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【旧作】じゃじゃ馬セレナの不器用真っ直ぐ錬金術〜未来の誰かのための魔導具作り〜  作者: 八坂 葵
第四章 帰還、そして選択の前夜

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第70話 気付かせられた側

学校の変化について。

今日はマチルダ先生視点から。

セレナは出てきませんが、代わりにコンビのアミーカが出てきます。

 セレナ・シルヴァーノという少女を、私は二年以上見てきた。

 初等学校教師として、担任として。


 つむじ風コンビとして悪名を馳せ、教師を手玉に取って遊んでいたあの頃の幼さは、いつの間にか影を潜め、急激に大人びた姿勢を見せ始めた。


 その、クラスの中では特異とも言うべき存在が、ここ最近ではとても目立たない存在になっている。



 私は業務日報を書き終えると、クラスへと足を運ぶ。

 三年生はどのクラスも放課後に生徒が残り、自分のなりたい職業や、関わりのある職業について話し合っている。


 そこから小さいグループに分かれて、互いの知っておいてほしいことを教え合ったり、一緒に勉強をして、また集団に戻って成果を話し合ったり。


 そうやって過ごす今年の三年生たちの顔はとても生気に溢れている。



「まあ上手くいったらラッキーと思ってください」


 そんなことを言っていたそもそもの仕掛け人は、どんな顔でこの状況を見てるのだろう?


 私には関係ないと素知らぬ顔をしてるだろうか、それとも思わぬ広がりに焦り、またやらかしたと反省でもしてるだろうか?


 どちらも彼女らしくて、私はつい「ふふっ」と笑い声を漏らしてしまった。

 すれ違った女子生徒に、「ごめん、思い出し笑いしちゃった」と言い訳をして、再びクラスへ向けて歩き出す。


 おそらくうちのクラスも他のクラス同様、あれこれと活発な議論を交わしていることだろう。




 クラスの前に着く。

 ......おかしい、やけに中が静かに思える。

 私は教室の前ではなく後ろのドアに回り、そっとドアを滑らせる。


 ......誰もいない。

 昨日はうるさいくらい活発な話し合いをしていたというのに。

 まさかもう飽きてしまったのだろうか。


 そんな不安に襲われ、胸に当てた手に力が入る。

 その時、


「あれ?マチルダ先生、どうしたんですか?」


 中をうかがっていた私の背後から、アミーカさんに声をかけられた。


「あ、ああアミーカさん。いえ、今日は誰もいないんだなぁって少し寂しくなってたの」


「あ、先生知らなかったですよね?今日はうちのクラスは一年生の子達に、この街がどういう職業で成り立ってるか、そのお話をしに行ってるんですよ」


「え!?まさかまたセレナさんが?」


 私は驚いてそう尋ねた。

 たいていこういう時はセレナさんかアミーカさん、どちらかが関わってきた事が多い。


 しかしアミーカさんはパタパタと手を振り、


「やだな、先生。セレナも私も最近は中心にいないようにしてるんですよ」


「いないようにしてる......?」


 わざと、ということかしら?

 アミーカさんの真意を測りかねて、私はそう尋ねた。


「ええ。私たちは目指すものがあるから。そっちも学校もなんて出来るほど器用じゃないですし」


「それに、今回はクルトがやってみたいって言って、みんなが賛成したから、セレナと私は話し合いの時に助言をしただけです」


 なるほど、二年以上をかけて二人の積極性はクラスのみんなにもいつの間にか伝播していたようだ。


 それを見落としていたことに気付き、顔が熱を帯びてついうつむきそうになる。


「最近は私たちがいなくてもルナとクルトが中心になってみんなを巻き込んでくれてます。だから私は今日は料理の特訓に安心して行けるんですよ」


「安心して?」


「うん。もうイタズラとかで無理やりみんなを笑わせなくても、一人ひとり学校を楽しんでる。学校を良くしようと頑張ってる」


 アミーカさんはちょっとだけ寂しそうな顔をして、


「だから、セレナも私ももう学校を普通に楽しんでいい。寂しいけど、同時に嬉しいんです。ようやく『クラスメート』になれたなって思って」


「アミーカさん......」


「あっ!勘違いしないでください。『つむじ風コンビ』の時はそれはそれで楽しかったんですから。でもこういう『普通』の楽しさもあるんだなって、ようやく気付けたんです」


 そう言ってアミーカさんは教室の時計を見ると焦りの表情を浮かべた。


「いっけない、早く帰らないとパパに怒られちゃう!先生、また明日ー!」


 そう言ってアミーカさんはあっという間に走り去ってしまう。

 あまりの速さに挨拶を忘れてしまったほどだ。


「まったく、あなたは今でも『つむじ風』ね、アミーカさん」


 代わりにそんな独り言を呟き、笑ってしまった。




 それからしばらくして、うちのクラスでやっていた下級生への職業説明の企画は、三年生合同で行うことになった。


 さらに二年生、三年生向けに街で働いてる人を定期的に招き、実際の働いてる人目線の話を聞く機会を作った。


 これらがすべて生徒主体の動きだというのだから、他の街の教師が聞いたら何の冗談かと思うだろう。



 私たち教師だけではきっと成し得なかった学校の『成長』。


 "教える"というのはとても上からの目線なのではないだろうか。

 こういった"気付き"を与えることこそ本当の教育なのではないか?


 セレナさんならどう答えるだろうか?

 あの妙に大人びた教え子の考えを聞いてみたいと、私は歩き出した。

次回はセレナから見る学校の変化と、自分自身の"これから"を考える話です。

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