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【旧作】じゃじゃ馬セレナの不器用真っ直ぐ錬金術〜未来の誰かのための魔導具作り〜  作者: 八坂 葵
第三章 王都という名の試練

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第56話 こぼれ落ちた本音、交わされた本当の償い

グレッダさんとの会食。

今回の慰労会兼、クナ・ヴァポリスの契約兼、新街灯の相談と、内容たっぷりです。

まずは王都最高級のレストランシーンからどうぞ♪

 馬車が建物の前についた。

 門の横には『蒼玉の輝き』と上品な書体で彫られた金のプレートが、嫌味にならない程度の大きさで、しかしきちんと存在感を示し、私たちを出迎えてくれた。


 中はとても大きな敷地で、門から建物入口の間には小さな噴水と、ランタンによってライトアップされた季節の花々が飾られた庭がある。


 ここまで完璧に整えられていると、そこにぽつんといる私だけが、完璧を邪魔する異物のような錯覚に陥る。



 パパのエスコートを受けて馬車を降り、庭を歩いていると、建物の入口で見慣れた貴族が手を上げて出迎えてくれた。


「おお、良く来てくれたな...?マリエッタ夫人、なぜそのような目を?」


 ふとママを見ると、まるで敵でも見たかのようにグレッダさんを睨みあげている。


「いえ、娘の魔導具を取り上げた性悪貴族が王都にいると聞きましてね。伯爵様にそのあたりとくと説明いただけたらなと」


 うわぁ、最初っから臨戦態勢じゃん。

 私に任せてじゃないよ、ママ。これだから任せておけないんじゃん!


「分かってる、それもあって今夜は招いたんだ。まあまずは飯といこうじゃないか。難しい話はその後でもいいだろ?」


 私とアミーカは小さく首を振る。

 こんな怖い状況で料理なんか味わえるもんか!


「グレッダさん......」


 私はか細い声で、でもなんとかグレッダさんに届くように呼びかける。

 ママの怒る顔を横目で見ながら。


「はぁ......分かった。先にその話をしよう。とりあえず店内に入るといい」


 グレッダさんに促され、私たちはおそらく人生二度となさそうな『蒼玉の輝き』へ足を踏み入れた。



 店内は一番奥に舞台が置かれ、その周りを楽団が取り囲む。レストランだからきっと歌手の人があそこで歌うんだろう。


 その舞台を囲うように席が配置されているので、外からは分からなかったけど、おそらくお店は丸い作りになっているみたい。


 グレッダさんはお店の奥に用意された個室に私たちを案内してくれた。

 ここだと歌とか聞けないじゃん......

 私が残念そうな顔をしてるのに気付いたグレッダさんは、


「ああ、悪いなセレナちゃん。まずは話をさっさと終わらせて、そうしたら向こうに出て料理を味わおう。今日は王都一の歌手も来るらしいから楽しみにしておくんだな」


 そう言って笑いかけてくれた。

 わー、すっごくたの......


「で、どういうつもりでウチの娘達をハメてくれたのかしら?」


 すごく冷たいママの声。

 部屋はとても暖かいのに、ママの声が通った先だけ、まるで外にいるかのような寒さだ。

 私の楽しい気持ちも一瞬でかき消された。



「まあ座れ。きちんと話してやるから」


 とグレッダさんが促す。

 私たちが座る間に部屋へと入ってきたセレスさんに、グレッダさんは二言三言伝えると、セレスさんがカバンから紙を取り出す。


「マリエッタ夫人は今回の勝負の件、どこまで聞いた?」

「全てに決まってるじゃない。だからこれほど頭に来てるんだけど?」


 ママの目はこの間もグレッダさんを睨みつけたままだ。

 グレッダさんも堂々としたもので、その目を真正面から受け止めている。


 もしかしてママ、今まで抑えてただけで相当怒ってる?いつもならレストラン入口のあの一幕だけで終わってたはずだけど。


 グレッダさんはゴホン、と咳ばらいをする。


「それなら分かるだろう。契約書を交わすのを待つ間、二人に持ち帰られたらそれだけ危険性が増す。二人に万が一の危険性を残さぬよう、あの場で貰い受けることが最善だった」


 そう言ってセレスさんから紙を受け取り、ママに差し出した。


「遅くはなったがこれが契約書だ。私とオーギュスト様の連名できちんとサイン済みだ。これでいいだろう?」


 ブチン!


 あ、嫌な音が聞こえた気がする!

 ママが私の後ろを通ってグレッダさんの方に向かう。凄まじい衣擦れの音が、私に遅すぎたことを知らせる。


「まっ......」


 あと少し、ママのドレスに届かず、私の手は空を切る。

 ダメッ!!


 そう思った瞬間


 ガシッ!


 とママの手をパパがギリギリ掴んで止めていた。


「落ち着け、マリー。俺の友だが伯爵だぞ。そう当たり前に逆らっていい相手じゃないのは分かるだろう」


「はぁ〜」

 私は良かったぁと口にして、思わずテーブルに倒れ込む。

 いくらグレッダさんが温厚だと言っても伯爵殴っちゃダメだよ。


 ママはパパの腕を振り払い、グレッダさんに掴みかかる。


「私が言いたいのはね、いくら事情があるから、お金を渡すからなんて理由をつけても、結局大人の理屈でセレナが苦心して作り上げた魔導具を取り上げたことを言ってるのよ!」


「セレナは大人びてるから大人の理屈を理解してこっちに寄せてしまう。でもね、十一歳の子どもなの!錬金術師としても見習いもいいとこなの。そんな子が友達のために一生懸命頑張って作って成功させた魔導具。それを取り上げられたセレナの心の傷をあんたは何も分かってない!それに怒ってるのよ!!」


 そう言ってママは涙をこぼした。


 ええっ!契約書交わさなかったことに怒ってたんじゃないの!?

 私のため?


 いやいや、だって納得してグレッダさんに渡したし、お金もくれるって言ってたから、オーギュスト様もいたし、だから我慢して......我慢?


そうか、私我慢してた。今、思いだした。



 頬をつぅと涙が伝う


「セ、セレナ?」


 アミーカの焦る声が聞こえた瞬間、私自身が気づかないよう、固く閉ざされてた心の壁が一気に崩壊した。


「うわぁぁぁん、悔しいっ、悔しかった。アミーカのために頑張って作って。時間ないけどちゃんと成功出来て。でも仕方ないからって。でも、でも......」


 そこまで言うと机の上に伏せてひたすらに泣いた。


 まるで澪の記憶が流れ込んできた濁流のようなあの感じ。今はその勢いでただただ私の泣き声と涙が流れていった。


 アミーカに背中をさすられ、ひたすらなだめてもらってもなかなか消えないこの悔しさ。

 こんなにも悔しかったんだ。


 身体も震えて、まるで私の魂すべてが悔しいと叫んでいるかのようだった。



 でもね、おかしいんだ。

 こんなに悔しくてとっても泣いて、震えてるのに、私はやっぱり開発向きなんだなって心の片隅で納得もしてたんだ。





 ようやく泣き止んだ私。

 まだ机の上で顔を伏せているけど、実はこれ泣いてるからじゃない。

 あまりに恥ずかしくって顔を上げられないのだ。


 ここまで本気で泣いたのいつぶりだ?

 あー、あれだ。学校でマチルダ先生の前でアミーカとケンカして以来だ。

 うん?意外と近かったかも。

 私泣き虫なのかな?


 そんなことを考えてると、ポカンと頭を叩かれた。

 もうっ、さっきの涙感動したのにぃ!


「ママっ!」

「泣き終わってるのに恥ずかしいからっていつまでも寝てるからよ。話進まないじゃない」


 とはいえ顔中ベチョベチョだ。

 私は手持ちのハンカチで顔を拭こうとしたら、グレッダさんが近寄ってきてハンカチを差し出してくれた。


「伯爵としてではなく、ルキウスの友として、セレナ嬢を傷つけてしまった愚かな大人として、償わせてほしい。」


 そう言って片膝を付いて頭を下げる。


「そ、そんな。私こそ終わった話を蒸し返してしまって」


「今回はセレナ嬢の心を傷つけてしまった私たちに責がある。セレナ嬢が謝ることではない」


 そう言って私の手を優しく包んでくれた。



「それで......本当にいいのだろうか?クナ・ヴァポリスを譲り受けて?」


 グレッダさんの言葉に今度こそ心からの笑顔で


「はい!大丈夫です。泣いたらなんかスッキリしたんで」


 私の笑顔にグレッダさんもようやくホッとしたみたい。

 ママは......うん、大丈夫みたいね。


「契約書の金額は空欄にしてある。ここはこれから話して決めよう」



 そこからはママとグレッダさんの第二ラウンドスタートだった。

 まあさっきみたいな物騒な気配もないし、ママも楽しそうだからほっとこう。


「セレナ、アミーカちゃん、それにしても今回は本当によく頑張ったな。偉いぞ」


 パパはそう言うと私とアミーカの頭を撫でてくれる。


「あれ、パパには話まだしてないよね?」

「うん?ああ、グレッダに当日の夜呼び出されてな。一緒に飲みながら大体のことは聞いたよ」


 パパはグレッダさんをちらっと見ると、私たちにだけ聞こえる声で、


「オーギュスト様も二人が帰った後、自分たちの研究が遅いせいで二人に我慢をさせて申し訳ないって悔やんでたそうだ」


 と教えてくれた。


「そんな!オーギュスト様のせいじゃ......」

「いいのさ。子どもがのびのびと自由な発想で伸びてくための環境作りは俺達大人の仕事だ。アミーカちゃんも気にせず自由に伸びていったらいいさ」


 ふふっとパパが笑う。



 そんなことを話してる間に金額が決まったらしい。表情を見る感じ痛み分けってところかな。


「では話もまとまったことだ。食事に......」

「グレッダさん!!」


 私の突然の大声にグレッダさんが止まる。


「実は、もう一つ相談というか、お願いがあるんです」



 ベーネさんですら受けきれないと判断したこの話、グレッダさんならあるいは......。



 私は工房でのあのみんなの熱狂的な反応を思いだし、あらためて圧力に負けまいとお腹に力を入れて話しだした。

普段セレナで遊んでるようなマリエッタの見せた、セレナへの深い愛情。そして非を認めてすぐに誠意を尽くすグレッダ。

これでようやく本当にクナ・ヴァポリスの件は片付きました。

次回はいよいよ本題、新街灯の話をセレナが持ちかけます。

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