
蓮の目に、また涙が浮かんだ。
「海斗、ずるい」
「ずるい?」
「そんなこと言われたら、また泣いちゃう」
蓮は涙を拭いた。
「でも、嬉しい」
「蓮」
俺は蓮を抱き寄せた。
「これからも、ずっと一緒だからな」
「……うん」
蓮は俺の胸に顔を埋めた。
蓮の温もりが、俺を満たしていく。この幸せな瞬間を、ずっと忘れたくない。蓮の存在が、俺の全てだ。
「海斗と一緒なら、どんなことでも乗り越えられる」
「俺も」
俺は蓮の髪を撫でた。
「蓮がいれば、何も怖くない」
夕日が、少しずつ沈んでいく。
空が、オレンジ色からピンク色に変わっていく。その美しい空が、二人を包み込んでいる。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ」
俺は即答した。
「俺は、ずっと蓮の隣にいる」
「……ありがとう」
蓮は顔を上げて、俺を見つめた。
「私も、ずっと海斗の隣にいる」
俺は蓮の頬に手を添えた。
「蓮」
「海斗……」
俺たちの顔が、ゆっくりと近づいていく。
そして――
唇が、重なった。
柔らかくて、温かい。
何度キスをしても、慣れることはなかった。
むしろ、キスをするたびに、蓮への愛情が深まっていく。この感覚を、ずっと忘れたくない。
離れると、蓮は幸せそうに微笑んでいた。
「海斗、大好き」
「俺も」
俺は蓮を抱きしめた。
「蓮のこと、本当に愛してる」
「……っ」
蓮は俺の胸に顔を埋めた。
「海斗、そんなこと言ったら……恥ずかしい」
「でも、本当のことだから」
「……私も」
蓮は小さく呟いた。
「海斗のこと、本当に愛してる」
夕日が完全に沈み、空が暗くなり始めた。
「そろそろ帰ろうか」
「うん」
※ ※ ※
二人で屋上を後にして、校舎を出た。
校門の前で、蓮が立ち止まった。
「海斗」
「ん?」
「明日、店主さんのところに写真持って行こうね」
「ああ、約束だからな」
「うん」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
「それと――」
「それと?」
「明日、デートしようよ。文化祭のお祝いに」
「いいな」
俺は頷いた。
「どこ行きたい?」
「まだ決めてないけど……海斗と一緒なら、どこでも楽しい」
「じゃあ、明日考えよう」
「うん」
駅までの道を、手を繋いで歩く。
今日は、本当に長い一日だった。
でも、充実していた。
蓮と一緒に作り上げた文化祭。
それは、俺たちの大切な思い出になった。この思い出を、一生忘れない。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「今日、幸せだった」
「俺も」
「これから、もっともっと幸せになろうね」
「ああ、絶対に」
駅の改札前で、蓮が俺の頬にキスをした。
「おやすみ、海斗」
「おやすみ、蓮」
蓮が改札を通っていくのを見送りながら、俺は思った。
文化祭は成功した。でも、これは終わりじゃない。蓮との新しい日々が、これから始まる。そう思うと、明日が楽しみで仕方なかった。
※ ※ ※
その頃、校舎の影から二人の姿を見つめる人影があった。
橘凛音だった。
凛音は春川と鈴波が改札に消えていくのを、じっと見つめていた。その瞳には、複雑な感情が混じっている。
「……仲いいよね」
凛音は小さく呟いた。
スマホを取り出し、春川とのLINEを見つめる。既読のついていないメッセージが、いくつも並んでいた。
『今日もお疲れ様! 春川くん、かっこよかったよ!』
『ねえ、返信くれないの寂しいんだけど』
『鈴波副会長の歌、すごかったね。でも、春川くんの方が気になっちゃった』
全て、既読すらついていない。
「……そっか」
凛音は寂しそうに微笑んだ。
「春川くん、本当に鈴波副会長のことしか見てないんだ」
スマホをポケットにしまい、凛音は夜空を見上げた。
「でも……諦めないよ」
凛音の瞳に、強い決意の光が宿る。
「春川くんみたいな人、他にいないもん」
凛音は静かに呟いた。
「鈴波副会長が春川くんを幸せにできなかったら、その時は私が……」
そう言い残して、凛音は夜の闇に消えていった。
その表情には、諦めと決意が混じっていた。純粋な想いと、揺れ動く心。凛音の胸の中には、春川への想いがまだ燃えていた。
※ ※ ※
家に帰り、ベッドに横になる。
スマホを見ると、蓮からメッセージが届いていた。
『今日は本当にお疲れ様。海斗と一緒に文化祭を成功させられて、最高に幸せだった。明日も楽しみにしてるね。おやすみ』
俺は返信を打った。
『こっちこそ。蓮と一緒だったから、最高の文化祭になった。明日、楽しもうな。おやすみ』
送信すると、すぐに既読がついた。
そして、ハートマークのスタンプが送られてきた。
「蓮……」
俺は思わず、スマホを抱きしめた。
明日は、蓮とデート。楽しみで、眠れそうになかった。でも、疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。
夢の中で、俺は蓮と笑っていた。
蓮の笑顔が、俺の全てだ。この幸せを、ずっと守り続けたい。
そんな想いを胸に、俺は深い眠りについた。
文化祭は終わった。でも、蓮との物語は、まだ始まったばかりだ。これから、もっともっと幸せな日々が待っている。その確信が、俺の心を満たしていた。
そして、俺の知らないところで、凛音の想いが静かに燃え続けていることを、俺はまだ知らない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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