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【旧作】じゃじゃ馬セレナの不器用真っ直ぐ錬金術〜未来の誰かのための魔導具作り〜  作者: 八坂 葵
第四章 帰還、そして選択の前夜

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第66話 桜の世界で眠りにつく才能

震えが止まらず気絶したセレナ。

手を引いたのは久しぶりの"あの人"です。

「う、うーん......」


 私が目を覚ますと、そこは一面ピンクに染まったような世界だった。


 木々に咲いた小さな花びらが、風に吹かれて一枚、また一枚と風に乗り、どこへともなく飛んでいく。


 さっきまでの震えも止まっていて、私が呆気にとられてこの光景を見ていると、


「や、起きた?」


後ろから声をかけてくる女の人の声。

この声は.....

私はぐるっと後ろを振り返る。


「澪!?じゃあまたここは夢の世界なの??」

「そそ、いらっしゃいませ、澪の世界へ♪」


 澪はたしか着物と呼ばれる服に身を包み、お盆の上にふたつのお椀を乗せている。


 そして近くにあった椅子にお盆を置くと、くるりと一回転する。


「素敵でしょ?」

「うん、とってもキレイだね」


 そう言われた澪の顔はどことなく嬉しそうだ。


 たしかに薄紅色の生地に描かれた様々な植物や川のような模様は、とても澪に似合っている気がした。


「こっちおいで。花もキレイでしょ?私の国で春に咲く花で『桜』って言うんだよ?」


 そう言って澪は私を椅子へと誘う。


 『桜』かぁ、たしかに一枚一枚可愛いけど、下に積もる花びらの絨毯もまたキレイで、あり方によって魅力が変わるのがよく分かる。


「ま、ま、まずは一杯どうぞ」


 そう言ってお椀を差し出すと、中には薬草を溶かしたような緑の液体が入っていた。


「な、何コレ?飲めるの?」


「うん、抹茶って言って、私の国では普通に飲んでるお茶だよ」


 澪がそう言うならそうなんだろう。

 私はお椀を持って一口。


 すると、口いっぱいに広がる苦々しい味!

 私はなんとか我慢して飲み干すが、思いっきり咳きこんでしまう。


「ゴホッ、ゴホッ......澪、これ本当にお茶?すっごく苦いよ」


 澪は「あ、やっぱり?」と悪びれずに言うと、その抹茶?を持って奥にさがり、何かを入れるような動きをしてまた戻ってきた。


「これならきっと大丈夫だよ」


 渡されたお椀の中は、今度は薄緑の白っぽい液体に変わった。


「これも苦かったら、私めっちゃ泣くよ?今気持ち沈んでるんだからね」


 じとっと睨んで澪をそう脅すと、


「大丈夫だって、ほら、騙されたと思って一口飲んでごらん」


 というので、半信半疑で口に運ぶ。

 すると、


「これ、ミルク!?でも甘いよ。あ、中にさっきの抹茶みたいな香りも少し残ってる。これなら私でも飲めるよ!」


「だと思ったんだ。これはね、『抹茶ミルク』って言って、これも私の国では普通に飲めるやつなんだよ。セレナが喜んでくれてよかったよ」


 そう話す澪の顔は本当に嬉しそうだが、ふと真面目な顔に戻る。



「セレナ、変な目になっちゃって困ってるんでしょ?」


「う、うん......」


 つい先ほどまで悩んでいたことを持ち出され、私の心はまた深く沈む。


「あれね、正確には見通す者(パースペクター)ってやつじゃないんだよね。セレナの魔導具レベルが急に上がって、私のプログラミング知識と結びついた結果なんだ」


「どういうこと!?」


「プログラミングは『最適化』がとても重要なの。魔導具なら回路の無駄を減らし、少ない処理で魔石の負担を減らし、力をロスなく結果に導く」


「今までのセレナにも『最適化』の知識はあったけど、それを再現する腕がなかった。でもここ最近で急に腕上がったでしょ?」


「ええ、どこぞの鬼教官のおかげでね」


 そう答えると澪はクスクス笑う。


「それで、『最適化』を再現できるようになったんだけど......なんでか知らないけど最適化ラインを目で見て分かるなんて能力になっちゃったんだよね」


 そう言うと澪はうーんと頭を掻いて難しい顔をした。


「たぶんこの世界に魔力とかがあるせいだとは思うんだけど、さすがに私の世界は魔法とかなかったから分からなくてさ......ごめん!」


 そう言って手を合わせて頭を下げる澪。


「これ、もう一生このままなのかな?」


 私は不安を隠そうともせず、手を握り俯きながらそう尋ねる。

 澪は私の手を取り、首を横に振る。


「たぶん原因は私にあるから抑えるよ。まあ起きたら試してみて」


 えっ!?


「そんなこと出来るの?」


「私がセレナの中にいる間ならね。でも私が消えても『最適化』は残るから、それまでに自分を守ってくれる環境を作るか、自分が偉くなるか、どちらにせよセレナがセレナらしくいられる環境を準備しておいてね」


 そして私の肩に手を置き、真っ直ぐ目を見てくる。


「今は私が抑えててあげるから、セレナはそのまま何も考えず真っ直ぐ進んで。不安そうな顔なんて一番似合わないよ?」


 そう言ってウィンク一つ。

 まったく、この『私』は私を分かりすぎる。

 欲しいものばかりくれちゃって......


「私はどうしたらいい?」

「どうしたらって何が?」


「私は澪にまだ何も返せてない!もらってばっかりで、いつ消えるかわからない澪に何をしてあげられるの!?」


 澪は少し困った顔をして私の方に手を置く。


「じゃあ高等学校行ったら恋の一つでもして、恋バナを聞かせてもらおうかな?」


「こ、恋バナって何......?」


「恋の話、略して恋バナ。セレナがどういう人を好きになったとか、こんなことをしてあげたいと思ってるとかさ、そういうニマニマしちゃうやつ」


 フフッといたずらめいた笑顔を浮かべて澪は私の首に手を回す。


「魔導具も大切だけど、女の子としてもちゃんと経験積んで、いい相手見つけなよ?」


 私もこの手の話はまだ苦手なんだよな......

 なのでサラッと話題を変えてみる。



「そ、そういえばさ、見通す者(パースペクター)じゃないなら、私たちの能力って何になるのかな?」


澪は頭をひねり、


「うーん、見通すって言うより、ズレた魔力を正しい位置に合わせてる感じだから......じゃあさ、調律者(チューナー)はどう?世界そのものを調整(チューニング)してるみたいだし」


 と提案してきた。


「チューナー......うん、呼びやすいし、とりあえず今はそれで呼んでおこっか」


 私たちはニコッと笑ってハイタッチ。

 さすが半身、息もピッタリだ。


「じゃあ私そろそろ引っ込むねー」

「またぁ?もう少しいればいいのに」


「あと一年くらいでいつでも出られるようになるからさ。その時今のセリフを後悔しなきゃいいね」


 クスッと笑みをこぼして澪は手を振る。

 次第にその姿が薄くなる中、私も何度も何度も手を振り返した。


「ありがとー、澪ー!また会いに来てね、約束だよー!!」


 澪の姿が完全に見えなくなると、私の意識も次第に闇に落ちるような気がしてきた。



 とりあえずあの能力(・・・・)が抑えられるのなら良かった。早くパパとママに知らせ...な、きゃ......

セレナは気づいてませんが、澪はセレナの中にいるので、恋バナも何も澪の意識さえ起きてれば現場をリアルタイムで見られます。

セレナの口から言わせたい、悪趣味な子なんですね〜(笑)

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