第48話 想定外の審査員!最高峰に挑む日
きょうはいよいよ、対決だ~!
アミーカの王城料理人への道の第一歩、グレッダさんとの料理勝負!
昨日は勝負前にアミーカと泣いて泣かれて、不安を吐き、弱さはすべて出し切った。
ほら、起きてきたアミーカも晴れやかな顔だ。
「さあ行こう、セレナ!」
夢を掴む道へ、私たちは胸を張って歩き出した。
いつも通り九時に来られると約束の正午に間に合わなくなっちゃうので、今日はセレスさんに八時にきてもらった。
「いよいよだね、ふたりとも大丈夫?」
私たちはセレスさんに力強くうなずく。
心の準備はとうに済ませた。
あとは挑むだけだ。
「道具は昨日のうちに本邸に運び込んであるし、コンロも昨日と同じタイプだから、火入れがブレることはないと思うよ」
細かく不安を潰してくれるセレスさん。
この三日間、この人が側にいてくれて本当に助かった。
「あ、先に言っとくけど、本邸でこんな言葉遣いしてたら吊るされちゃうから、本邸ではセレスティン・ブランに戻るからね」
そう言うとセレスさんはブルっと震えた。
こりゃ本当に吊るされたことあるな?
行く手に昨日までの別邸よりもさらに大きな屋敷が見えてきた。
「そろそろ戻るね」
するとセレスさんはスッと落ち着いた雰囲気の、初日に会った感じになった。
「セレナ様、アミーカ様、まもなく屋敷に到着いたします。どうぞ心の準備を」
最後にウインクだけ残し、それで完全に切り替わったようだ。
あのセレスさんがここまで変わる。
本当に私たちは貴族様と対決するんだなと思うと、自然と背筋が伸びてきた。
装飾が別邸の倍は豪華な門をくぐる。
全体の大きさ倍くらい?外壁の色は別邸よりも深く落ち着いた色合いで統一され、うわった花々からかぐわしい匂いが漂っている。
別邸とは一味違うなぁときょろきょろしていると、扉の前にズラリと人が並び、
「お嬢様方お待ちしておりました、ようこそフォルティウス伯爵家へ。お二人のお越しを心より歓迎させていただきます。」
と、十人ほどの執事やメイドさんに出迎えられた。
隣のアミーカがとても慌てている。
ここは私がなんとか引っ張らないと。
「ご丁寧にありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
私はそう言って頭を下げるとともに、アミーカの腰を叩いて頭を下げさせた。
屋敷の中に入るとアミーカに話しかけられる。
「セレナ、さっきすごかったね。あんな丁寧な挨拶できて」
「ああ、あれ?前にママが言ってたのをそのまま繰り返しただけだよ」
ママは昔、街の偉い人のパーティーに招かれたことがあった。
私も連れていってもらったのだが、その時受付の人に言ってたのだ。
「たまたま頭に残ってて良かったよ。繰り返せばいいだけだから、アミーカも覚えとくと便利だよ?」
「そうだね、この先王城料理人目指すならそういうのも覚えなきゃだから、頑張らなきゃ」
厨房に通されると、そこには一通りの材料とクナ・ヴァポリスが揃っていた。
するとセレスさんがその手前に進み、私たちへ向き直る。
「本日正午に食堂にて審査を開始いたします。お二方はその十分前までに調理を終え、こちらのワゴンへ料理をお並べください」
そう言って右手に用意されたワゴンを指し示す。
「本日の審査は、セントーレ王国料理部門、料理長のオーギュスト・ブルーム公爵卿により執り行われますのでご承知おきください」
そう言ってセレスさんは壁に下がる。
......は?料理長って何の話よ?
隣を見るとアミーカも完全に固まっている。
それはそうだ。初耳の上、アミーカにとっては夢の最高峰だ。
驚きは私以上だろう。
「ちょ、ちょっとセレスさん!グレッダさんが審査するんじゃないの?何よ、王城料理長って。聞いてないわよ!!」
私の怒鳴り声にもセレスさんは落ち着いたもので、
「私も今朝、旦那様にそのように伝えられました。私はそれをお二方に伝えるだけ。それ以上のことについては存じておりません」
セレスさんの言い方は伯爵邸のメイドとして正当なものなのだろう。
分かっているのだが、昨日までの話し方と全く違うその物言いに、私の怒りは頂点に達した。
「グレッダさんはどこ?こんな騙し討ち、撤回させてやる!」
私は手近な扉を開けてグレッダさんを探しに行こうとするが、咄嗟にセレスさんに後ろから抱きとめられる。
そして小声で
「バカっ!アミーカちゃんから目離すな」
それだけを言ってきた。
アミーカを見ると、心の底が凍えたみたいに、両手で自分を抱えて震えていた。
そうだ、今日一番頑張らなきゃいけないのはアミーカなんだから、私がすべきなのはアミーカに全力を出しもらえるようサポートすることで、怒って飛び出すことじゃない。
すると私の頭に上っていた血がスーッとおさまってくる。
(そうだ、私たちは二人で一つ。アミーカを救えるのは私しかいないじゃんか!)
私はセレスさんに小声で「ありがと!」と伝えるとアミーカに駆け寄って抱きしめる。
......澪、あなたの優しさ、私に分けて
「大丈夫だよ、アミーカ。三日間死ぬほど苦労して作り上げてきたじゃん。グレッダさんでも王城料理長でも、誰が相手でも通じるよ。私が保証する」
出来る限り落ち着いて、穏やかな声でそう呼びかける。
「で、でも王城料理長だよ?...もし通じなくて私の夢が消えちゃったら......」
そう言って泣き出すアミーカ。
私はアミーカのおでこを強めにピーンと人差し指で弾く。
「いたっ!何すんのよ、セレナ!」
「バーカ。約束思いだしなさい。認めさせたら王城の料理を食べさせてくれるってだけだよ?失敗しても食べられないってだけ。アミーカの夢には何の関係もないじゃない」
今度は軽い感じの話し方にしてみた。
すると、アミーカも少し落ち着いたのか震えがおさまってきた。
「それに、あなた今何着てるの?」
「えっ、セレナがくれたコルコクスだけど?」
「今日の蒸しは何でやるの?」
「クナ・ヴァポリス......」
ようやく一人じゃないことに気付いてきたようだ。
「でしょ?そもそも今日の料理名忘れたの?『つむじ風コンビ』として、せいぜい王城料理長とグレッダさん驚かしてやろうよ。そういうイタズラは私たちの得意とするところじゃない」
私は立ちあがってアミーカに手を差し出す。
「ほら、立ち上がらないなら私が一人でやるよ。そしたら王城料理独り占めしてやるからね?」
私はニカッとアミーカに笑いかける。
きっと澪に会った時に澪がしてた笑顔と一緒の顔をしてただろう。
顔は見えないけど、私はそう確信できた。
アミーカは涙をぬぐい、目を閉じて深呼吸を一つ。そして目を開けた時には、残っていた震えはピタッと止まり、目には力強い意志が感じられた。
「私の約束なんだから横取りしないでよ」
そう言って私の手を取り立ち上がる。
「ごめんねー、私も王城料理長って聞いて思わず取り乱しちゃったけど、冷静に考えたらあのお肉で負けるわけなかったよ」
「ううん、私も大げさに捉えすぎちゃった。どんな状況でも最高の一皿で勝負するだけだよね」
それはグレッダさんが私に話してくれた言葉。
アミーカちゃんと覚えてたんだ。
「よし、じゃあさっさと料理長倒して、王城料理食べさせてもらおう!」
「ちょ、セレナ、さすがに失礼過ぎる!」
私たちは手を取り合い調理台へと走り出す。
誰が相手でも知るもんか!
私とアミーカの『つむじ風』で吹き飛ばしてやる!!
そう誓う私たちの目は今までのどんな時よりも光り輝いていた。




