第9話 リオと歩む日々、そして曲線の壁
シルヴァーノ一家のペットとなったリオ。今日はそんなリオとの日常と、セレナの魔導具作りの修行の続きです。
リオが家族になって、数ヶ月が経った。
あの時の傷はすっかり綺麗に治って、今では家の中を元気に走り回っている。
もうすっかりシルヴァーノ家の一員だ。
特に私にはべったり。
朝のおはようのあいさつから、夜のおやすみのあいさつまで、私から離れることがない。
「リオ、いくよー」
「キャン!」
私が工房に向かうと、リオは嬉しそうに一声鳴いて、私の足元をくるくると駆け回る。
その時、リオの足元で、ほんの小さなつむじ風がくるくると舞うのが見えた。
「あはは、げんきだねぇ」
シルフドッグは風の魔力を持つってパパが言ってたけど、こういうことなのかな?
まだ子供だから、無意識に魔力が漏れ出てる感じ?
庭で木の枝を投げて遊ぶ時も、リオはまるで風に乗るみたいに、ぴょーんって軽やかにジャンプして、空中で枝をキャッチする。
すごい身体能力だ。私よりよっぽど運動神経いいかも。
—
工房に入るとリオはいつもの指定席―私の作業机の足元にある、もふもふのクッション(ファークッションみたいなやつ)の上にちょこんと座る。
そこが一番落ち着くみたいだ。
私は深呼吸して、目の前の木の板に向き合った。
今日の課題は、魔導回路の曲線の焼き付けだ。
魔導具製作の練習を始めてもう1年近く経つけど、この「焼き付け」だけが、どうしても上手くならない。
ママの言う通り、まずは簡単な形からってことで、ひたすら直線と円を練習した。
最初はそれすら歪んだり途切れたりして大変だったけど、何百回…いや、もしかしたら千回以上繰り返したかもしれない。
最近ようやく、綺麗な直線をスーッと、安定して焼き付けられるようになってきた。
円も、ちょっと歪む時もあるけど、だいたいは成功する。
でも、問題はそこから先。
S字カーブとか、波線とか、ちょっとでも複雑な曲線になると、途端に魔力の流れが乱れて、線がガタガタになったり、焦げ跡が滲んだりしてしまうのだ。
「むぅぅぅ……なんでまっすぐはいけるのに、まがるとダメなのー!」
今日も今日とて、練習用の木の板に、無惨な焦げ跡がついた曲線を量産してしまう。
平面に曲線を焼き付けるだけでこんなに苦労してるのだ。これが立体に焼き付けるとなったら…そう考えるとクラクラしてきた。
失敗作の山が、また少し高くなった気がする。そろそろ本当に片付けないと、雪崩が起きそうだ。
リオは、私の唸り声を聞いても特に驚く様子もなく、敷物の上で丸くなって、静かにこっちを見ている。
時々、私が失敗して熱くなった金属片を床に落としちゃったりすると、鼻先からフッと優しい息を吹きかけて、冷ますのを手伝ってくれたりもする。
…まあ、たぶん偶然だろうけど。
「はぁ……」
大きな溜息をついて、椅子にもたれかかる。
「才能、ないのかなぁ…。」
魔導回路を書くのは、すごく楽しい。
どんな機能を持たせようか、どういう順番で命令を組み立てようかって考えるのは、前世でプログラミングしてた時みたいにワクワクする。
でもその設計図を実際に形にするこの「焼き付け」ができないと、魔導具は完成しない。
肝心な部分が出来ないからいつまでたっても魔導具の製作に進めない。
焦りばかりが募っていく。
ママもパパも、私の飲み込みの速さに驚いてたけど、それは魔導回路の「理屈」を理解するのが早かっただけだ。
この世界の子供としてはすごいのかもしれないけど、中身が22歳の私としては、むしろこの「焼き付け」の技術習得の遅さに、ちょっと焦りを感じている。
もしかしたら私が転生してるからうまく出来ないんじゃないか、もしかしたら同い年の子たちは、もうみんな曲線の焼き付けなんて当たり前に出来てるかもしれない…。
最近そんなことばっかり考える時間が増えてしまっている。
「魔導具作り、やめちゃおっかな…」
ふとそんなことを呟いた時、私が初めて魔導具を作りたいと言った時の、ママの笑顔が浮かんできた。
いやいや、何弱気になってんだ!
ママだって「練習あるのみ」って言ってたじゃないか!!
私はもう一度気合を入れ直して、新しい木の板を手に取った。
まずはもう一度簡単な円からはじめて「曲げる」ことを体に叩き込もう。
何度も成功体験を繰り返すのが大事なんだから。
集中して右手の指先に魔力を込める。
ゆっくり、丁寧に、円を描く。
よし、今度こそ!!
『澪』はプログラマーですが、私はめちゃめちゃ文系でした。なので作中変なこと言ってるなーとか見つけたら、遠慮なくツッコんでくれると助かります。




