第45話 消えゆく声、離れない心
さあ、いよいよ澪との対面です。
準備はよろしいですか?
...レナ、セレナ......
私を呼ぶ懐かしい声。
そう、六年前に聞いて、それからずっと忘れてた。
「澪!?」
私はパッと目を開き、周囲を見回す。
するとベッドサイドに澪が腰を降ろしていた。
黒髪、黒目のショートボブ。
白いニットに黒いズボン。
その目にはイタズラめいた光が宿っていた。
「やっほー、来ちゃった」
「あ、明るいね......」
「だってセレナとこうして話すの初めてじゃん?楽しみで、楽しみで」
そう言うと澪はパタパタ手を振り、ニカッと笑う。
あ、なんかこの笑い方パパみたい。
「で、さっそくだけど、蜂蜜ならヨーグルトか味噌オススメ!ヨーグルトならさっぱり味。味噌ならパンチ力抜群!!」
こちらの事情を把握してるのは助かるけど、ヨーグルトはともかく、
「味噌なんてないじゃん!」
私がそう言うと、澪はチッチッチと指を動かす。
「私の鼻に狂いはないよ。市場にある。そういう食材を扱ってるお店があるはずだから探してごらん?」
「分かった。......で、今回に限ってえらく張り切って出てきてくれるじゃん。何か理由があるの?」
「あ、それね。私、セレナが十三歳になったら、頭の中でお話出来るから」
「......はっ!?」
私の驚きも仕方ないだろう。
今まで記憶だけポーンと放り込んできて、うんともすんとも言わなかったくせに、話が出来る?
「記憶は五歳で引き継げたけど、人格?はまだ受け入れられなかったみたい。だけどセレナが成長してきたからさ」
「じゃあこの先何かあるたび頭の中で澪からツッコミ受けなきゃいけないの?」
「私は漫才師かっ!それ、セレナ嫌でしょ?私だってその立場なら嫌だもん。だから普段は見守ってるよ。必要になったら呼んで。力貸すからさ。」
澪はそう言って私に微笑みかける。
私はたしかに助かる。けど......
「澪はそれでいいの?自分の身体で風を感じて外を歩いたり、誰かとお話したり出来ないの、辛くないの?」
私ならそんな寂しいのイヤだ。
そう思っていると次の一言が恐ろしかった。
「そういうのもしたいけどさ、私、いつまでセレナの中にいられるのかな?」
その質問は私の心にすごく重い闇を落とした。
澪が......消える?
「消え、ちゃうの?」
「今すぐどうこうはないと思うけどね。でもこの世界で『私』を思い出してから、少しずつだけど薄くなってきてるのは感じてるよ」
そういうと先程までの元気な澪の顔は隠れる。
「セレナだから言うけど、すっごく怖いんだ。前もせっかくプログラミング覚えてさ、プログラマーとして、ようやく働ける!って思ってたから」
「私の心残りは私の書いたプログラムで、みんなを助けてあげられなかったこと、笑顔を見ることが出来なかったことでさ......」
「じゃあ私が澪の夢、引き継ぐよ!!」
突然の私の宣言に澪は目をパチパチさせて私を見つめる。
「この世界、プログラミングはないけど、魔導具でみんなを助ける!そして笑顔を作り続ける。私に魔導具の道を開いてくれたのは澪の知識のおかげだよ。だったら今度は私が澪の願いを引き継いで実現させるよ!!」
そんな強い言葉を言いながら、私は涙が溢れてきた。
澪が消えてしまうかもしれない恐怖、そしてそれがあり得ると感じてしまった自分。
せめて願いくらいは引き継いであげたい、そんな何もかもが頭でぐちゃぐちゃになって、涙が止まらない。
「やっぱりセレナは優しいね。だからひねくれ者の私でも、素直にセレナの力になりたいって思えるんだよ?」
澪は私をそっと抱きしめてくれた。
不思議だ。お互い体があるわけでもないのに、なぜかあったかい......
「ありがとう。じゃあ私はその日が来るまで、セレナを支え続けるね」
私はようやく泣きやんだが、やっぱり気になる。
「ねえ、でもやっぱり澪からばっかりもらって、私ちょっと申し訳ないよ」
「あ、そしたらさ、話せるようになったらたまにでいいから夜、セレナの話聞かせてよ。それなら私にも楽しみ出来るから辛くないよ」
「そんなので、本当にいいの?」
「うん今まで一人ぼっちだったから、話したくて話したくて。話好きな私には十分なご褒美だよ」
するとママみたいな優しい目になって、
「だからもう私のことは気にしないで、アミーカちゃんのために頑張ってあげて」
そう言うと私をベッドに寝かせる。
「あ、ここでこうして話せるようになったから、多分私の記憶とか、今まで以上に自然に使えるようになってると思うから。でも使いすぎると変な目で見られると思うから、注意してね」
私はコクンとうなずく。
不思議だ、もうひとりの私のような近さを感じるのに、なぜかママみたいな深い愛情も感じられる。
たぶん......私は澪なしでは生まれなかったんだろうな。なんとなくだが、たぶん間違ってないと思う。
澪は私を生むために亡くなり、私は澪を継ぐために生まれた。だから同一であり、親と子のようでもある。
やっぱり私たち二人で『セレナ』なんだなと今ハッキリと感じられた。
澪は私に布団をかけて、私の胸をトントンと叩き始める。まるでお母さんが子どもを寝かしつけるかのように。
「またすぐに会えるようになるから。それまで頑張ってね、セレナ」
「うん、澪に自慢できるくらい頑張ってくるから、見守っててね」
澪はうなずきながら、私の目をそっと閉じさせると、私の意識はまた暗闇へと落ちていった。
待っててね、澪。
澪が消えないうちに、絶対に結果出してみせるから!
段階的にセレナの中に受け入れられた澪の存在。
しかし制限時間付き。
その制限がいつ来るかは澪にもセレナにも分かりません。
二人がせめてしっかり納得出来るような、「それまで」を
書き続けていきたいなと思います。
楽しんでもらえたら、★入れてもらえると嬉しいです♪




