日常の幸せ
お試し期間が終わり、一週間が経った。
俺と蓮の関係は、学校中に知れ渡っていた。もう誰も驚かない。むしろ、当たり前のように受け入れられていた。
「おはよう、海斗」
いつものように昇降口で待っていると、蓮が笑顔で現れた。
「おはよう」
蓮は自然に俺の手を握り、二人で校舎に入る。
廊下を歩いていると、すれ違う生徒たちが微笑ましそうに見ていた。
「鈴波副会長と春川くん、本当にお似合いだよね」
「うん。見てるだけで癒される」
そんな声が聞こえてくる。
周囲の温かい視線が、俺たちの関係を祝福してくれているようだった。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「今日の放課後、また買い物行こうよ」
「いいけど、何買うんだ?」
「来週のお弁当の材料」
蓮は嬉しそうに笑った。
「海斗の好きなもの、もっと作りたいから」
「ありがとう」
俺は蓮の頭を撫でた。
「でも、無理しなくていいからな」
「無理じゃないよ。海斗のために料理するの、楽しいもん」
蓮は俺の腕に抱きついた。
「むしろ、もっと作りたい」
「蓮……」
その言葉が、胸を温かくする。こんなにも俺のことを想ってくれる人がいる。それだけで、幸せだった。
教室の前で立ち止まり、蓮が俺を見上げた。
「じゃあ、昼休みに」
「ああ」
蓮は軽く背伸びをして、俺の頬にキスをした。
「頑張ってね」
「蓮も」
※ ※ ※
教室に入ると、クラスメイトたちが声をかけてきた。
「春川、今日も相変わらずラブラブだな」
「いいなぁ、羨ましい」
俺は照れながら席に着いた。
隣の男子が笑いながら話しかけてくる。
「春川、最近すごく幸せそうだよな」
「そうか?」
「ああ。表情が全然違う」
男子は真剣な顔になった。
「雪原と付き合ってた時は、なんかいつも疲れてるように見えたけど、今は違う」
「……そうかもしれない」
俺は正直に答えた。
確かに、あの頃は常に緊張していた。でも今は違う。蓮といると、心から安らげる。
「蓮と一緒だと、本当に楽なんだ」
「いいなぁ。俺も早く彼女欲しいわ」
授業が始まり、いつも通りの学校生活が流れていく。でも、心は軽かった。昼休みに蓮と会える。それだけで、頑張れた。
時計の針が進むのがもどかしく感じられるほど、俺は蓮に会いたかった。
※ ※ ※
昼休み、屋上に向かうと、蓮がすでに待っていた。
「遅い」
「ごめん、先生に質問されて」
「まあいいけど」
蓮は弁当箱を取り出した。
「はい、今日の分」
「ありがとう」
俺は弁当箱を受け取り、蓋を開けた。
今日は、ハンバーグ、卵焼き、ほうれん草のお浸し、そしてウインナーが入っていた。
「海斗、ウインナー好きだって言ってたから、入れてみた」
「覚えててくれたのか」
そんな些細なことまで覚えていてくれる。その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
「当たり前でしょ。彼氏の好きなもの、全部覚えてる」
蓮は得意げに胸を張った。
「いただきます」
二人で並んで弁当を食べる。
蓮の料理は、毎日美味しくて、飽きることがなかった。
一口一口に、蓮の想いが込められているのが分かる。それが何よりも幸せだった。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「この前、雪原夢がクラスで孤立してるって聞いたんだけど」
「そうなのか?」
「うん。デマがバレてから、誰も相手にしなくなったらしい」
蓮は複雑な表情を浮かべた。
「正直、ざまあみろって思う反面、ちょっと可哀想かなって」
「蓮は優しいな」
「そうかな」
「ああ。俺は、もう何とも思わない」
俺は正直に言った。
「夢がどうなろうと、俺には関係ない。もう、あいつのことは過去だから」
本当に、心からそう思えるようになった。蓮がいるからこそ、過去を手放せる。
「……そっか」
蓮は安心したように微笑んだ。
「海斗が前を向いてくれてるなら、それでいい」
「ああ」
弁当を食べ終えると、蓮が俺の肩に頭を預けてきた。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「今度の休日、デートしようよ」
「いいけど、どこ行きたい?」
「映画とか、どう?」
蓮は顔を上げて、俺を見た。
「最近、面白そうなのやってるらしいの」
「いいな。じゃあ、映画館行こう」
「やった!」
蓮は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ていると、俺まで笑顔になる。蓮の幸せが、俺の幸せになっていた。
「じゃあ、土曜日ね」
「ああ」
※ ※ ※
午後の授業を終え、生徒会室で蓮を待った。
「お待たせ」
蓮が現れ、俺の手を取った。
「買い物行こう」
「ああ」
二人で校門を出ると、駅前のスーパーに向かった。
「何買う?」
「来週のお弁当用の食材」
蓮は買い物かごを手に取った。
「海斗、一緒に選んで」
「ああ」
食材コーナーを回りながら、蓮が楽しそうに話しかけてくる。
「ねえ、海斗。来週は何が食べたい?」
「蓮の作る料理なら、何でも嬉しい」
「それじゃ答えになってないよ」
蓮は少しむくれた。
「ちゃんと言って」
「じゃあ……肉じゃがとか」
「了解」
蓮はじゃがいもと肉をかごに入れた。
「他には?」
「唐揚げも好きだな」
「じゃあ、それも作る」
蓮は鶏肉も追加した。
こうして二人で買い物をしていると、まるで夫婦のようだ。そんなことを考えて、顔が熱くなった。
買い物を終え、スーパーを出た。
「重いだろ。俺が持つよ」
「ありがとう」
蓮は買い物袋を俺に渡した。
「海斗、いつも優しいね」
「当たり前だろ」
「……嬉しい」
蓮は俺の腕に抱きついた。
「海斗と付き合えて、本当によかった」
「俺も」
駅までの道を、手を繋いで歩く。
夕日が二人を照らし、長い影が地面に伸びる。こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいい。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「今日も、私の家に来る?」
「いいのか?」
「当たり前でしょ。もう、海斗は私の家に来るのが日課みたいになってるし」
蓮は笑った。
「それに、買った食材で夕飯作るから」
「じゃあ、お願いしようかな」
「やった!」
※ ※ ※
蓮の家に着き、二人で料理を始めた。
「海斗、野菜切って」
「ああ」
俺は言われた通りに野菜を切る。
蓮は肉を炒め、調味料で味付けをしていく。
二人で協力して作る料理は、何よりも美味しかった。
包丁を動かすリズム、フライパンの音、蓮の声。それら全てが、俺にとっての幸せな時間だった。
「できた!」
蓮が皿を持ってきた。
生姜焼き、サラダ、味噌汁。
「いただきます」
二人で食卓を囲む。
「美味い」
「よかった」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
食事を終え、二人でソファに座った。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「私たち、付き合って二週間くらいだけど……もうずっと前から一緒だった気がする」
「俺も」
俺は蓮の肩を抱き寄せた。
不思議なものだ。まだ二週間しか経っていないのに、蓮のいない生活なんて考えられない。
「蓮と一緒だと、時間があっという間に過ぎる」
「……海斗」
蓮は俺の胸に顔を埋めた。
「私、海斗のこと、もっともっと好きになってる」
「俺も」
「本当?」
「ああ。蓮のこと、毎日好きになってる」
蓮は顔を上げて、俺を見つめた。
「……キスして」
「ん」
俺は蓮の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけた。
唇が触れ合う。
柔らかくて、温かい。何度キスをしても、慣れることはなかった。
むしろ、触れるたびに胸が高鳴る。蓮への想いが、ますます深くなっていくのを感じた。
離れると、蓮は恥ずかしそうに笑った。
「海斗とのキス、大好き」
「俺も」
「じゃあ、もう一回」
「まだするのか?」
「だめ?」
「だめじゃない」
俺はもう一度、蓮とキスをした。
夜が更けるまで、二人は一緒にいた。
「そろそろ帰らないと」
「……残念」
蓮は名残惜しそうに俺を見た。
「もっと一緒にいたい」
「俺も。でも、遅くなると心配されるから」
「分かってる」
蓮は玄関まで俺を見送った。
「じゃあ、また明日」
「ああ」
別れ際、蓮が俺の頬にキスをした。
「おやすみ、海斗」
「おやすみ、蓮」
※ ※ ※
家に帰り、ベッドに横になる。スマホを見ると、蓮からメッセージが届いていた。
『今日も楽しかった。海斗、ありがとう。明日も待ってるね』
俺は返信を打った。
『こっちこそ。蓮といると、毎日が楽しい。明日も、よろしく』
送信すると、すぐに既読がついた。
そして、ハートマークのスタンプが送られてきた。
「蓮……」
俺は思わず、スマホを抱きしめた。
夢と付き合っていた時は、こんなに幸せじゃなかった。
いつも気を遣って、疲れていた。
でも、蓮と一緒だと違う。
自然体でいられて、心から楽しい。
これが本物の恋なんだと、今なら分かる。
「これが、本当の恋愛なんだな」
呟いて、俺は目を閉じた。
明日も、蓮と一緒。
それだけで、幸せだった。
※ ※ ※
週末、俺は蓮と映画デートに出かけた。
「海斗、こっち!」
映画館の前で、蓮が手を振っていた。
今日の蓮は、いつもと違って私服だった。白いブラウスにデニムのスカート、そして軽くメイクをしている。
その姿に、思わず息を呑んだ。
「蓮、可愛い」
「え……」
蓮は顔を赤らめた。
「い、いきなり何言ってるの」
「本当のことだよ」
「……ずるい」
蓮は俯いて、小さく呟いた。
「海斗、そういうこと言うの反則」
「でも、本当に可愛いから」
「もう!」
蓮は照れた表情で俺の腕を叩いた。
「とにかく、映画見よう」
「ああ」
二人でチケットを買い、シアターに入った。
映画が始まると、蓮が俺の手を握ってきた。
「海斗」
「ん?」
「手、繋いでてもいい?」
「もちろん」
俺は蓮の手を握り返した。
暗闇の中、蓮の温もりだけが確かに感じられる。それだけで、胸が満たされた。
映画の内容は、恋愛もので、主人公とヒロインが様々な困難を乗り越えて結ばれるというストーリーだった。映画が終わり、シアターを出ると、蓮が目を潤ませていた。
「蓮、泣いてるのか?」
「ち、ちょっとだけ」
蓮は目元を拭いた。
「すごくいい話だったから」
「そうだな」
俺も感動していた。
「ねえ、海斗」
「ん?」
「私たちも、あの二人みたいに、ずっと一緒にいられるかな」
「当たり前だろ」
俺は蓮の肩を抱き寄せた。
「俺たちは、何があってもずっと一緒だ」
「……ありがとう」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
映画館を出て、駅前のカフェで休憩した。
「今日は楽しかった」
「俺も」
俺はアイスコーヒーを飲みながら答えた。
「蓮と一緒だと、何をしても楽しい」
「私も」
蓮はカフェラテを飲んだ。
「海斗と付き合えて、本当によかった」
「俺も。蓮に出会えて、人生が変わった」
「大げさ」
「本当だよ」
俺は真剣に言った。
大げさなんかじゃない。蓮に出会ってから、世界の色が変わった。それくらい、蓮は俺にとって特別な存在になっていた。
「夢に振られた時は、絶望してた。でも、蓮が現れて、全部が変わった」
「……海斗」
「だから、ありがとう。蓮」
俺の言葉に、蓮は涙ぐんだ。
「海斗、ずるい。そんなこと言われたら、泣いちゃう」
「ごめん」
「謝らなくていい」
蓮は目元を拭いた。
「嬉しいから。海斗がそう思ってくれてるなら、私も幸せ」
その時、蓮のスマホが鳴った。
「あ、会長から……」
蓮は画面を見て、少し表情を変えた。
「どうした?」
「来週から文化祭の準備が本格的に始まるって。生徒会で打ち合わせがあるらしい」
「そういえば文化祭か……」
「うん。毎年この時期は、生徒会が一番忙しくなるよね」
蓮は少し申し訳なさそうに俺を見た。
「ごめんね。しばらく、デートする時間が減るかも」
「気にするなよ。生徒会の仕事でも一緒になるだろ。俺も生徒会の人間だし」
「ありがとう」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
「もし、海斗にも手伝ってもらうことになるかも。いい?」
「もちろん」
俺は即答した。
「蓮が大変な時は、いつでも手伝う」
「……海斗」
蓮は俺の手を握った。
「一緒に、最高の文化祭にしようね」
「ああ」
カフェを出て、駅まで歩く。
「じゃあ、また月曜日」
「ああ」
別れ際、蓮が俺の頬にキスをした。
「今日は、本当にありがとう」
「こっちこそ」
蓮は照れた表情で改札を通っていった。
俺は蓮の姿が見えなくなるまで、その場に立っていた。
「蓮……」
俺は思わず、頬に手を当てた。
夢との関係は、終わった。
でも、それは不幸じゃなかった。
むしろ、蓮と出会うための必然だったのかもしれない。
あの絶望があったからこそ、今の幸せがある。そう思えるようになった自分に、少しだけ驚いていた。
「これから、もっと幸せになろう」
呟いて、俺は改札を通った。
蓮との日々は、まだ始まったばかり。
そして来週からは、文化祭の準備が始まる。
蓮と一緒に、また新しい思い出を作っていく。
これから、どんな未来が待っているのか。
楽しみで仕方なかった。日常の幸せ
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