第47話 香ばしさの魔法、完成!"ロックボア料理"
「セレナ、分かった、焼きだよ焼き!」
「なに?『焼き』って??」
私はホットココアをテーブルに置く。
「グレッダさんは『金の太陽』のロックボアを一番美味しいって言ってたじゃない?だから『焼き』で上回らないと、グレッダさんの笑顔は引き出せないんだよ!」
アミーカは興奮してそう言うが、
「でもさ、『焼き』で敵わないから『蒸す』にしたでしょ。今さら『焼き』に変えるのって難しくない?」
私は努めて冷静に答える。
アミーカの言ってることは分かるし、賛成だ。
だからこそここで何かミスを起こさせてはいけない。
そう思い、手を強く握り込む。
「だからね、こうして......」
手元のフライパンに畳んだハンカチを乗せる。
「蒸した肉を高温のフライパンで焼き色をつけるだけ。これなら『香り』もついて、より美味しくなるよ!」
「分かったよ、アミーカ。それなら明日はその方法で挑戦してみよう」
「うん!......ギリギリまで迷惑かけちゃうけどゴメンね」
下を向き、悪そうに言うアミーカ。
「何水臭いこと言ってんのよ!親友でしょ、私たち」
私はホットココアをアミーカに差し出す。
「ほら、それ飲んだら寝るよ。明日も頑張って、グレッダさん倒さないと!」
「倒すって、戦うわけじゃないでしょ」
フフッとアミーカが笑う。
よしよし、これなら気負わず明日もいけそうだ。
次の日、グレッダさん別邸。
朝一でロックボアの蒸しに入り、セレスさんに今日やることを説明。
すると意外な情報をもらえた。
「あ、そしたら焼く前に表面の水分軽く拭き取りなね。じゃないと焼き目つきにくくなるから」
セレスさんの助言に従い、水気を拭き取った後にフライパンへ蒸し肉を置く。すると「ジューッ!」とあっという間に肉に熱の入る音。
私は大丈夫かな?と少しドキドキしているが、アミーカは全く動じることなく肉に視線を落とす。
親友の成長に嬉しい気持ちでいっぱいになりながらも、負けてられないという喉の渇きも覚えた。
「できたよ!」
アミーカの焼いた肉には、軽く焦げ目がつき、たしかに「これこそお肉!」というイメージで食欲をそそる。
「よし、さあ食べようよ、早く早く!」
だからなんでセレスさんが一番はしゃぐのさ!
パクッ
お肉を口に入れると、広がる香ばしい香り......と苦い香り。これたぶん焼きすぎだな。
アミーカとセレスさんもそれぞれ微妙な表情を浮かべている。アミーカに至ってはちょっと泣きそうだ。
「ほ、ほらほら、次の焼きましょうよ!香ばしい香りはあったんだから、あとは焼く時間の問題だけでしょ?すぐ解決出来るって!」
少し大声で元気を出させるよう、私がそう言うと
「そうね、アミーカちゃん、二日間見た正直な感想だけど、センスはある、足りないのは経験。だから一枚でも多く焼くこと。そうしたらきっと夢に届くはずよ」
セレスさんが少し真面目な顔でアミーカにそう告げる。急な大人の態度は私たちもびっくりした。
私たちの視線に気付いたセレスさんは顔を崩して頭をかくと、
「あー、普段はこんなことしないんだけどね、正直あと一歩でグレッダ様の期待を超えそうな気がしたから。そう思ったら、たかが一枚の失敗で落ち込もうとしてるアミーカちゃんがもったいないなって思って、つい、ね」
すごく胸が熱くなった。
たぶんセレスさんの正直な想い。
アミーカもそうだったんだろう。
袖で涙を拭くと
「セレスさんありがとうございます......セレナ、次焼くから手伝って!」
と私に声をかけてきた。
「もちろん!何でも言ってよ」
そして私たちはフライパンに向かった。
そこから何度目かの挑戦の後、いよいよ三人が押し黙る、その瞬間が来た。
……!!
肉を口に入れると、焦げた感じは全くせず、ただ香りだけが香ばしく広がる。
噛むと、ごく薄く肉表面の抵抗を感じながらも、すぐに柔らかな噛み応えに変わり、あっという間に肉が噛み切れた。
「よく頑張ったね、アミーカ。これならいけるよ!」
「セレナのクナ・ヴァポリスのおかげだよ。だから私は蒸す以外を考えれば良かったから」
お互いを称え合う。褒めるのは嬉しいけど、褒められるのはちょっとむず痒い。
でもアミーカの正直な気持ちだろうから、私は素直に受け取ることにした。
「うん、決めたよ、料理名。」
お、もうそんなところまで?
「何にするの、アミーカ?」
「セレナの魔導具で蒸して、私が焼いてソースを作って仕上げたロックボア。だからこれは『ロックボアの蒸し焼き〜王都のつむじ風風〜』だよ」
ブホッ!
名前に『つむじ風』が入っててつい噴いた。
「な、なんで『つむじ風』?」
「二人で作ったんだもん、当たり前でしょ」
そういう気持ちは嬉しいけど、なんか、こう、表にその名前出すのが恥ずかしいというか、内輪ネタというか、うーん、分かってはもらえなそうだけど、抵抗したいなぁ......
「いいんじゃない?」
セレスさんが後ろから声をかけてくる。
「あなた達気付いてないかもだけど、グレッダ様に認められるってことは、その料理は貴族の後ろ盾を得たってことだよ?」
あ......
私たちの話だけで考えてたけど、冷静に考えたらそうなるのか。
「つまり何か仕掛けようものなら、グレッダ様に手を出したも同じ。要はそういうことよ」
私たちはそんな大事に繋がるとは思いもせず、思わず顔を見合わせる。
お互いの目には不安の色しか浮かんでいない......
「はい、胸張りなさい!まだ試験に通るとも限らないし、本番は明日でしょ。まずは明日全力を尽くすことだけ考えて」
セレスさんの激励がとぶ。
でもたしかにそうだ、掴んでもない未来を想像して不安にかられてる場合じゃなかった。
「それに、もし通ったとしてもグレッダ様も私だって、大人がしっかり守ってあげるから、安心して試験受けて!」
そう言うと私たちの頭を撫でてくれた瞬間、胸がぎゅっとして、泣きそうになった。
だけど......
パンパンッ!
頬をたたく。
「分かったよ、セレスさん。」
正直不安はまだある。
だけど胸の中の声が不安をかき消してくれた。
(そうだよ頑張って。私も付いてるよ)
そうエールをくれる澪の声。
今の私には誰より強い味方の声に、私は立ち直る。
アミーカの手を取って立たせ、
「そうだよアミーカ、細かいことはあとあと!つむじ風コンビならまずはみんなを楽しませなきゃ。明日はグレッダさんたち、関わってくれた人を絶対楽しませて笑顔にするよ!!」
そう励まし背中をさすると、アミーカの震えも止まり、
「うん!やってやろう!!」
と力強く答えてくれた。
料理も完成しやる気も十分、準備はすべて整った。
いよいよ明日はグレッダさんとの勝負。
絶対に結果を出すぞ!
握った拳を胸にあて、私は深呼吸をして決意を固めた。




