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親友に彼女をNTRられた俺は、俺にだけ優しいクール系ギャルヒロインとお試しで付き合うことになりました。  作者: 沢田美


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10/18

本物の関係

 翌朝、いつもより軽い足取りで昇降口に向かうと、蓮がすでに待っていた。


「おはよう、海斗」


「おはよう」


 蓮は周りを気にせず、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


「昨日は、ありがとう」


「こっちこそ」


 俺たちは自然に手を繋いで校舎に入った。もう誰も驚かない。当たり前の光景になっていた。

 それが嬉しかった。俺たちの関係が、学校中に認められている。その事実が、胸を温かくする。


「ねえ、海斗」


「ん?」


「今日の放課後、一緒に買い物行かない?」


「買い物?」


「うん。海斗に作るお弁当の材料、買いたくて」


 蓮は嬉しそうに笑った。


「海斗の好きなおかず、教えて」


「好きなおかずか……卵焼きと唐揚げは好きだな」


「了解。他には?」


「ブロッコリーも好き」


「野菜も食べるんだ。偉い」


 蓮は俺の頭を撫でた。

 その仕草が嬉しくて、俺の顔が自然と緩む。まるで子供のように扱われているのに、不思議と嫌な気持ちにならなかった。


「じゃあ、それも入れるね」


 教室の前で立ち止まり、蓮が俺を見上げた。


「今日も頑張ってね」


「ああ。蓮も」


 蓮は躊躇いがちに、俺の頬にキスをした。


「じゃあ、また昼休みに」


「……ああ」


 蓮が去っていくのを見送りながら、俺は頬に手を当てた。

 まだ慣れない。でも、嫌じゃない。むしろ、嬉しかった。

 頬に残る温もりが、俺の一日を明るくしてくれる。蓮がいるだけで、世界がこんなにも輝いて見えるなんて。教室に入ると、クラスメイトたちが一斉に俺を見た。


「おはよう、春川」


「おはよう」


 挨拶を交わしながら席に着くと、隣の男子が話しかけてきた。


「春川、最近すごく幸せそうだな」


「そうか?」


「ああ。表情が全然違う」


 男子は笑った。


「雪原と付き合ってた時より、ずっと楽しそう」


「……そうかもしれない」


 俺は正直に答えた。

 確かに、今の俺は幸せだ。夢といた頃とは比べ物にならないほど。心の底から笑えている自分がいる。


「蓮と一緒だと、自然体でいられる」


「いいなぁ。俺も彼女欲しいわ」


 男子は羨ましそうに言った。


「でも、春川は大変だったもんな。デマ流されて」


「ああ……」


 あの地獄のような日々を思い出す。でも、もう過去のことだ。今の俺には、蓮がいる。


「でも、鈴波副会長が助けてくれてよかったな」


「本当に」


 俺は心から思った。


「蓮がいなかったら、今頃俺は――」


「大丈夫、もう終わったことだよ」


 男子は俺の肩を叩いた。


「これから、鈴波副会長と幸せになれよ」


「……ああ」


 授業が始まり、いつも通りの学校生活が流れていく。

 でも、心は軽かった。蓮が隣にいる。それだけで、何も怖くなかった。

 授業中も、蓮のことばかり考えてしまう。昼休みが待ち遠しくて、時計の針が進むのが遅く感じられた。


※ ※ ※


昼休み、屋上で蓮と合流した。


「お疲れ様」


「蓮も」


 蓮が二つの弁当箱を取り出した。


「今日も作ってきた」


「ありがとう」


 俺は弁当箱を受け取り、蓋を開けた。

 今日は、卵焼き、唐揚げ、ブロッコリー、そして新たにミートボールが入っていた。


「昨日、海斗が喜んでくれたから、今日も頑張った」


「嬉しい」


 俺は箸を取り、卵焼きを口に運んだ。


「……やっぱり美味い」


 蓮の愛情がこもった料理。それは、どんな高級レストランの料理よりも俺の心を満たしてくれる。


「よかった」


 蓮も自分の弁当を食べ始めた。

 二人で並んで食べる昼食。それは、今までで一番幸せな時間だった。

 こんな当たり前のことが、こんなにも幸せだなんて。俺は今まで何を求めていたんだろう。


「ねえ、海斗」


「ん?」


「お試し期間、あと二日だけど……もう答え出してくれたから、実質終わったようなものだよね」


「そうだな」


「じゃあ、これから本格的に恋人として過ごそうよ」


 蓮は真剣な表情で続けた。


「海斗が嫌なことがあったら言って。我慢しないで」


「分かった」


「それと――」


 蓮は少し恥ずかしそうに俯いた。


「海斗も、私に色々要求していいから」


「要求?」


「うん。デートしたい場所とか、一緒にやりたいこととか」


 蓮は俺を見つめた。


「私、海斗の彼女だから。海斗の望みを叶えたい」


「蓮……」


 その言葉が、胸に深く響く。夢は一度も、俺の望みを聞いてくれなかった。でも蓮は違う。


「だから、遠慮しないで。何でも言って」


 俺は少し考えた後、口を開いた。


「じゃあ、一つだけ」


「何?」


「蓮と、もっとデートがしたい」


 俺の言葉に、蓮の頬が赤く染まった。


「……当たり前でしょ。彼氏彼女なんだから」


「それと、蓮の手料理、もっと食べたい」


「それも当たり前」


 蓮はむくれた表情を見せた。


「海斗、もっと無茶な要求してくれてもいいのに」


「無茶な要求?」


「例えば……」


 蓮は視線を逸らした。


「キスしてほしいとか……」


「え……」


 その言葉に、俺の心臓が跳ねる。蓮から、そんなことを言われるなんて。


「い、言ってみただけ! 別に今すぐしろって言ってるわけじゃないから!」


 蓮は慌てて弁解した。

 その姿が可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。


「笑わないでよ!」


「ごめん、ごめん」


 俺は笑いを収めた。


「でも、蓮が可愛かったから」


「……っ」


 蓮は顔を真っ赤にして俯いた。


「海斗、ずるい」


「そうか?」


「そうだよ。そんなこと言われたら、ドキドキしちゃう」


 蓮は顔を上げて、俺を睨んだ。


「海斗、責任取ってよ」


「責任?」


「私の心臓、バクバクしてるんだけど」


 蓮は俺の手を取り、自分の胸に当てた。


「ほら、分かる?」


 確かに、蓮の心臓が激しく鳴っていた。


 その鼓動が、俺の手のひらから伝わってくる。蓮も、俺と同じように緊張している。その事実が、愛おしくてたまらなかった。


「……本当だ」


「でしょ? これ、全部海斗のせいだから」


「ごめん」


「謝らなくていい」


 蓮は俺の手を握り締めた。


「むしろ嬉しい。海斗も、私のことドキドキさせてくれるから」


「蓮……」


「だから、これからもっとドキドキさせて」


 蓮は真剣な表情で続けた。


「私、海斗にもっと恋をしたい」


 その言葉に、今度は俺の心臓が跳ねた。蓮の真っ直ぐな想いが、俺の胸を熱くする。こんなにも求められたことが、今まであっただろうか。


「……分かった」


「じゃあ、今すぐ」


「今?」


「うん」


 蓮は立ち上がり、俺の前に立った。


「キスして」


「え……」


「昨日、私の家でしたでしょ? もう一回、して」


 蓮は顔を赤らめながらも、真剣な眼差しで俺を見つめていた。


「ここで?」


「誰もいないし、大丈夫」


 確かに、屋上には俺たち二人しかいなかった。

 俺は立ち上がり、蓮に近づいた。

 心臓が激しく打っている。蓮の顔が近づくにつれて、緊張と期待が高まっていく。


「……いくぞ」


「うん」


 蓮は目を閉じた。

 俺は蓮の肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけた。

 そして――

 唇が触れ合った。昨日より少しだけ長く、少しだけ深く。蓮の唇は柔らかくて、温かかった。頭の中が真っ白になる。ただ蓮の温もりだけが、世界の全てになった。離れると、蓮は目を開けて俺を見つめた。


「……ありがとう」


「こっちこそ」


「海斗、キス上手」


「そうか?」


「うん。すごく気持ちよかった」


 蓮は恥ずかしそうに笑った。


「もっとしたいけど……我慢する」


「我慢?」


「うん。あんまりやりすぎると、授業に集中できなくなっちゃうから」


 蓮は俺の手を握った。


「だから、続きは放課後ね」


「……ああ」


 その言葉に、俺の期待が膨らむ。放課後が待ち遠しくて、午後の授業が長く感じられそうだった。

 午後の授業を終え、俺は蓮と一緒にスーパーに向かった。


「何買う?」


「明日のお弁当の材料」


 蓮は買い物かごを手に取った。


「海斗、一緒に選んで」


「ああ」


 二人で食材コーナーを回る。

 蓮が野菜を選び、俺が肉を選ぶ。まるで夫婦のような光景だった。

 こんな日常が、こんなにも幸せだなんて。俺は心の底から、蓮と出会えたことに感謝していた。


「ねえ、海斗。鶏肉と豚肉、どっちがいい?」


「鶏肉で」


「了解」


 蓮は鶏肉をかごに入れた。


「明日は、照り焼きチキンにしようかな」


「美味そうだな」


「でしょ? 海斗が喜んでくれるように、頑張る」


 買い物を終え、スーパーを出た。


「重いだろ。俺が持つよ」


「ありがとう」


 蓮は買い物袋を俺に渡した。


「海斗、優しい」


「当たり前だろ」


「……嬉しい」


 蓮は俺の腕に抱きついてきた。


 柔らかい感触が腕に伝わってくる。蓮の温もりが、俺を満たしていく。


「海斗と一緒に買い物できて、幸せ」


「俺も」


 二人で並んで歩きながら、俺は思った。

 これが、本当の恋愛なんだ。

 お互いを思いやり、お互いに尽くし合う。夢との関係は、一方的だった。でも、蓮との関係は違う。対等で、温かい。こんなにも満たされた気持ちになれるなんて、思ってもみなかった。


「ねえ、海斗」


「ん?」


「今日も、私の家に来る?」


「いいのか?」


「当たり前でしょ。彼氏なんだから」


 蓮は笑った。


「それに、買った食材で夕飯作るから」


「じゃあ、お願いしようかな」


「やった!」


 蓮は嬉しそうに飛び跳ねた。

 その無邪気な姿に、俺の胸が温かくなる。蓮といると、こんなにも自然に笑えるなんて。


 蓮の家に着き、二人で料理を始めた。


「海斗、野菜切って」


「ああ」


 俺は言われた通りに野菜を切った。

 蓮は手際よく肉を焼き、調味料で味付けをしていく。


 二人で協力して料理を作る。それは、まるで新婚夫婦のような光景だった。いつか、こんな日常が当たり前になる日が来るのだろうか。そう思うと、胸が温かくなった。


「できた!」


 蓮が皿を持ってきた。

 照り焼きチキン、サラダ、味噌汁。


「いただきます」


 二人で食卓を囲む。


「美味い」


「よかった」


 蓮は嬉しそうに微笑んだ。


「海斗が喜んでくれると、私も嬉しい」


「毎日食べたいくらいだ」


「じゃあ、毎日作る」


 蓮は真剣な表情で言った。


「海斗のためなら、何でもする」


「蓮……」


 その言葉が、胸に深く突き刺さる。夢は一度も、俺のために何かをしてくれなかった。でも蓮は違う。蓮は、俺のために全てを捧げてくれる。


「だって、海斗は私の大切な彼氏だから」


 蓮は俺の手を握った。


「これから、ずっと一緒だからね」


「……ああ」


 食事を終え、二人でソファに座った。

 満たされた気持ちと、隣にいる蓮の温もり。それが俺の心を穏やかにしてくれる。


「ねえ、海斗」


「ん?」


「明日、学校で雪原夢に会ったら、どうする?」


「どうするって?」


「また何か言ってくるかもしれないでしょ」


 蓮は心配そうに俺を見た。


「大丈夫。もう何を言われても平気だ」


「本当?」


「ああ。蓮が隣にいるから」


 俺は蓮の肩を抱き寄せた。

 蓮の温もりが、俺に勇気を与えてくれる。もう何も怖くない。


「蓮がいれば、何も怖くない」


「……海斗」


 蓮は俺の胸に顔を埋めた。


「私も、海斗がいれば何も怖くない」


 二人で抱き合ったまま、しばらく黙っていた。

 蓮の髪からは、優しいシャンプーの香りがした。

 この温もりを、この幸せを、俺は絶対に手放したくない。そう心に誓いながら、俺は蓮を抱きしめる腕に力を込めた。


「ねえ、海斗」


「ん?」


「お試し期間、明日で終わりだけど……もう本物の恋人だよね」


「ああ」


 もう疑いようのない事実だった。俺たちは、本物の恋人同士だ。

 お試し期間なんて、もう意味がない。俺の心は、とっくに蓮のものになっていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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