第63話 才能の置き場所
セレナの考える"進路"について家族会議......というか面接がスタートです
汗ばみはじめた手でカバンから書類を取り出し、一部ずつパパとママの前に置く。
その表紙には......
「ウルヴィス高等学校。ここに進みたいの」
少し震える声で私はそう告げる。
この道が正しいかは分からない。でも私なりに「正しくあろうとした」道ではある。
だから、私はどれだけ不安でも、顔を上げて二人を真っ直ぐ見つめた。
「......まず、高等学校を選択した理由は?」
ママが私の視線を真っ直ぐ見返し、そう尋ねてきた。
「えっと、工房修行は工房で出来ることがまちまちな上、最初は下積みから。開発に進めるまで何年かかるか分からない」
「それに工房は利益を出さなきゃいけないから、自由に開発なんて無理。その点学校なら機材は揃ってる、素材費は国負担。下積み不要で初年度から学べる。いいことづくめなの」
あー、お腹痛くなってきた......
貴族三人に説明するより、ママに説明するほうがお腹痛いとか、なんだろね?
「じゃあ、ウルヴィスを選んだのは何でだ?王都ならセレナも知った顔があるから、気楽だろう?」
今度はパパがそう聞いてきた。
いかにも「なんで?」って顔してるけど、そろそろ分かってるからね?
私の理由も知ってて聞いてるの。
「レオニス・フェルディナルト教授。王都の錬金術ギルドで最高の開発者を、ウルヴィスは去年スカウトした。たぶん高等学校ってことで言うと、ここが今一番開発に力を入れられる」
学校で高等学校のパンフレットを探してた時に、マチルダ先生に相談したら、今の話を出してウルヴィスを勧めてくれた。
「なんかさ、王都の錬金術ギルドで働いてた人ってどっかにいたよね?」
わざとらしく首をひねって、そのままパパの顔を覗き込むと、あっさりと負けを認めたようで、
「はいはい、知ってるよ。俺の同期さ」
と、すぐに白状した。
だと思ったんだよね。
ってか、パパ自身も腕あるくせに、周りの人達も豪華すぎない?いや、腕があるから周りも豪華な人になるのか......??
「じゃあ最後ね。高等学校を出たらどうするつもり?」
ん?出たら??
唐突で随分先の話のママの質問に
「え......ま、まだ考えてない」
と、しどろもどろに答える。
「ハァ、これだもの。今はいいけど半年以内に考えておきなさい。後で変わってもいいから」
「入る前から早すぎない?」
「そんなんだから王都でアミーカちゃんに置いてかれそうになるんでしょ?」
グサッ!!
まだ古傷にもなってないことを遠慮なしに責めやがってぇ......
「先にやるべきことが決まってたら、今何をすべきか見えてくるでしょ?それがないまま学ぶなんて非効率よ」
「あぁ、なるほど!」
指をパチンと鳴らす。
ママは手元のパンフレットを丸めて、私の頭を軽くパコンと叩く。
「生き急げなんて言わないわ。でも無為に過ごす時間は極力抑えなさい。目の前のことだけにとらわれすぎるその性格もそろそろ直したほうがいいわよ」
そっか、そうだね。目的意識ってやつはたしかに大事だ。それがあったからこそ、私もアミーカも王都で成長できたんだから。
「とりあえず高等学校はそれでいいわよ。元々反対する気もなかったし」
「えっ!?じゃあ今までの質問は何だったの?」
「答えに納得行かなかったら学費と援助金なしにして、自分で稼がせようかな?って」
こ、このぉ......
絶対ママを超えてやるっ!!
「そろそろいいだろ、マリー。今日はセレナのお祝いに『月のしずく』に行く約束だったじゃないか。そろそろ行かないか?」
「あなたの目にはお酒しか映ってなそうでちょっと納得行かないけど......そうね、楽しむことは楽しむ。それがシルヴァーノ流だものね」
そう言って笑うママの顔は、本当に心からの笑顔のように思えた。
『月のしずく』へ行くと、フローラさんが出迎えてくれる。
「あら、いらっしゃい、マリエッタ。今日は酒盛りじゃなくてホッとしたよ」
そう言ってママと顔を見合わせて笑うフローラさん。
厨房から視線をこちらに送ってきたアミーカに、私は小さく手を振って笑いかける。
その時、お店の片隅がフッと暗くなる。
どうやらテーブルに吊るされてたランタンが壊れたみたいだ。
それを見た瞬間、暗くなった空間にまるで吸い込まれるように私の足は動き出す。
(私もいつかあんな笑顔を作り出したいなぁ......)
昔のあの想いが心の奥から湧き出てくる。
いつか、じゃない。今、だ!
「私に見せて!」
走り出した想いを声に乗せて、私は手を差し出した。
とりあえず高等学校進学は許可を得て、セレナの焼き付け(凶悪)課題クリアのお祝いに来た『月のしずく』で、過去の回想と重なる展開に。
セレナの伸ばした手は、笑顔を生み出せるのか、それとも......?




