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親友に彼女をNTRられた俺は、俺にだけ優しいクール系ギャルヒロインとお試しで付き合うことになりました。  作者: 沢田美


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孤独な朝

 翌朝。朝六時。


 俺は蓮の部屋で目が覚めた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。雨は止んでいた。


 蓮はまだ俺の腕の中で眠っていた。寝顔は穏やかだ。眠っている時だけ蓮は安らかな表情をしている。


 俺は蓮の髪を撫でた。さらさらとした感触が心地よい。


 蓮の目がゆっくりと開いた。


「おはよう……」


 眠そうな声。


「おはよう」


 俺が微笑むと蓮も小さく微笑んだ。


「よく眠れた?」


「うん……海斗がいてくれたから」


 蓮は俺の胸に顔を埋めた。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 俺は蓮を抱きしめる。


 しばらくそうしていた。静かな朝で二人だけの時間だ。


 その時、ドアをノックする音がした。


 蓮の身体が固まる。


「蓮」


 ドアの向こうから母親の声が届く。冷たい声だ。


「はい……」


 蓮の返事が震える。


「学校に遅れないようにしなさい」


「はい」


 足音が遠ざかっていく。


 蓮が大きく息を吐いた。肩が小さく揺れている。


「大丈夫か?」


「うん……」


 小さい声。


 二人でベッドから起き上がった。


 ※ ※ ※


【蓮視点】


 海斗と一緒に朝食を簡単に済ませた。


 お母さんはリビングにいない。もう仕事に出たのだろう。それだけで少しほっとする。


 でも安堵はすぐ不安に変わる。お母さんはまた帰ってくる。きっとまた罵る。そういう毎日だ。


 海斗が私の手を握ってくれた。


「大丈夫だ」


 優しい声。


「俺がそばにいる」


「うん……」


 私は握り返した。


 二人で学校に向かった。


 電車の中で窓の外を見る。通勤する人々。朝の景色。いつもと同じ光景なのに、私の心だけが重い。暗い。


 教室に入ると凛音ちゃんが駆け寄ってきた。


「蓮ちゃん!」


 心配そうな声。


「大丈夫? 最近元気なかったけど」


「うん……大丈夫」


 笑顔を作る。でもうまく作れない。


「本当に?」


 凛音ちゃんの目は優しい。


「何かあったら言ってね」


「ありがとう、凛音ちゃん」


 私は凛音ちゃんの手を握った。


 凛音ちゃんは大切な友達だ。でもこの話まで背負わせていいのか分からない。


 授業が始まる。


 先生の話が耳に入らない。ノートを取る手が止まる。


 頭の中でお母さんの言葉が繰り返される。


『お前は私の娘として恥ずかしい』


 その言葉が何度も刺さる。


 どうすれば認めてもらえるのだろう。どれだけ頑張れば見てもらえるのだろう。


 答えが出ない。


 ※ ※ ※


【海斗視点】


 昼休み。屋上。


 俺と蓮は二人で弁当を食べていた。


 蓮はほとんど口をつけない。箸が弁当の上で止まったままだ。


「蓮、食べないと」


「うん……」


 頷くのに動かない。


「蓮」


「ん?」


「無理しなくていい」


 俺の言葉に蓮が顔を上げた。


「でも……」


「辛い時は辛いって言っていい」


 俺は手を握る。


「俺に全部話してくれ」


 蓮の目に涙が溜まる。必死にこらえている。


「ありがとう……」


 声が震える。


「でも海斗にばかり迷惑かけられない」


「迷惑じゃない」


 俺ははっきり言った。


「蓮のことは俺のことだ」


 蓮の涙がこぼれた。


「海斗……」


 蓮が胸に顔を埋める。


「ありがとう」


 俺は抱きしめた。


 しばらくそうしていると蓮の呼吸が落ち着いてくる。


「海斗」


「ん?」


「今日の放課後、生徒会の仕事休んでいい?」


 申し訳なさそうな声。


「ああ、もちろん」


「神崎たちに連絡しておく」


「ごめんね……」


「謝るな」


 頭を撫でる。


「蓮は十分頑張ってる」


「でも……」


「休むことも大事だ」


 蓮は小さく頷いた。


 ※ ※ ※


 放課後。生徒会室。


 俺は神崎、藤崎、野村に状況を説明した。詳しい事情は言えない。ただ蓮が今かなり追い詰められていることだけを伝える。


「分かりました」


 神崎が真剣に頷く。


「僕たちでできる限りカバーします」


「鈴波会長のこと心配ですね」


 藤崎が不安そうに言う。


「ええ。でも春川さんがいるから大丈夫ですよね」


 野村が俺を見る。


「ああ。俺が支える」


 三人が頷く。


「何かできることがあれば言ってください」


 神崎の言葉に胸が熱くなった。


「ありがとう」


 ミーティングを終え、俺は蓮を探しに行った。


 教室。蓮は机に座ったまま窓の外を見ていた。横顔が寂しい。


「蓮」


 声をかけると顔を上げる。


「海斗……」


「帰ろう」


「うん」


 二人で学校を出た。


 ※ ※ ※


【蓮視点】


 海斗と駅に向かう。


 でも家には帰りたくない。お母さんがいる家が怖い。


「海斗」


「ん?」


「私……家に帰りたくない」


 声が震える。


「そうか」


 海斗は少し考えた。


「じゃあ、どこか行くか」


「うん……」


 二人でカフェに入った。


 窓際の席。夕暮れの街が少しずつオレンジ色に染まっていく。


「何飲む?」


「カフェラテ」


 海斗が注文してくれた。


 温かいカフェラテ。香りが少しだけ心を落ち着かせる。


「蓮」


 海斗が真剣な表情で言う。


「俺、考えたんだ」


「何を?」


「蓮のお母さんとちゃんと話がしたい」


 心臓が跳ねる。


「え?」


「昨日は一方的だった」


 目が決意に満ちている。


「でも俺は伝えたいことがある」


「でも……お母さん、聞いてくれないよ」


「それでも言う」


 力強い声。


「蓮がどれだけすごいか。どれだけ頑張ってきたか」


 手を握られる。


「俺が蓮をどれだけ大切にしてるか」


 涙が溢れる。


「海斗……」


「蓮、一緒に戦おう」


「俺と蓮、二人で」


「でも……怖い」


「大丈夫だ」


 抱き寄せられる。


「俺がそばにいる」


 温もりが私を包む。


「一人じゃない」


 その言葉が沁みる。


「うん……」


 私は小さく頷いた。


「一緒に戦う」


 声が少しだけ強くなる。


「ありがとう、海斗」


「どういたしまして」


 海斗は軽くキスをしてくれた。


 店内に他のお客さんはいる。でも今は構わなかった。


 二人でしばらく抱き合う。


「蓮」


「ん?」


「今夜どうする?」


「家に……帰らなきゃ」


 声が小さくなる。


「一緒に行く」


「でも……」


「いいから」


 優しい声。


「俺も一緒に行く」


 涙が溢れそうになる。


「ありがとう……」


 私たちはカフェを出た。


 ※ ※ ※


【海斗視点】


 夜。蓮のマンション。


 エレベーターで部屋の階へ向かう。


 蓮の手が震えている。俺は握ってやる。


「大丈夫だ」


 蓮は小さく頷いた。


 ドアを開ける。


 玄関に母親の靴があった。帰ってきている。


「ただいま……」


 蓮の声が小さい。


 返事はない。


 リビングへ向かうと母親がソファに座っていた。今日も仕事の資料を読んでいる。


 顔を上げる。


「おかえり」


 冷たい声。


「またその男を連れてきたの?」


 視線が俺を刺す。


「はい……」


 蓮の声が震える。


「お母さん、お話があります」


 俺は一歩前に出た。


「話?」


 母親が資料を置く。


「何の話?」


「蓮のことです」


 眉がひそめられる。


「蓮? 名前で呼ぶの? 随分と馴れ馴れしいわね」


「俺は鈴波さんの恋人です」


 俺は落ち着いて言う。


「本人の同意もあります。呼び方は当人間の合意事項です」


 母親の目が細くなる。たぶん“口が回る”と判断したのだろう。


「……あなた、家は?」


 矢継ぎ早に来た。職業、学歴、家柄。相手を仕分けるための質問だ。


「一般家庭です」


 俺は逃げずに答える。


「立派ではありません。でも真っ当に暮らしてます」


「ふうん」


 鼻で笑う。


「で、何を言いに来たの?」


「蓮がどれだけ頑張ってるか、あなたは把握してますか」


 母親が肩をすくめる。


「生徒会長だとか文化祭だとか。高校生の“イベント”でしょう」


「イベントでも成果です」


 俺は言葉を選んだ。挑発はしない。事実と論点だけを置く。


「多数の関係者を動かして、スケジュールと予算を管理して、トラブルを潰して、最終的に成功させた。これはマネジメントです」


 母親の表情がわずかに変わる。仕事の単語には反応する。


「それが何?」


「評価されるべき努力です。少なくとも否定される理由にはならない」


「否定?」


 母親が一歩近づく。


「あなた、私が娘を否定してると?」


「言葉がそうです」


 俺は目を逸らさない。


「“恥ずかしい”“期待外れ”と言ったなら、それは評価ではなく人格の切り捨てです」


 空気が張り詰める。蓮が俺の袖を掴んだ。震えが伝わる。


「海斗……」


「大丈夫」


 俺は小さく返して、母親に向き直る。


「俺は蓮を愛してます」


 言い切った。


「蓮の価値を、点数や肩書きだけで決めない」


 母親の目が冷たく光る。


「愛?」


 軽蔑するように笑った。


「あなた達はまだ子供よ。感情で走るだけ」


「感情だけじゃない」


 俺は一段声を落とした。熱で押すと負ける。ここは論理で立つ。


「蓮は必要な時に助けを求められるようになってきた。仲間に任せる力も身につけてきた。これも成長です」


「成長?」


 母親が蓮を見る。視線だけで押さえつける。


「私が求めてるのは“成果”よ。通用する成果」


「成果なら出してます」


 俺は即答する。


「少なくとも学校という組織で、信頼という資産を積み上げた」


 母親が薄く笑う。


「信頼? 資産?」


「ええ」


 俺は頷いた。


「あなたが仕事で重視するのと同じです。信用がない人間に案件は回らない」


 一瞬、母親の呼吸が止まったように見えた。


 次に来たのは“切り返し”だ。


「口が達者ね。将来は弁護士にでもなる?」


「なりません」


 俺は淡々と言う。


「俺は俺の道を行きます。ただ、蓮の人生を壊す言葉は見過ごせない」


 母親が眉を吊り上げる。


「壊す?」


「追い詰めてる」


 俺は言い切った。


「蓮は食べられていない。眠れていない。笑えなくなってる。あなたの言葉が原因です」


「……責任転嫁ね」


 母親が冷たく吐き捨てる。


「弱いだけ」


「弱くありません」


 俺の声が強くなる。


「蓮はずっと耐えてきた。耐えることを強さだと思ってきた。でも、それで壊れるなら“戦略”として間違ってる」


 母親がまた一歩近づく。


「あなた、私に説教してるの?」


「交渉です」


 俺ははっきり言った。


「蓮の尊厳を守るための。あなたが親として最低限守るべきラインを確認してる」


 沈黙が落ちる。


 母親の視線が俺を刺し、次に蓮へ向く。蓮の肩が跳ねる。


 俺は蓮の前に半歩立った。盾になるために。


「……好きにしなさい」


 母親が背を向けた。声だけが冷たく残る。


「でも覚えておきなさい。愛なんて長続きしない」


 ドアの前で止まり、振り返らずに言う。


「いずれあなたも蓮に失望する。私と同じように」


 ドアがバタンと閉まった。


 リビングに沈黙が広がる。


 蓮が俺の胸に顔を埋めた。


「ごめんね……」


 泣き声。


「謝るな」


 俺は抱きしめる。


「俺が言いたくて言った」


 蓮がシャツを掴む。


「でも……お母さん怒ってた」


「怒ってもいい」


 俺は頭を撫でた。


「俺たちは一緒にやる」


 蓮が小さく頷く。でも弱々しい。


 母親の冷たさは想像以上だった。論点をずらし、相手を値踏みして、心を削る。


 これからどう戦うか。正面衝突だけが最適解とは限らない。


 俺の中で“次の一手”を組み立てる必要がある。


 蓮を守るために。蓮が自分の足で立てるように。


 答えはまだ見えない。それでも、引くつもりはなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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