第65話 守られるという恐怖
「失敗は次に活かせ」なんて言葉がある。
じゃあ教えてほしい。
失敗して家に帰った途端にまた正座を強いられてる私は、失敗を何にも活かせなかったのか?
「二日連続で正座するとか、あんたいつから正座好きになったのかしらねぇ?」
「うわーん、ごめんなさい!だってあんなことになるなんて思わなかったんだもん!!」
私は両手をついて頭を下げた。
「まったく。あんたに外で作らせると何やらかすか分からないわね。高等学校大丈夫かしら......?」
「だ、大丈夫!もうあれやらないから」
「ってことは自覚があって再現性もあるってことね?」
うっ!......ついのせられて白状してしまった。
とはいえ、さすがに二人には話さないとまずい。
「あのね......」
私は震える声をなんとか抑えて、あの時自分の身に起きたことを話す。
回路に走る魔力が見えたと話した時、ママの眉がピクッと跳ね上がったが、落ち着いて最後まで聞いてくれたのはありがたかった。
「『パースペクター』......まさか実在するとはね。それが自分の娘とかもう笑い話よ、これ」
「パ、パースペクター?」
ママは工房の書棚から一冊の古い本を取り出し、ページを開いて渡してきた。
「見通す者、あらゆる魔力の流れを見通し、それを最適化出来る者の名称。セントーレ王国で最後に確認が出来たのは三百年以上前。つまりそんな伝説の存在よ」
「え、えーと、さっきの実は冗談で......」
「冗談にしてもいいけど、事実は変わらないわよ?」
はぁ......なんなの、それ。
頭が痛くなってきた。
「魔力を最適化、つまりセレナがさっきの能力を使って魔導具を作れば、魔石からの魔力ロスをほとんどなしで現象に変化できる。だからさっきのランタンみたいなことが起きるわけ」
「とりあえず二人とも座ったらどうだ?」
ここに来てパパがようやく椅子を勧めてくれた。できれば土下座前にほしかったよ。
「セレナ、正直に言うぞ?こんなのが人に知られたら、照明どころの話じゃない。おそらく貴族か王城に軟禁されて、魔導具を作らされる一生になる」
「仮にそれを逃れても今度は他の国から狙われるし、あんたたぶん一生気の休まる暇も、開発するヒマもなくなるわよ」
二人の言葉はとてもよく分かる。
まさか王都から戻ってもこの問題に直面するとは......
あぁ、頭に続いて胃まで痛くなってきた気がする。
「分かってる。もう二度と使わない。使うとしたら......絶対安全だって、自分で言い切れる時だけ」
私がそう答えるとふたりはホッとした顔になった。
すごく心配かけちゃったなぁ。
「念の為にグレッダに連絡入れておくか?カイル様からの懐中時計があるとは言え、あの時とまた状況も違うしな」
「そうね、もう半分それに近いようなものだけど、正式にカイル様に後見人をお願いした方がいいような気もするし」
後見人?
「後見人って何?」
「要は後ろ盾だな。今は時計一つだが、あらためてセレナのことはアドルフォス家が責任をもって管理していると周囲に知らせることだ」
「よりセレナの守りは強くなるし、アドルフォス家の後ろにいるオーギュスト様の影もちらつくから、よほどのことがない限り手出ししにくくなるわよ」
二人がそう説明してくれるが、
「それって『囲われる』ってこと?」
私の質問にふたりはとても難しい顔になる。
「それは貴族によるからなんとも言えんな。カイル様は大丈夫そうな気もするが......それも含めてグレッダに確認を取ってみよう」
パパはそういうと自分の工房に入っていった。
ママは椅子から立ち上がり、私のそばに来ると、優しく私を抱きしめる。
「大丈夫よ、セレナ。私たちが何をしてもあなたを守るから。あなたはただ真っ直ぐそのまま伸びていきなさい」
その言葉に胸がじんわりと温かくなり、ママを抱きしめ返す。
突然降って湧いたこの能力、澪の知識と掛け合わせたら、おそらく私はこの世界を変えられるだろう。
ブルルッ......
そう考えただけで急に怖くなり、身体が震え出した。歯の根も合わずカタカタ鳴り始める。
「セレナ?......セレナっ!!」
「どうした!」
ママの叫びを聞きつけてパパも工房から飛び出してくる。
私の震えは止まることなく、その中で誰かに呼ばれたような声と私を引っ張るような感覚。
そこで私はフッと意識を失ってしまった......




