第72話 祝福の重さ
《初等学校卒業まで残り4話》
グレッダさん達と一緒に『月のしずく』へ。
ここでグレッダさんたちのヴェルダ訪問のもう一つの目的が明かされます。
「バルド殿、今回は無茶を言って本当に申し訳なかった。些少だが納めてほしい」
そう言ってグレッダさんがセレスさんに渡させた袋を見る限り、相当のお金が入ってるのは一目瞭然だ。
そんな大人の会話を横目に見ながら、私はアミーカと同じ席で子ども同士の会話に興じる。
「まったく、黙ったままとかあり得ないよね」
「うん、私もグレッダさん来るまで「貸し切りだ」としか聞いてなかったから、すっごくびっくりしちゃったよ」
私達の前ではママが机に突っ伏している。
「セレナ、マリエッタさんどうしたの?」
小声で聞いてきたので、わざと大きめの声で
「ん?何度も娘を騙すとかそれでも親か!高等学校行ったら二度と家戻らないよ!ってこんこんと説教一時間」
ビクッとした大人が四名。
騙した張本人の両親と、完全にとばっちりを食らった来客二名だ。まあグレッダさんとセレスさんを巻き込んだことは大変反省してる。
「よし、そこまでだ。騙したほうが悪い。あらためて四名、きちんと娘に謝るがいい」
突然伯爵としてそう告げたグレッダさんに従い、あらためて謝る両親たち。
「セレナちゃんもアミーカちゃんもこれでいいな?」
「もちろん!私はさっき十分言ったので」
「私は、別に驚いただけで怒っては......」
私たちの答えにグレッダさんはうなずき、
「では、食事の前に済ませるべきことを済ませてしまおう。セレス、あれを」
グレッダさんの指示に素早くセレスさんが反応し、硬い皮で覆われたカバンを渡す。
「実はこちらの方が今回のメインの目的でな」
そう言ってグレッダさんが開けたカバンの中には二つの長細い箱と二つの大きな箱。
「まずはこちらからだな。二人とも来てくれ」
私とアミーカがグレッダさんの前に行くと、箱を開けて見せてくれる。
中に入っていたのは先端に美しい深紅の輝きを湛えたネックレス。
「これはカイル様からだ。以前は時間がないので懐中時計となったが、レディには不似合いだろうと、紋章入りのネックレスをあらためて仕立てたとのことだ。」
うわぁ、イケメン!
カイル様の気の遣い方がすごい。
これも貴族なら当たり前なんだろうな。
「懐中時計は返却しなくていいが、なくさないようにとのことなので気をつけてくれよ?」
そして一つ目の大きな箱をアミーカへ渡す。
「こちらはオーギュスト様も使われている、王都の高名な鍛冶職人、オットー・シュナイデル氏の業物だ」
箱を開けると包丁のセットが三本。
刃には複雑な紋様が走り、見るからに凄そうだ。
「で、こっちはセレナちゃんだな」
渡された箱を開けると、中には一冊の本とノートが納められていた。
表紙を見ると、
「マ、マナ・パイプラインの概略図!?」
おいおい、これは国家的な情報じゃないのか。
これ読んだら狙われるとかないよね?
「それはあくまで概略図だからな。国家レベルで守るべき詳細情報はないから安心しろ」
笑いながらグレッダさんがそう言うので信じることにしよう。
「それは二人への卒業祝いとさらなる成長を願っての贈り物ということだ。カイル様もオーギュスト様も、二人の名前は折に触れて出しているくらいだからな、期待されているぞ?」
グッ!
急に重いプレッシャーをかけられた。
でも久々に感じるこの重圧、私は潰れるどころか嬉しさが勝るようになっていた。
学校で余計な責任感から解放されつつある今、すごくのびのびと何かに向かっていける気がしてるんだ。
「一応説明しとくと、アミーカちゃんの包丁は、学校では自前の包丁で実習を行う。その際に周りの貴族に侮られないようにとの、これはオーギュスト様からの配慮だ」
アミーカは何も言わずに、箱を大切そうにギュッと抱きかかえた。
「セレナちゃんは......俺からよりも手紙を読んだほうが分かるな」
そう言ってグレッダさんは手紙を寄越す。
何、その歯切れの悪い感じは。
『セレナ嬢、あの画期的なアイデアを思いついた君ならば、いずれ必ず必要となる知識と思いこちらを送らせていただく。本は市販のものだが、もう少し踏み込んだことは別添のノートにまとめてある。有効活用した成果をまた見せてくれることを期待している』
............
「よし、返す!」
「ダッ、ダメに決まってるだろ!」
大慌てのグレッダさんだが、これはもう期待じゃなくて契約だ。情報やるから成果寄越せという脅迫文にしか見えない。
「はぁ、どこで人生間違ったのかなぁ」
「クナ・ヴァポリス作ったからじゃない?」
アミーカの冷静なツッコミに、
「じゃあアミーカのせいだね。いずれ支払いはきちんとしてもらうから」
と茶目っ気たっぷりに笑って返しておく。
アミーカも余裕そうに笑って受け流す。
二人とも成長したなぁ。
「まあカイル様も準後見人のような立場として二人の将来に期待してるということだ。もちろん俺もな」
ニヤッと笑うグレッダさん。
「ま、仕方ないね。だったらとことん期待に応えまくってやるまでだよ!」
そう、あの怪しげな能力(調律者)もあるのだ。恩を売りまくって高く評価してもらうに越したことはない。
高等学校で新たな『開発』の能力を磨き、カイル様や色んなところから情報を仕入れて、”笑顔を創る錬金術師”を目指していこう。
と、ここで気がつく。
私もアミーカもまだ高等学校の願書出したばかりだ。これで落ちたりしたら贈り物が......
アミーカもそれに気付いたらしい。
「アミーカ、明日から勉強と面接対策、しばらく徹底的にやるよ!」
「うん、落ちるつもりもなかったけど、いよいよ落ちれなくなったからね」
ガシッと手を組み、明日からの受験対策を心に誓った。
その後は私とアミーカの卒業祝いにかこつけたどんちゃん騒ぎだ。
仕事終わりのジェラールさんまで駆けつけて、バルドさんと考えた味噌、醤油料理の数々を披露する。
ひたすら楽しんだその時間。
同時に私の胸に去来するのは、
「もう、終わりなんだ......」
その寂しさでもあった。
次回また場面は学校へ戻りますが、そろそろ魔導具をまた何か触らせたいなと思うので、絡めつつなお話にする予定です。
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