第71話 変わらない日々の中で
《初等学校卒業まで残り5話》
『普通』のセレナが『成長』した学校を歩くシーンからスタートです。
後半はシルヴァーノ家に来客があります。
「はぁー、すごいな」
思わずそう口にしてしまう。
ほんの一年前までは、授業についていけない生徒もいて、将来についてもなんとなく考えられていた、ヴェルダ初等学校。
三年生の各教室では毎日のように職業や就職、進学といったことが活発に話し合われている。
澪の記憶の中の大学生たちだって、こんなに全員が一生懸命になってる場面はなかった。
......澪の周りだからかも?という不安はないわけではないけど。
「セレナー!」
呼ばれたので立ち止まって振り返ると、アミーカがいた。
「今日は帰るの?」
「うん、ママから「あんた最近またサボり癖ついてない?」ってイヤミ言われちゃってさ」
私は口先を尖らせて不満げにそう言った。
「あははっ、セレナ学校楽しそうだもんね。......まあ私も「最近帰りが遅いが、何かやってるのか?」とか、パパに疑われちゃって帰るところなの」
妙にバルドさんのモノマネが上手いアミーカの手を見ると、何やら紙と封筒を持っている。
「何、それ?」
私が指を指して聞くと、ちょっと恥ずかしそうにしながら、
「セントーレ高等学校の願書と......オーギュスト様の推薦状だよ」
と答えた。
オーギュスト様。
その名前を聞くと、あの王都での色濃い日々がまざまざと蘇るようだ。
もうあれから一年も経つというのに。
「セレナはもう願書出したの?」
「うん、昨日マチルダ先生に。たかだか願書出しただけだってのに妙に喜ばれちゃってさ」
願書を渡した時のマチルダ先生の心からの笑顔に、思わず照れてしまったのは内緒だ。
「ふふっ。あのイタズラコンビが......とか思われたんじゃない?」
「そうかもね」
互いに顔を見合わせクスクス笑うと、
「それじゃ、私これ出しに行ってくるね。また明日!」
と手を上げて走り去っていった。
「またねー!」
アミーカに「またね」と言える日はあと何日残ってるんだろう?
チクッとした痛みを感じ、思わず胸に手を当てながら、しばらくアミーカの去った先を見つめていた。
◇◆◇
家に近づくと、久しぶりなのに見慣れた馬車を見つけた。
(あれ、あの紋章はたしか......)
私は目をゴシゴシこすって何度か見直してみるが、間違いない!
足早に家へと近づき、逸る気持ちも抑えられず、いつも以上に勢いよく扉を開けると、そこには......
「あー、セレナお帰りー!待ってたよ」
大きくぶんぶんと手を振るのは、あのお調子者セレスさん!!
王都で見ていたメイド姿ではなく、とても動きやすそうな、それでいて仕立ての良さそうな服を着ているので、一瞬分からなかった。
奥の食卓には、
「お、セレナちゃん帰ったな。お邪魔してるぞ」
一番最初に会った時と同じ、冒険者風の格好をしたグレッダさんが、パパとお酒を酌み交わしていた。
「な、なな......なんで!!」
思わず膝から崩れ落ちる。
マ、ママは......ああそうだ、今日は孤児院へのボランティアだから遅いんだった。
これは帰ってきたらビックリするぞ。
血の雨が降らなきゃいいけど。
「ほらほら、いつまでも地べた座ってないで、こっち来て一緒に話そうよ」
セレスさんが伸ばしてきた手を掴み、私はようやく起き上がる。
食卓の椅子に座るとセレスさんがいつもの手付きで紅茶を注いでくれた。
出された紅茶を一口いただき、カップを置き、ついまたグレッダさんとセレスさんをキョロキョロ見てしまう。
「なんだなんだ、セレナちゃん、もしかして俺たちのこと忘れちまったのか?」
「いやいや、忘れるわけないじゃないですか。うちに二人がいるって異常事態にまだ頭がついて行ってないんですよ」
そう言ってまた一口紅茶を飲む。
これはトイレが近くなりそうだぞ......
「でもなんで急に?王都で何かあったんですか??」
「いや、俺はほら国防兼ねての冒険者って言ったろ?だからたまに地方に赴いて魔物の調査とかもやるのさ」
すると少し声をひそめ、
「普段は他の冒険者に任せるが、任せっぱなしだとたまに適当な報告がくるからな。監査も兼ねてるんだ」
と裏事情を教えてくれた。
なるほど、それでヴェルダに来たのか。
............ん?
「ねえパパ、ってことは知ってたよね?」
「あ、あー......黙って急に会わせた方が面白いってマリエッタがな......」
「パパ嫌い」
わんわん泣き始めたパパは放っておく。
夫婦揃って人が悪すぎる!
「でもメイド姿じゃないセレスさんも新鮮だね。初めて見たけど似合ってるよ、その格好」
「エヘッ、ありがと。ほら王都ではちゃんと説明しなかったけど、メインのお仕事はこういう荒事のサポートなんだよね」
口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになり、すんでのところで耐えて飲み込んだ。
「そ、そうなの!?」
「うん、メイドはグレッダ様が王都にいる間だけの臨時の職なの。だからなかなか覚えられなくてさぁ......」
「セレス、先週の座学の時間にまた居眠りをしていたそうだな?」
グレッダさんの冷たい一言に、さすがのセレスさんのこめかみに冷や汗が浮かぶ。
「それで?初等学校はどうなの?アミーカちゃんとはちゃんと仲良くやれてる??」
誤魔化したな?
グレッダさんとふと目が合うと、「まあセレス(さん)だしな」と、意見が一致したのが分かった。
「うん、アミーカとは変わらずだけど、お互いやらなきゃいけないことが増えたから、去年ほどは遊んでないかな」
「そっかぁ、でも仲いいんだったら良かった。今日はアミーカちゃんのおうちを借り切って晩御飯だからね」
さっき別れた時、アミーカはそんなことを一切口にしなかった。
と言うことは......
「も、もちろんマリエッタからフローラさん経由でバルド含めてみんな共犯だ」
「もう口きかない」
素直なパパの白状には素直な怒りをぶつけとくことにした。
アミーカまで巻き込むなんて!
「ただいまー!あ、もういらしてたんですか、遅くなってすいませんでした」
ママが帰ってきたが、テーブルで泣きわめくパパを見て、踵を返して外に出ていこうとする。
私はダッシュでママの服を掴んで引き止めた。
「ちょっとそこの”台風娘”さん、夜ご飯までじっくり話を聞かせてもらおうかしら?」
ママを家の中に引きずり込み、
バタン!
ドアを締める。
そこから先は......まぁグレッダさんとセレスさんが少し怯えてたとだけ言っておこう。
さてさて、夜ご飯はどうなることやら......
ということで突然のグレッダさんたちの来訪でした。来訪目的はもうひとつあるんですが、それは次回のお話しの中で。




