俺たちで作り上げる文化祭
「本当にありがとうございました!」
委員長が深々と頭を下げた。
「いえ、頑張ったのはみんなです」
蓮は疲れた表情ながらも、満足そうに微笑んでいた。その笑顔が、どんなに疲れていても輝いている。
校舎を出ると、蓮が俺の腕に寄りかかってきた。蓮の身体が、俺の腕に預けられる。その重みが、どうしようもなく愛おしい。
「疲れたね」
「ああ。でも、いい疲れだ」
「うん」
蓮は俺を見上げた。その瞳には、疲労と幸福が混じっている。
「海斗、いつもありがとう。私だけじゃ、こんなにうまくいかなかった」
「蓮だって、すごいよ。クラスをまとめる力、誰にも負けない」
「……ありがとう」
蓮は嬉しそうに笑った。
その時、蓮が俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「今日、海斗がいてくれて本当によかった」
蓮は俺の腕に頬を寄せた。
「一人だったら、きっと諦めてた。でも、海斗が隣にいてくれるから、頑張れる」
「俺も、蓮がいるから頑張れる」
俺は蓮の頭を撫でた。柔らかい髪が、指の間をすり抜けていく。
「二人で作り上げる文化祭だからな」
「……うん」
蓮は幸せそうに目を細めた。
※ ※ ※
翌日、俺の友人が学校に来て、三年C組の音響設備を見てくれた。友人は手慣れた様子で機材を点検していく。その姿は、プロのエンジニアのようだった。
「ああ、これなら直せる」
友人は自信満々に言った。
「配線が一本外れてただけだ。すぐ直すよ」
十分後、音響設備は完璧に動くようになった。
「すごい! 音が出た!」
三年C組の生徒たちが歓声を上げた。教室の中が、一気に明るい雰囲気に包まれる。まるで、諦めかけていた希望が、再び灯ったような変化だった。
「本当にありがとうございます!」
「いいよ。頑張ってな、文化祭」
友人は笑って帰っていった。
「よかったね」
蓮が俺の手を握った。蓮の手は温かい。その温もりが、俺の手のひらから伝わってくる。
「海斗の友達、いい人だね」
「ああ。昔から頼りになるやつなんだ」
「海斗って、頼りになる友達がいて羨ましい」
蓮は少し寂しそうに微笑んだ。
「私、生徒会の仕事ばっかりで、あんまり友達作れてないから」
「蓮には、俺がいるだろ」
俺は蓮の手を握り返した。
「俺が、蓮の一番の味方だ」
「……ずるい」
蓮は顔を赤らめた。
「そういうこと言うの、反則」
「本当のことだよ」
「……ありがとう、海斗」
蓮は嬉しそうに俺の腕に抱きついた。
その時、生徒会の会計、野村が慌てて走ってきた。その表情には、明らかな焦りが浮かんでいる。息を切らしながら、必死に駆け寄ってくる姿を見て、俺は嫌な予感がした。
「蓮! 大変だ!」
「どうしたの?」
「協賛企業の一つが、広告掲載を断ってきた!」
「え? なんで?」
「詳しい理由は言わなかったけど、とにかく広告は出せないって……」
蓮は顔色を変えた。その表情から、血の気が引いていく。
「それって、五万円協賛してくれた企業だよね?」
「そう……返金しなきゃいけないかもしれない」
「でも、もう予算は全部配分しちゃってる。返金する余裕なんて……」
蓮は頭を抱えた。その姿を見ていると、俺の胸も痛む。蓮が、こんなに追い詰められている。
「どうしよう……」
「落ち着いて」
俺が蓮の肩を叩いた。蓮の肩が、小刻みに震えている。その震えが、俺の手のひらから伝わってくる。
「まず、その企業に直接話を聞きに行こう。理由が分かれば、対処法も見つかる」
「……うん」
蓮は深呼吸をした。その胸が、大きく上下する。蓮は必死に、冷静さを取り戻そうとしている。
「そうだね。行ってみよう」
野村が去った後、蓮は俺の胸に顔を埋めた。
「海斗……不安」
「大丈夫だ。俺が一緒にいる」
俺は蓮を抱きしめた。
「蓮と俺で、一緒に解決しよう」
「……ありがとう」
蓮は俺の胸の中で、小さく頷いた。
「海斗がいてくれるだけで、安心する」
「俺も、蓮がいるから頑張れる」
しばらくそうしていると、蓮が顔を上げた。
「よし、行こう」
蓮の瞳には、もう迷いはなかった。俺の温もりが、蓮に勇気を与えたのだ。
※ ※ ※
放課後、俺と蓮はその企業を訪ねた。
駅前の小さな飲食店だった。店の前に立つと、少し古びた看板が目に入る。長年この場所で営業してきたことが、その佇まいから伝わってくる。年季の入った木製の扉、手書きの営業時間の張り紙。この店には、長い歴史があるのだろう。
「あの、先日協賛をお願いした者ですが……」
蓮が声をかけると、店主が申し訳なさそうに出てきた。
「ああ、学生さんたち。ごめんね、急に」
「どうして広告掲載を断られたんですか?」
「実は……うちの店、来月で閉店することになったんだ」
「え……」
俺も蓮も、言葉を失った。
「経営が厳しくて。だから、広告を出しても意味がないかなって」
店主は悲しそうに言った。その表情には、長年の苦労と諦めが滲んでいる。店を続けるために、どれだけの努力をしてきたのだろう。それでも、時代の波には勝てなかったのだ。
「でも、君たちの文化祭は応援したい。だから、協賛金は返さなくていい」
「本当ですか?」
「ああ。若い子たちが頑張ってる姿を見ると、元気をもらえるからね」
店主は優しく微笑んだ。その笑顔には、若者への期待と優しさが込められている。
「代わりに、文化祭の写真でも見せてもらえたら嬉しいな」
「……ありがとうございます」
蓮は涙ぐんだ。その瞳から、涙が溢れそうになっている。
「必ず、成功させます。そして、写真をたくさん持ってきます」
「楽しみにしてるよ」
店を出ると、蓮は俺の胸に顔を埋めた。蓮の身体が、小さく震えている。
「海斗……」
「どうした?」
「店主さん、すごく優しかった。お店が閉まるのに、私たちのことを応援してくれて……」
蓮は静かに泣いていた。その涙が、俺のシャツを濡らしていく。蓮の優しさが、俺の胸を満たしていく。こんなに人のことを想える蓮が、俺は大好きだ。
「絶対、成功させないと。店主さんのためにも」
「ああ、絶対成功させよう」
俺は蓮を抱きしめた。蓮の温もりが、俺の胸に伝わってくる。この温もりを、ずっと守りたい。
「蓮、泣くなよ」
俺は蓮の頭を優しく撫でた。
「海斗……ごめん……でも……」
「泣きたい時は、泣いていいんだぞ」
俺は蓮の背中を優しく叩いた。
「俺が、ずっと蓮の隣にいる」
「……うん」
蓮は俺の胸の中で、小さく頷いた。
しばらくそうしていると、蓮が顔を上げた。
「ありがとう、海斗」
蓮は涙を拭いて、微笑んだ。
「海斗がいてくれて、本当によかった」
「俺も、蓮がいてくれてよかった」
俺は蓮の頬に手を添えた。
「蓮と一緒なら、何でも乗り越えられる」
「……私も」
蓮は俺の手に自分の手を重ねた。
「海斗と一緒なら、どんなことも頑張れる」
※ ※ ※
文化祭まで、残り三日。
準備は最終段階に入っていた。校舎の中は、どこも活気に満ちている。生徒たちの表情には、期待と緊張が混じっている。教室からは、準備の音が絶えず聞こえてくる。
生徒会室では、最後の打ち合わせが行われていた。
「当日のタイムスケジュール、確認します」
蓮が資料を読み上げる。その声には、いつもの凛とした響きが戻っている。さっきまでの涙の跡は、もうどこにもない。
「開会式は九時から。各クラスの出し物は九時半から開始。ステージ企画は十時から――」
「待って」
桐谷が手を上げた。
「開会式の挨拶、誰がやるんだっけ?」
「会長の桐谷さんです」
「……実は、俺、人前で話すの苦手なんだよな」
桐谷は困った表情を浮かべた。
「蓮、代わりにやってくれないか?」
「え? でも、会長の役目ですよ」
「分かってる。でも、蓮の方が絶対うまくできる」
「……」
蓮は少し考えた後、俺を見た。その瞳には、不安と決意が混じっている。蓮は、俺の意見を求めている。
「海斗、どう思う?」
「蓮なら、できるよ」
俺は即答した。
「蓮の話し方、いつも説得力がある。みんなを鼓舞できる」
「……分かりました」
蓮は頷いた。その表情には、決意が浮かんでいる。不安を乗り越えて、前に進もうとする強さが、その瞳から伝わってくる。
「やります」
「ありがとう、蓮」
桐谷は安堵の表情を浮かべた。
打ち合わせが終わり、生徒会室を出た。廊下には、もう誰もいない。静かな校舎の中を、二人で歩いていく。窓の外は、すっかり暗くなっている。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「私、ちゃんと挨拶できるかな」
「大丈夫だよ」
俺は蓮の手を握った。蓮の手は、少し冷たい。緊張しているんだ。
「蓮は、今まで色んな問題を解決してきた。挨拶なんて、簡単だろ」
「でも……緊張する」
「緊張したら、俺を見て」
俺は蓮を見つめた。
「俺が、ずっと蓮を見てるから」
「……ずるい」
蓮は顔を赤らめた。
「そんなこと言われたら、余計緊張しちゃう」
「じゃあ、緊張をほぐしてやろうか?」
俺は蓮を抱き寄せた。蓮の身体が、俺の腕の中に収まる。この感触を、ずっと忘れたくない。
「海斗!? ここ、廊下だよ!?」
「誰もいないから大丈夫」
俺は蓮の額にキスをした。蓮の肌は柔らかくて、温かい。その温もりが、俺の唇から伝わってくる。
「頑張れ、蓮」
「……うん」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
「海斗がいれば、何でもできる気がする」
「俺も、蓮がいれば何でもできる」
俺は蓮を抱きしめたまま、そっと囁いた。
「蓮は、俺の勇気の源だから」
「……海斗」
蓮は俺の胸に顔を埋めた。
「私も、海斗が勇気をくれる」
「じゃあ、お互い様だな」
「うん」
蓮は顔を上げて、俺を見つめた。
「海斗、もう一回……キスして」
「ん」
俺は蓮の頬に手を添え、今度はゆっくりと唇を重ねた。
柔らかくて、温かい。何度キスをしても、この温もりに慣れることはない。
離れると、蓮は恥ずかしそうに笑った。
「海斗とのキス、大好き」
「俺も」
「これで、元気が出た」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
「明日から、また頑張れる」
※ ※ ※
校舎を出て、二人で帰路につく。夜空には、星が輝き始めている。
明後日は、いよいよ文化祭前日。
準備も大詰めを迎える。
「海斗」
「ん?」
「文化祭、絶対成功させようね」
「ああ」
俺は蓮の手を握り締めた。蓮の手は、もう冷たくない。温かい。俺の温もりが、ちゃんと伝わっている。
「二人で作り上げた文化祭だ。絶対成功する」
「……うん」
蓮は幸せそうに微笑んだ。
夜空には、満月が輝いていた。その光が、二人を優しく照らしている。これから始まる文化祭への期待が、俺の胸を満たしていく。
蓮と一緒なら、どんなことも乗り越えられる。その確信が、俺の中にあった。駅までの道を、手を繋いで歩く。蓮の手は温かい。この温もりを、ずっと感じていたい。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「今日も、私の家に来る?」
蓮は少し照れた表情で尋ねた。
「夕飯、作るから」
「いいのか?」
「うん。海斗と一緒にいたい」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「やった!」
蓮は嬉しそうに俺の腕に抱きついた。
明後日から始まる文化祭。店主さんの期待に応えるためにも、絶対に成功させる。そして、たくさんの写真を持っていく。
蓮と一緒に作り上げた文化祭。それは、俺たちの大切な思い出になる。
そう信じて、俺たちは前を向いて歩いていった。
蓮と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。
そして、最高の文化祭を作り上げることができる。
俺は、そう確信していた。
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