第54話 眩しすぎる技術、見え始めた私の道
翌日、ベーネ工房でベーネさんの魔導具製作を見せてもらっています。ママのお師匠様の腕前とは?
「どうだい?これが私の温風器の作り方さね」
次の日、私たちはママから頼んでもらってベーネさんの魔導具の作り方を見学させてもらっていた。
今は神殿から依頼を受けていた温風器の製作を見せてもらっていた。病人たちが寝てる部屋に置くものだそうだ。
さすがママの師匠。焼き付けの精度もスピードも私なんかとは段違い。手付きに一つも無駄がないので、もう完全に身体が覚え込んでる感じがする。
ここまでたどり着くのは相当な経験が必要なんだろう。私はベーネさんのその経験値にただただ頭が下がる思いでいっぱいだった。
「ベーネさん、この温風器を作成するにあたって、注意してるポイントはどこですか?」
私はノートを広げてそう質問する。昨日の美術館の帰りに買ったものだ。
表紙の馬の走る絵を気に入って、思わず三冊も買っちゃったんだよねー。
「そうだね、温度調節を普段のものより細かく入れてるところと、薄く水蒸気が出るよう仕掛けをいれてるところかね」
「複数の人が寝てるところで使うから、みんなが妥協できる温度帯にしたい、冬は乾燥するから水蒸気を出して、ある程度の湿気を保ちたいって理由からだね」
「それはそう依頼されたんですか?」
「いや、最初はこっちが勝手に考えたんだが、次から同じ物をって泣きつかれて、それからはずっとこれだね」
なるほど、使う環境にいる人に必要だと思う機能をあらかじめ想像してつけてあげることで、感謝されるわけか。
『使う人のことを考えないで作る魔導具はただの置物』
だっけ?
昔ママから聞いたベーネさんの魔導具製作の教え。今も変わらずその理念を魔導具に込めて作り続けてる姿に、私は背筋が伸びる。
「ほらほら、そうしたら次は街灯作りを見せてあげよう。マリー、クラリス、やるよ」
「はい、師匠」
「めんどいなー」
一言でどっちが答えたか分かるほどこの二人は性格が正反対だ。
え?もちろんママは後者だよ。
クラリスさんはベーネさんを真っ直ぐに尊敬し、態度も真面目。
ママはベーネさんを尊敬してるけど、気持ちを素直に答えない。
絶対ケンカしそうなものだけど、なんでこの二人が仲いいんだろ?
「ふたりとも、これから見せるものは絶対他言無用、他で話したりしないこと。約束出来るわね?」
「はい!」
ママの言葉に私たちは揃って返事する。
私たちだって低温蒸しの技法は秘密にするようオーギュスト様と約束してる。
プロの技法がそれ以上の重いものだということは理解できてるつもりだ。
「それじゃ」
それだけ呟くと、ベーネさん、ママ、クラリスさんは街灯そっちのけで三人向かい合って魔力を放出することから始める。
三人の指から放たれた魔力が中心でぶつかり合い、大きくなったり小さくなったりを繰り返しながら、いつしか安定した光となって落ち着いてきた。
「いくよ!」
そう言って三人は魔導回路を取り囲み、一つの回路図を三人で焼き付け始めた。
「ええっ!!」
世界は広い!
ママと二人ならこんな技術を見ることはできなかった。王都のレベルの高さ、技術の奥深さに圧倒されながら、同時に私はこの未知の技術に内心ドキドキもしていた。
焼き付けなんて自分自身の魔力でやるだけでも魔力を制御して一定の強さで焼入れするのは大変なのに、三人で魔力の強さを揃えて、焼き付け品質が一定になるよう維持し、一気に仕上げてる。
魔力制御を極めていけば、こんなことも可能になる。一人では難しい魔導具だって作れるかもしれない。
今の私には到底こんな真似は出来ない。
あまりに魔力制御の技術が拙すぎるからだ。
今日の夜から魔力制御の練習を再開しよう。
少しずつでも進めば、いつかこの域に達成できるはずだ。
そんな思いが持てただけでも、製作を見させてもらって良かった。心からそう思った。
「はい、終わり!」
そう宣言するママ達はさすがに少し疲れた様子だ。
「すごかったです。こんないいもの見せてもらってありがとうございます!」
私は深く頭を下げる。
三人の一流錬金術師に対して、今私が出来るのがそれだけというのが少し歯がゆいくらいだ。
「いや、さすがに疲れるね。ちょっとお茶でもして休もうか」
私たちは作業机のそばに置かれたテーブルでお茶をいただくことに。
「どうだったね、私たちの腕前は?」
「感激しました!相手がいるかは分からないけど、私もいつかあそこに立てるよう、魔力制御を頑張ろうって思いました」
「そうかい、やる気につながったのなら見せた甲斐があったってもんさ」
ベーネさんがすごく嬉しそうにそう答える。
ママとクラリスさんもベーネさんの表情を見て顔をほころばせる。
あぁ、師匠が好きってところでこのふたりは強く繋がってるんだな。
今ようやくそう思えた。
「今の技術はベーネさんが考えたんですか?」
「いやいや、まさか!ある日マリーがこんなこと出来たら楽しくないか?って持ちかけてきたのさ。この子はぶっ飛んだ発想ばかりしてたからねぇ」
「それに乗った師匠も師匠ですよ?私まで巻き込むんですから」
クラリスさんが少し非難めいた口調で言ってきたが、顔は完全に笑っていた。
そうだね、新しい技術を試せるかも?って思ったら錬金術師なら嬉しくなっちゃうよね。
未熟だけど、私でもそれは容易に想像できた。
私はあらためて三人の作った街頭を見る。
形としては大きなランタン。
光の強さを家で使うものより強めに設定してあり、ランタンの周囲を広く照らす設計だ。
三人の技術は驚異的だったけど、逆に街灯の方に努力を求めるとしたら、形や機能の変化になるのかな?
そんなことを考えた時、ふと脳裏に景色が浮かび上がってきた。
ーー
「澪、そっち街灯少なくて危ないから気をつけて帰ってよ?」
「大丈夫だって。亜美こそ早く彼氏のとこ行ってあげな。亜美のご飯心待ちにしてるよ?」
「私の価値はご飯だけかっ!?」
――
似たものコンビ。
いや、待って。街灯って形違くない??
えーと、えーと......
「ベーネさん、街灯ってなんであの形なんですか?」
「うん?何でって明かりなんだからあの形だろうさ」
「いや、家の中ならいいと思うんです。でも街灯って上に設置して下を照らすものですよね?だから......」
私は澪の知識に任せて細長いタイプや円盤タイプの街灯を紙に書き込んでいく。
「こうやって最初から下を照らすものとして特化した作りはダメなんですか?」
私の書いた図を見たベーネさん、ママ、クラリスさんは、一様に表情を固くする。
ベーネさんはぶつぶつと何かを呟き、うん!と一言言うと、
「ちょっと集まっておくれ」
と、工房のみんなをこちらに集めた。
「街灯は上に設置して下を照らすもの。それならこの形じゃダメなのかとこの子が提案したのがこれだ。みんなの意見を聞かせておくれ」
私の適当な図をみんなが真剣に覗き込む。
みんなベーネさん達同様黙り込む。
誰かのゴクッと唾を飲み込む音が妙に響き、その様子に私の身体は次第に固くなっていった。
澪、もしかして私またやらかしたかな?
答えるはずがないことを知りながらも、私は心の中でそう問いかける。
みんなの沈黙が襲いかかってくるような錯覚に、私はお腹に力を込めて必死に耐えていた。
はい、やらかしました(笑)
自分の知識はうかつに出すなと澪にアドバイスされているにも関わらず、ばんばん使ってしまうセレナです。
まあそのうち澪に夢でこっぴどく叱られることでしょう。




