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【旧作】じゃじゃ馬セレナの不器用真っ直ぐ錬金術〜未来の誰かのための魔導具作り〜  作者: 八坂 葵
第三章 王都という名の試練

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第49話 超えろ!王都の味〜つむじ風コンビ、決戦〜

突然の審査員変更の動揺も乗り越え、いよいよ調理、そして決戦です!

二人の作り上げた味は果たして評価されるのでしょうか

 流れる汗を袖で拭う。

 ロックボアの蒸し作業。試作は百発百中でうまくいってたが、万が一ということもある。

 私は綱渡りのロープを渡るが如く、慎重に各所に目を配らせていた。


 アミーカもソース作りに細心の注意を払い、丁寧に混ぜていく。爽やかな酸味のソースと濃厚な甘さ香るソースが出来上がる。

 心なしか使用人の皆さんがそわそわしてる気がするな。


 ロックボアが蒸し上がり、いよいよアミーカの見せ場だ!


「ジュワッ!」


 高温のフライパンに脂を塗ったロックボアの肉を並べる。

 昨日アミーカが気付いたのがこれだ。

 フライパンに油をひくより、ロックボアの脂を溶かして塗ったほうが失敗しにくく、しかもロックボアの風味が一段増す。


 スンスン......

 変な音がするから振り返ると、鼻をひくつかせるメイドさんと目が合った。

 真っ赤になって慌てて目を伏せる。

 よしよし、これならいけそうだよ。


「セレナ、出来たよ!」


 アミーカはそう言うと焼き上がった肉を皿に並べ、ソースをかける。

 柔らかさ勝負の中心肉は焼かずに塩だけで勝負。これなら焼き一辺倒のイメージにはならず、さらに焼かない肉が美味しいという驚きを演出できる。


 ワゴンに皿を並べるとセレスさんが


「それでは時間ですのでまいりましょう」


 とワゴンを押してくれる。

 だけど私は聞き逃さなかったよ。

 ワゴン持った瞬間、ゴクリと喉鳴ったの。


 使用人さんたちやセレスさんの反応、何より私たちの想いを十分に込めた料理だ。

 これで負けるわけがない!


 アミーカを見ると、ちょうど向こうも私を見たようで、フフッとお互い笑いながら、次の瞬間には力強くうなずき、歩き出した。




 案内された先は奥に長い部屋。その中央に十人ほどがゆったりかけられるテーブルが備え付けられている。

 周りの壁にはたぶん高級品なんだろう絵が飾られ、テーブルにはピカピカに磨かれた燭台や色とりどりの花などが置かれている。


 テーブルの一番奥には、白髪の老紳士といった感じの、少し小太りなおじいさんが座っている。おそらくこの人が王城料理長なんだろう。


 隣には貴族っぽい格好のグレッダさん。

 ガルルッ!と睨むと、ニカッと笑って返された。


「お待ちしておりました、若き才能たち」


 老紳士、オーギュスト様とか言ったっけ?がそう告げる。まさにこれから試練が始まるという開会の合図のようだ。


「料理人に言葉は不要。さあ、皿を」


 セレスさんがロックボア焼き目つきの皿をサーブする。

 オーギュスト様は席につき、クローシュ(皿に被せてあるあの銀のふたね)が上げられた皿を真剣な目で見つめる。


「これは......ロックボアですな。『金の太陽』の看板料理ですが、それを超えるものだと?」


 オーギュスト様はアミーカをジロッと睨む。


「まずは食べて下さい。料理人は皿で語るのみです」


 おいおいアミーカっ!

 いくらなんでも強気すぎだよ!!


 慌てて私が注意しようとしたら、アミーカは泣きそうな目で、それでも拳をギュッと握って震えて耐えていた。


 一人前の料理人であろうと耐えるその姿は、私の頭にこの上ない衝撃を与えた。

 こんなアミーカ、見たことない......


「ふむ、その通り。それでは」

「あ!まずは白いソースのもの、次に茶色いソースのものの順でお願いします」


 オーギュスト様はアミーカの言葉通り、肉を口に運ぶ。


 まずは蜂蜜ヨーグルトソース、次に一度水を口に含んでから蜂蜜味噌ソース。


 私はゴクリと唾を飲み込む。

 アミーカもしっかり立っているように見えて、その手はかすかに震えていた。


「なるほど。グレッダ、お前も試してみろ」


 オーギュスト様はグレッダさんにも皿を進める。

 グレッダさんも口にすると、また「ふむ」と一言言って後ろに下がる


 良かったのか悪かったのか、ハッキリしないなぁ......と私がもじもじしていると、


「なかなかに美味かったぞ。『金の太陽』の肉と遜色ないな」


 グレッダさんがそう評価してくれた。

 私とアミーカが喜びの顔で抱き合おうとすると、


「まてまて、条件を忘れてないか?『私に感動を与えてくれる一皿』だぞ?美味いとは思うが、これを感動というかと言うと、まだ足りないな」


「だからだよ!」

「そうそう!」


 グレッダさん相手だと軽口も出やすくて助かるなぁ。


「今のはつむじ風の第一陣」

「そして襲い来る第二陣が私たちの本命です」


 アミーカはワゴンからもう一皿を取り上げ、オーギュスト様の前にサーブする。


 クローシュを上げると、そこには蒸しただけの中心肉と岩塩をすりつぶしたものが添えられている。


 アミーカは塩をパラリと振りかけて二人の前に差し出す。


「この二皿が私たちの勝負料理!名付けて『ロックボアの蒸し焼き〜王都のつむじ風風〜』です!!」


「『蒸し』だと!!」


 それまで冷静な態度だったオーギュスト様が突然顔色を変える。

 あれ、なんかダメなことした??


 私の心配をよそに、オーギュスト様とグレッダさんが同時に肉を口に入れる。


「な、こ、これは確かに蒸してある。なぜ先程気付かなかった......」

「マジか、なんだこの肉の柔らかさ。いや、それだけじゃない。肉の奥からロックボアの旨味がこれでもかと押し寄せてくる。これは焼いただけじゃ出てこない旨味だ」


 ふたりともあらためてもう一口中心肉を味わい直す。


「う、うむ。変な表現だが、この肉を食べてしまうと、先程の肉は前菜のようなものだな。これこそがメインディッシュだ」

「ええ、同感です。これはやられた......」


「よしっ!」

 私とアミーカはバチン!とハイタッチ。

 試験前に立てた戦略がバッチリハマった。

 あまりに気持ちよくて背筋がブルっとする。

 アミーカも珍しくガッツポーズをしていた。



 その横でオーギュスト様が「しかし......」と呟きナイフの手を止めたのを、私たちは嬉しさのあまり、完全に見逃してしまっていた。



「で、グレッダさん、さっきなんて言ってましたっけ?」


 私はわざと意地悪く聞いてみる。


「あー、すまん。早合点だった。これは確かに『感動させられた』よ。いいですよね?オーギュスト様」

「うむ、これに文句を付けるのはセントーレ王国の代表としてあり得ないな」


 グレッダさんが静かにうなずく。


「アミーカ・ルナリス嬢、セレナ・シルヴァーノ嬢、ニ名はグレッダ・フォルティウスの試練を見事突破したことをここに宣言する!」


「セレナ......」

「アミーカ......」

「やったよぉー」


 三日間、さらに今日の緊張すべてが解けたかのように、二人同時にへたり込んでしまい、私たちは泣きながら互いの健闘を称え合った。




「さて、勝者には褒美を出さねばな、グレッダ」

「ええ、仕方ありませんな。お願いできますか?」


 するとアミーカがあわあわして私に掴みかかってくる。


「セ、セレナ、どうしよう!この国のトップの料理食べられちゃうよ」

「お、落ち着いてよ、アミーカ。夢の王城料理人の最高峰の料理食べられるなんてラッキーじゃない」


 その言葉を聞くと、厨房に向かっていたオーギュスト様が振り返る。


「ほぅ、アミーカ嬢は王城料理人が夢ですか」


「は、はい!女性初の王城料理人になるのが私の夢です!!」


「そうですか、それではその夢の最高峰として恥ずかしくない料理を出さねばないけませんね」


 そう言ってホッホッホッと笑いながら再び厨房へと去っていった。


「セ、セレナーー!!!」

「アミーカ、苦しっ、ごめ、ごめんってば」


 余計なことを言った私の首を締め上げてくるアミーカ。いざという時のこのアミーカの爆発力忘れてた。本当に苦しい......


 グレッダさんがとりなしてくれて、なんとか生命の危機には至らなかったけど、アミーカは料理が来るまでしばらくの間ずっとスネたままだった。



 そしていよいよその時が来た。


 ガチャリ。

 食堂のドアが開かれ、オーギュスト様を先頭に、セレスさん、他のメイドさんがワゴンを押してきた。


「さあ、召し上がっていただきましょうか。セントーレ王国の最高峰の料理を」


無事、皿を認めさせたつむじ風コンビ。

ですが料理長オーギュストが見せた不穏な態度は何を示すのか。

次回どのような料理が供されるのか。



楽しんでもらえたら、★入れてもらえると嬉しいです♪

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