企業訪問と新たな壁
翌日の放課後、俺と蓮は駅前の商店街を歩いていた。
「まずは、この喫茶店から回ってみよう」
蓮は手にした訪問リストを確認しながら言った。
「地域密着型の店なら、学校のイベントに協力してくれる可能性が高い」
「分かった」
俺たちは喫茶店に入り、店主に文化祭への協賛を依頼した。
「高校の文化祭ですか。いいですね、青春って感じで」
店主は笑顔で応じてくれた。
「うちは小さな店ですが、一万円なら出せますよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
蓮は深々と頭を下げた。
その後も、書店、パン屋、クリーニング店と回り、合計で五万円の協賛を集めることができた。
「順調だね」
俺が言うと、蓮は嬉しそうに頷いた。
「うん。でも、まだ十五万円足りない」
「大きな企業にも当たってみるか」
「そうだね。明日は、駅ビルのテナント企業を回ってみよう」
蓮は俺の腕に抱きついた。
「海斗、ありがとう。一緒に回ってくれて」
「当たり前だろ。蓮のためなら、何でもする」
「……ずるい」
蓮は顔を赤らめた。
「そんなこと言われたら、ドキドキしちゃう」
翌日、俺たちは駅ビルの企業を回った。
しかし、結果は芳しくなかった。
「すみません、今年は予算が厳しくて……」
「学生さんの活動は応援したいんですけど、うちも余裕がなくて」
次々と断られる。
十社回って、協賛してくれたのは一社だけ。三万円だった。
「……厳しいな」
俺が呟くと、蓮は肩を落とした。
「まだ十二万円足りない。どうしよう……」
蓮の声に、弱気な色が滲む。俺の胸も、不安で締め付けられる。でも、ここで俺まで弱気になってはいけない。
「諦めるな。まだ方法はあるはずだ」
俺は蓮を励ました。
「明日も頑張ろう」
「……うん」
※ ※ ※
学校に戻ると、生徒会室で桐谷が待っていた。
「蓮、大変だ」
「どうしたんですか?」
「人手不足の問題が、さらに深刻になった」
桐谷は資料を見せた。
「運動部だけじゃなく、吹奏楽部も文化祭の設営を手伝えなくなった。コンクールの練習があるらしい」
「それは……」
蓮は頭を抱えた。
「会場設営、どうするんですか。このままじゃ、当日に間に合わない」
「それで、相談なんだが……」
桐谷は申し訳なさそうに言った。
「蓮と春川くんで、各クラスに呼びかけて、ボランティアを募ってもらえないか?」
「分かりました」
蓮は即答した。
「明日から、各クラスを回ります」
「すまない、蓮」
「いえ。生徒会副会長として、当然のことです」
蓮は俺を見た。その瞳には、疲労の色が滲んでいる。でも、諦めの色はない。蓮は、最後まで戦うつもりなんだ。
「海斗、また手伝ってくれる?」
「もちろん」
生徒会室を出て、二人で廊下を歩く。
「海斗……」
蓮が弱々しい声で呟いた。
「私、ちゃんとできるかな」
「大丈夫だよ」
俺は蓮の手を握った。蓮の手は、少し冷たい。不安なんだ。それなら、俺が温めなければ。
「蓮なら、絶対できる」
「でも、協賛金もまだ足りないし、人手も足りない。やることが多すぎて……」
「一人で抱え込むな」
俺は蓮の肩を抱き寄せた。
「俺がいる。一緒に頑張ろう」
「……ありがとう」
蓮は俺の胸に顔を埋めた。
蓮の身体が、小さく震えている。限界まで頑張っているんだ。それでも、諦めない蓮が愛おしい。
「海斗がいてくれるから、頑張れる」
翌日の昼休み、俺と蓮は一年生の教室を回り始めた。
「文化祭の会場設営を手伝ってくれる人を募集しています」
蓮が教室の前で呼びかけると、何人かの生徒が手を挙げた。
「俺、手伝います」
「私も」
「ありがとうございます」
蓮は嬉しそうに笑った。
二年生、三年生の教室も回り、合計で三十人のボランティアを集めることができた。
「何とかなりそうだね」
俺が言うと、蓮は安堵の表情を浮かべた。
「うん。でも、まだ協賛金の問題が残ってる」
「それも何とかしよう」
放課後、俺たちは再び商店街を回った。
しかし、なかなか協賛してくれる店が見つからない。
「すみません、今年は……」
また断られた。
蓮は肩を落として、ベンチに座り込んだ。
「もう、無理かも……」
蓮の声が震えている。見上げた空は、どこまでも青く澄んでいるのに、蓮の表情は曇っていた。
「諦めるな」
俺は蓮の隣に座った。
「まだ方法はある」
「でも、もう回る店もない……」
「じゃあ、別の方法を考えよう」
俺は少し考えた。蓮を笑顔にしたい。その想いが、俺の頭を働かせる。
「文化祭当日に、協賛企業の広告を出すのはどうだ?」
「広告?」
「ああ。パンフレットやポスターに、協賛企業の名前を載せる。それを条件に、協賛金を募る」
「……それ、いいかも」
蓮は目を輝かせた。
「企業にとってもメリットがある」
「そうだろ。明日、もう一度企業を回ってみよう」
「うん!」
蓮は元気を取り戻した。
その笑顔を見て、俺の胸も温かくなる。蓮の笑顔が、俺の全てだ。
「海斗、ありがとう。いいアイデア出してくれて」
「当たり前だろ。俺たち、チームなんだから」
「……うん」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
翌日、俺たちは再び企業を回った。
今度は、広告掲載という条件を提示した。
「なるほど、それなら宣伝にもなりますね」
「では、五万円協賛させていただきます」
次々と協賛が決まっていく。
一日で、残りの十二万円を集めることができた。
「やった!」
蓮は喜びのあまり、俺に抱きついてきた。
柔らかい感触と、蓮の温もり。それが、俺を満たしていく。
「海斗、やったよ! 予算、全部集まった!」
「ああ、蓮の頑張りのおかげだ」
「海斗のおかげでもあるよ」
蓮は俺を見上げた。
「海斗がいなかったら、こんなにうまくいかなかった」
「二人でやったから、うまくいったんだよ」
俺は蓮の頭を撫でた。
蓮の髪が、指の間をすり抜けていく。この温もりを、ずっと感じていたい。
「これで、文化祭の準備は順調だな」
「うん!」
※ ※ ※
生徒会室に戻り、桐谷に報告した。
「本当か! すごいぞ、蓮!」
桐谷は驚きと喜びの表情を浮かべた。
「これで予算も人手も確保できた。あとは、各クラスの企画を調整すれば……」
「それは私たちに任せてください」
蓮が言った。
「明日から、各クラスの準備状況を確認して回ります」
「頼んだぞ」
生徒会室を出て、俺と蓮は手を繋いで歩いた。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「文化祭、絶対成功させようね」
「ああ、絶対成功させる」
俺は蓮の手を握り締めた。
蓮の手は、もう冷たくない。温かい。俺の温もりが、蓮に伝わっているんだ。
「蓮と一緒なら、何でもできる」
「……私も」
蓮は幸せそうに微笑んだ。
「海斗と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる」
夕日が二人を照らす。
文化祭まで、残り二週間。
まだまだ問題は山積みだが、俺たちは前に進み続ける。
蓮と一緒なら、絶対に成功させられる。
そう信じて、俺たちは歩き続けた。
蓮の手を握る力に、自然と力が込もる。この手を、絶対に離さない。どんなに大変でも、蓮と一緒なら乗り越えられる。
その確信が、俺の胸に満ちていた。
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