第57話 魔導具は誰のため?涙が拓いた新たな道
いよいよ街灯の話。
ですが今回セレナにしては珍しく、遠回しな話から入ります。
「ねえ、グレッダさん、魔導具って何のためにあるんだろう?」
私は最初にそう切り出した。
クナ・ヴァポリスの一件、そして今回の街灯の件。私は本当によく分からなくなったから、伯爵という立場のグレッダさんに聞いてみたかった。
「それは人々の暮らしをより良くするためのものだろう。セレナちゃんもそのために作ってるんだろう?」
「うん、そだね......」
胸がきゅうっと痛む。
本当ならこんなのグレッダさんに言う必要はないから。
ちょっと不器用で言葉足らずだけど、パパの友達なだけあってとても優しい貴族様。
「貴族の役目って何だっけ?」
「むぅ......」
グレッダさんはすぐに悟ってくれたようだ。
私は声を圧し殺して続ける。
「クナ・ヴァポリスってみんなの暮らしが少し、ほんの少し良くなる魔導具。でもね、そんなのを広めただけで、貴族様にさらわれちゃうんだって。」
グレッダさんは眉をひそめ、とても苦しそうな顔をしている。
これ以上はやり過ぎだ。
そう思った次の瞬間、私の口からするっと
「ねえ、貴族様ってなに?」
と我慢しきれなかった酷い問いが出てしまう。
そして私の問いに誰も答える人はいなかった。
この国の悪い貴族全ての責任を、ただ同じ貴族であるという理由だけでグレッダさんに問いただした。
グレッダさんはそんな貴族と正反対の立場で頑張ってくれてるのを知ってるのに。
私は......とても卑怯者だ。
「私は将来みんなの暮らしを良くする、みんなが笑って暮らせるような魔導具を開発したい。でもそれを達成するには、この国はとても怖いの」
「グレッダさんに相談したい内容は、クナ・ヴァポリスが霞むほどの内容。私、無事でいられるのかな?それがとても怖いんだ」
握る拳の力が次第に強くなる。
ポタッ
我慢しきれなかった涙がこぼれ落ちた。
その涙を見たグレッダさんは拳が砕けるんじゃないかと思うほど強く握りしめ、勢いよく立ち上がる。
「セレス!今すぐオーギュスト様の元へこれを持て。明日の夜、我が屋敷で危急の要件があると伝えよ。求められるものには最大限応じるともな」
グレッダさんはセレスさんにカフスボタン?を渡す。それを受け取ったセレスさんは脱兎の勢いで店外へと飛び出していった。
そしてふぅ、と一息つくと、
「セレナ嬢、私はここに誓おう!今日この日から今まで以上にこの国の腐敗を正し、そんな心配など決してさせない、そんな国を作って見せると!」
とキッパリと宣言する。
そして私の元へ来て両肩へ手を置く。
「まずは明日、あらためてその相談を聞かせてくれ。オーギュスト様もいらっしゃる。あの方ならば公爵の立場から、より強固な守りを授けてくれるだろう」
私の肩に置かれた手は、いつもの力強さだけでなく、薄く震えが残っている。
グレッダさんも怖いのに、それでも貴族として踏み込んでくれたんだ。
ありがとう......グレッダさん。
その時背中をパーン!と勢いよく叩かれ、私はあまりの衝撃にグレッダさんにもたれかかってしまった。
後ろを見ると......アミーカッ!?
いやすぐ後ろにママがいる。なら仕方ない。
「やるじゃん、セレナ。きちんと自分の進みたい道をハッキリ示して、何をしたいか言えたわね。やり方はちょっとあざとかったけどねー」
「セレナ、大丈夫?今日無理し過ぎだよ」
あぁ、アミーカの優しさがとても身にしみる。
私はアミーカの首に手を回し、
「あー、なんか落ち着くなぁ。やっぱりアミーカが一番だ」
と、首にぶら下がるような格好になる。
「ちょ、重いよセレナ」
「んー、もう少しぃ」
「ヤダ、重いもん!」
仕方ない、私は渋々手をほどいた。
でもおかげでやっと落ち着いてきたぞ。
「グレッダさん、さっきカフスボタンみたいなの渡してたよね?大丈夫なの、あれ」
「ああ、見えてたか。別に大したものじゃないんだ。まあみんな座ろう。そろそろ飲み物の一つもないときついだろう」
グレッダさんがベルを鳴らすとウェイターさんが三人、お酒を持って入ってくる。
三人ともスタイルがいいのはもちろん、何よりもその所作がとても綺麗だった。
さすがは超一流店。
その後ろから一人の青年と一人の少年が入ってきた。
「グレッダ伯爵様、ご無沙汰しております」
「グレッダ伯爵様、お久しぶりです!」
青年の方は20歳くらい。金髪でとても整った顔立ちで、物腰が柔らかそう。
少年はたぶん私たちと同じくらい。
サラサラの銀髪に金色の瞳。やはり整った顔立ちだけど、こっちは爆発前の元気いっぱいな子って感じ。
「おお、アドルフォス侯爵家のカイル殿にレオン殿!このようなところでお会いするとは奇遇ですな」
グレッダさんは椅子から立ち上がり、そう言って手を差し出した。
「いかがなされました?突然いらしたので驚きましたぞ」
「いえ、先ほどセレスティンさんが大急ぎで外へ出ていくのを見かけ心配になりまして」
「ははぁ、それはご心配をおかけして申し訳ございませんでした。しかしその配慮、さすが次期公爵家当主であらせられますな」
グレッダさんがすっごくへりくだってる。
言葉遣いもなんか聞き慣れない。
「ププッ」
私は思わず笑いが漏れてしまった。
隣でママが顔を覆うのが見える。
「はて、そちらは?」
「ああ、庶民ですが私の古い友とそのご家族と友人です。娘さん達は確かレオン殿と同じくらいの年齢だったかと」
すると、ツカツカと少年が歩み寄り、
「僕はレオン・アドルフォス、十二歳だよ。君たちは?」
と私の手を取って握手してくる。
突然手を握られたことで、すごく焦ったけど、なんとか動揺を抑えて、
「わ、私はセレナ・シルヴァーノです。十一歳です」
と答える。
アミーカは人付き合いうまいからけっこう普通に対応してた。
ちくしょう、負けた......
「レオン、女性の手をいきなり握るのは失礼だとあれほど言ってるだろう。すみません、お嬢様方、まだ貴族教育が行き届かず、大変失礼をいたしました」
とカイルさんが軽く頭を下げてくれる。
「でも珍しいですね。グレッダ伯爵なら『金の太陽』やご自宅に招くことが多いでしょうに」
カイルさんの言葉にグレッダさんはとてもバツが悪そうな表情をしたが、すぐに何かを思いついた表情になる。
「そうだ、カイル殿、急なお誘いで大変失礼なのは重々承知しておりますが、明日の夜我が屋敷へ遊びにいらっしゃいませんか?」
「え、ええ。明日は予定もないので構いませんが、何か?」
「ちょっと楽しい話をお聞かせ出来そうなんですよ」
「ふふっ、いつも竹を割ったような物言いをするグレッダ様らしくないですね。面白そうです、ぜひお伺いいたしましょう」
本当に楽しそうに笑ってふたりは握手を交わす。
どうやらグレッダさん、私たちの話にカイルさん達も噛ませる気みたい?
青年とは言え侯爵家次期当主とか言ってたし、これグレッダさんの強力な盾一枚を期待してたのが、下手したら公爵、(次期)侯爵、伯爵の超強力な三枚が揃いかねない事態になったぞ?
「セレナ、あんたとんでもないカード引いたわね。使い方間違えると取り込まれるから、気をつけなさいよ」
背後からママの真剣なアドバイスが飛ぶ。
うん、分かってる。
でもね、
「私がようやく掴めた夢だもの。国や貴族やそんなものには絶対負けないよ!!」
いよいよ王都編もクライマックス。
セレナの新しい街灯の概念が貴族にどう受け入れられるのか、どこまで影響を及ぼすのか。
そして忘れられているルキウスとパステルの『魔力酔い』の薬の開発やいかに?(笑)




