第62話 認められた技と、次の問い
"鬼教官"からの凶悪な課題。
果たしてセレナは出来たのでしょうか?
「頑張れば報われる」なんて言葉がある。
じゃあ教えて欲しい。
四つの焼きつけられた回路を目の前に、正座を強いられてる私のこの状態はなんだ?
いや、ほんと頑張ったんだよ?
睡眠時間も毎日一時間削って、帰宅時もダッシュで帰って。
「四つやって三つ成功、一つ失敗ね......私なんて言ったっけ?」
「......一ヶ月で全部完璧に出来るようにです、師匠」
......無言。
ツ、ツライ。
最後の最後、きっと寝不足がたたったんだと思う。集中力が持たずに魔力がほどけて、フォークの先っぽ分くらいの細さ、回路が届かなかった。
「いつ出来るの?」
「明日には」
「クライアントを一度裏切った錬金術師が、再度裏切ったらもう終わりよ?明日でいいのね?」
マリエッタ師匠はグイッと顔を近づけて覚悟を迫ってきた。
「必ず!」
お腹に力を入れ直し、拳に力を込めてそう誓う。これ以上寄り道はしたくない!
「分かった......じゃあ、合格!」
「ハァッ!?」
マリエッタ師匠が何を言ってるのかサッパリ分からなかった。たった今裏切ったらーーとか言ってたはずなのに。
だけどこの感じは過去に何度か味わった、あの感覚に似てる。まさか......
「うん、そう。卒業試験が四枚もあるわけないでしょ?どれか一枚よ」
これは......水の魔石をフル出力で放出するくらいは許される案件ではなかろうか?
「ママっ!!」
「いやーん、師匠って呼んで?」
くねっとするな!
もう、もう、もうー!!
またやられた!
「でもね、誇っていいわよ。この試験、工房で三年修行した子に三ヶ月の期間を与えて試す試験だから」
思わず椅子から崩れ落ち、床に手と膝をついてうなだれた。
枚数どころか期間までいじくってたとは。
「あ、あのね。本気できつかったんだけど?」
ゴロンと転がって天井をあおぎ、目を腕で覆う。泣いてるわけじゃなくて、目が疲れたのだ。
なにせ一枚二十分はかかる焼き付けを四枚連続。単純計算で一時間二十分、目と腕と魔力を酷使してたのだから。
「セレナ、お疲れ!」
奥の工房からパパが出てきた。
手に小さなスポイトのようなものを持っている。
「ほら、そうなると思って目の疲れが取れる薬を作ってやったぞ。これを一滴ずつ目に垂らしておけ」
はぁ、用意いいな。
この夫婦はつくづく裏での計画が好き過ぎる。
どうせ今回も示し合わせて、最初から今日試験することにしてたんだろう。
床から起き上がり、目薬を受け取り、目にさす。
ポタッ......
薬を目に垂らすと、ほんの少しスーッとした涼しさが目を覆い、すぐにおさまる。
再び目を開けると、さっきまでのどうしようもない目の重たさは消えていた。
「これ、すっごく効くね。ちょっと今度作り方教えて、パパ」
最近貴族関連の本を読みふけってるアミーカにプレゼントしたら、喜んでくれるだろう。
「おお、いつでもいいぞ。任せとけ!」
ドン!と胸を叩くパパ。
王都でのあれこれを通じて、パパは昔ほど過剰な愛情表現をしなくなったし、私もパパの仕事に一層敬意を持てるようになった。
今がすごくちょうどいい距離感だ。
「セレナ」
少し緊張を含んだママの声に、私は立ち上がって姿勢を正した。
「魔導回路に関して、まだ精度を磨いたり速さを上げたりと、詰めようと思えば色々詰められるわ」
また新しい課題か?
ゴクリ......と唾を飲み込む。
「『魔導回路』の焼き付け、この部分に関してだけは卒業ね。素材のことは自分で学び続け、明日からは市場に出向いて価格感覚も身につけなさい」
みと、められた?
い、いやいや、あのママだよ?またどうせ「なんてね?」とか言って私をキー!ってさせるに違いないよ。
そう思ってじーっとママを見つめているけど、何も反応がない。
え、まさか......ホントに?
「しつこいわね、合格って言ったでしょ?」
耐えきれなくなったママがもう一回そう告げてきた。
それを聞いてもまだ信じられなかったが、身体は正直なもので、膝から崩れ落ちてしまった。
涙も出そうだが、まだグッとこらえる。
「バカねー、こういう時こそ泣いて喜んでいいのよ。ほら、たまにはママやってあげるから」
そう言うとママは腕を広げて私を抱きしめた。
「よく頑張ったわ、セレナ。あなたは私たちの自慢の娘よ」
「ウッ…ウワァァン......バカッ、ママのバカッ、我慢してたのにぃー」
心の中に手を入れられてかき混ぜられたように、グチャグチャになっていた。
もう何が理由で泣いてるか私にも分からなかったけど、ただ泣けた気持ちよさだけが心に広がり、気がつけばママの腕ですやすやと眠ってしまっていた。
次の日。
私は再度四枚の回路図へチャレンジしている。
合格とかじゃない。
明日なら出来ると伝えた、私自身の言葉に対して責任を取りたかったからだ。
結果は......
「うん、たしかに四枚合格。きちんと借りを返したわね。」
『借りを返せた』
この言葉が薄く濁っていた心の霧を晴らしてくれた。
「これで最低条件はクリアできたわね。それじゃ、そろそろ次の話をしましょう」
そう言うと同時にパパが工房から出てきて食卓へ腰を掛けた。
「あなたの”進路”について考えを聞かせてもらうわよ?」
来た!
この日のために私もきちんとかんがえてきたことがある。
私はカバンを持ち、ふぅと一息ついて呼吸を整えると、まっすぐに前を見据えて踏み出した。
食卓につき、パパとママの顔を見渡しながら切り出す。
「あのね......」
ママも相当無茶しますが、それを根性だけで乗り越えるセレナもセレナですね。
次はいよいよ進路の話。
"開発"という道に対してセレナの考えとはいったい何でしょうか?




