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【旧作】じゃじゃ馬セレナの不器用真っ直ぐ錬金術〜未来の誰かのための魔導具作り〜  作者: 八坂 葵
第三章 王都という名の試練

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第44話 クナ・ヴァポリスが暴いた本当の旨味

セレナの作った『クナ・ヴァポリス』

この専用蒸し器でロックボアがどのように変わるか?

 ロックボア専用蒸し器、蒸気のゆりかご。

『クナ・ヴァポリス』


 低温蒸しを実現した、たぶんこの世界で初めての魔導具。これが果たしてどういう結果をもたらすかは分からない。

 ただ、私はアミーカと一緒に試練に挑戦出来た気がして、少し誇らしかった。


 クナ・ヴァポリスの使い方は、基本的には肉を置いて、ムラをなくすために一時間に一回ひっくり返しながら三時間蒸すだけでいい。

 つまり料理人は今のところ、あまりやることがないわけで、


「ねぇセレスさん、これお肉ひっくり返すのだけ誰かに任せて、私たち買い物行けませんか?」


 アミーカがセレスさんにそう質問する。

 まあ気持ちは分かるけど、それはちょっとワガママかな。


「んー、そうしてあげたいけど、他のみんなも仕事あるからねぇ。」


 ちょっと急ぎすぎなアミーカを私はたしなめた。


「アミーカ、焦りすぎ。まずは蒸しあげたロックボアを試してみてからにしようよ?」


「そうだね......ごめん、ちょっと焦ってた」


 アミーカはそう言うと、クナ・ヴァポリスをじっと見つめる。


「セレナの魔導具、信じなきゃね」


 その目には先ほどまでの不安の色は消え去っていた。




 それから三時間、ようやくロックボアが蒸し上がる。


「さ、じゃあ食べましょ!」


 一番ウキウキしてるのはセレスさん。なぜだ?

 アミーカが切り分けよう包丁を入れると、驚きの表情を浮かべる。


「な、何この柔らかさ!『金の太陽』のロックボアと変わらないかも!?」


 私も食事用のナイフを入れてみる。

 本当だ、あの柔らかさと変わらないかも。

 そして切り分けた肉を口に運ぶと、


 モグ...プツン


 一噛みしただけで肉が切れた!

 たしかに『金の太陽』レベルの柔らかさになってる。


「アミーカすごいよ!!」

「何言ってるの、セレナの鍋が凄すぎるんだよ!!」

「そ、そう?」


 飾らないアミーカの素直な褒め言葉が妙にくすぐったい。



「ねぇねぇ、これまだ外側だよね?中心のお肉ってどんなかな?」


 セレスさんがそんな疑問を投げかける。

 中心のお肉?何か違いでもあるのかな??


「あんたたちだとまだ知らないかもね。料理って外から熱入れるじゃない?」


 セレスさんの言葉にうんうんと私たちはうなずく。


「でも食材の中まで熱を入れなきゃいけない。だから外側のお肉はどうしたって火を入れ過ぎになっちゃうのよ。」


「ってことは......まさか、中心が一番美味しい!?」


 アミーカが驚きの声を上げる。

 そしてすぐさま真ん中の肉を切り出して切り分ける。


 私たちは再びパクリ。


 言葉にならなかった。

 私もアミーカも、ただ目を見開いて固まった。


 口に入れた瞬間に、あの口に入れるのさえためらっていたロックボアの肉が、あっという間にほどけた。


 そして肉の深い味わいがじんわりと口の中に広がり、いつまでも終わりを迎えない。


 そしてようやく飲み込んだ後、同じタイミングで溜息を付いた。

 まだ頭はボーっとしている。


「ち、ちょっとこれは、すごいね」


 セレスさんのつぶやきに私たちもうなずく。


「アミーカ、これ『金の太陽』のお肉なんて目じゃないよ。あれも美味しかったけど、これは別格すぎる。」


 アミーカは私の言葉に反応せず、黙り込んでお皿を見つめていた。


「セレスさん、岩塩とすり鉢あります?」


 突如そう聞いてきたアミーカにセレスさんはうなずき、岩塩とすり鉢を持ってきてくれた。


 アミーカはすり鉢に岩塩を入れてゴリゴリすり潰し、中心のお肉にその塩をふりかけて私たちへ。


 アミーカ、ダメだって。

 こんなの......やばっ!

 世界がひっくり返るみたいに視界が白くなった。


 バタンッ。

 一瞬気を失ったみたい。気づいたら床だった。



「アミーカ......」

「うん、これで勝負するよ!」


 アミーカは完全に心を決めたようだ。

 私も異論なんてあるはずもない。


「アハハ、あんた達すごいじゃん!グレッダ様に突っかかるガキンチョっていうから、どれほどのものかと思ってたら......ほんと、すごいよ!」


 セレスさんがそう言って私たちの肩に手を回してくる。


「あ、でもさ、ちょっと見せ方工夫してみない?」

「見せ方?」


 私の言葉に不思議そうに返してくるアミーカ。


「最初からこれでもいいんだけどさ、外側だってなかなかだったじゃない?だからそれにパンチのある味をつけて、『金の太陽』に劣らないって評価を引き出すの」


「その後に今の中心肉を出して勝負を決めるってことね?」

「うん、そう!」

「それ、面白そう!それなら中心肉がより魅力を増すね。セレナ、それいただきっ!!」


 私たちはハイタッチ。

 ハイタッチの熱が、手のひらにじんじん残っていた。



 この日はとりあえず片付けてセレスさんにベーネ工房の下宿まで送ってもらった。

 部屋につくとさすがに疲れてたんだろう。

 私もアミーカも椅子に座ってぐったりだ。


「味付け、味付け......」

「アミーカは何か考えあるの?」


 アミーカのつぶやきに、ふと気になって聞いてみる。


「うん、蜂蜜いけそうだなって思うんだけどさ、なんかそれだけじゃ甘すぎるから、何かと混ぜたいんだけど......ふわぁ。セレナごめん、先寝るね」


 そう言うとアミーカはさっさとベッドに潜り込み、あっという間に寝息を立て始めた。


 蜂蜜とロックボアに合う味付けねぇ……。

 蜂蜜と何かを合わせられればいいんだけど。


 澪の記憶がまた助けてくれたらなぁなんて、つい考えちゃう。


 ……澪、また力貸してくれないかなぁ。


 けれど、何も反応はない。


 まあ、そんな都合よくいくわけないか。

 私も明日に備えて寝ることにした。


 その夜。

 まさか私が寝てる最中に澪からの呼びかけがあるなんて、この時は思いもよらなかった......

味付けに悩むアミーカとセレナ。

次回は夢の中での澪とのお話になります。

名前こそ一話から出ていたのに、話すのは四十五話にして初という、

澪とのやりとりをぜひ、お楽しみに♪

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