第43話 低温蒸しの発見と、新魔道具『クナ・ヴァポリス』誕生
セレスさんのお買い物も終わり、材料もそろって、いよいよ試作スタートです!
セレスさんが『加熱鍋』を買って戻ってからは一気に作業が進み始めた。
私たちだけでは何を使っていいのか、悪いのか、誰に何を聞けばいいのか分からなくて進められなかったんだよね。
本人のヤル気は人一倍強いけど、私もアミーカもこういうことにはアワワ......となってしまうあたり、もうちょっと鍛えなきゃなとは思った。
私は加熱鍋を分解して強弱スイッチだけ付けた。このくらいなら今の私でもなんとでもなる。あとは鍋の中に入れる小さい簀の子を作る。
はい、おしまい。
アミーカも保存庫から香草やヨーグルト、アナナス(パイナップル)を持ってきて肉を漬け込んでいる。その間少し時間が出来たので、私はつい色々な魔道具の妄想を始めた。
(あ、待つ時間もったいないから、お肉の漬け込みを短縮できる魔道具とかいいかも)
(レンジとかもあると、料理作り置きできるよね。お皿とかも耐熱の作って......)
なんかこんな挑戦してるからか、料理系の魔道具のアイデアが次から次へと湧いてくる。もちろん中には再現できそうなものもあるし、素材開発からしないと無理なものもある。
でも日頃は製作やその前の修行ばかりが続いていて、こんな新しい道具を考えるなんて余裕もなかった。
あらためて魔道具のことだけ考える時間があると、澪の記憶も相まって、色々な発想が出来てとても楽しい。
(うん、やっぱり私魔道具大好きだ、とっても大好きだ!!)
あらためてそれが分かったのがとても嬉しい。
「あー!挑戦出来て良かった!!」
突然の私の叫びにアミーカがビクッとする。
「な、何、セレナ。突然大声あげて」
「あ、ごめーん。なんか魔道具作れるのやっぱり嬉しくてさ、つい」
「うん、分かるよ。私も今とっても充実してるもん。でもビックリするから突然の大声はやめてよね」
「へへっ、ごめんね」
お肉の漬け込みも終わったようなので、私たちはさっそく施策に取り掛かる。
アミーカに蒸し器の使い方をレクチャーし、蒸しに入る。
いったん十分でやってみることにした。
「うーん、まだちょっと火通り切ってないね」
「うん、じゃあ一気に三十分にしてみよう!」
「火は通ったけど、ほとんど固さ変わらないかも......」
「じゃあいっそ一時間だ!」
一時間も時間があるので、私たちはお肉の漬け込みの方に頭を使っていた。
するとその蒸し時間中、アミーカが突然顔を上げる。
「ん?なんか焦げ臭い??」
アミーカが慌てて蒸し器に駆け寄り、蓋を開けると、焦げ臭いにおいが一気に広がる。
「あ、水なくなってる!セレナっ、セレナーっ!!」
私も駆け寄って鍋を見ると、たしかに水が一滴も見当たらない。
いわゆる『空焚き』ってやつだ。
「アミーカ、まずいって、ほら、水、水入れて」
すぐに加熱のスイッチを切って、鍋に水を注ぐ。
じゅわっ!と大きな音を立てて少し水蒸気が出たが、比較的初期で気づけたので、なんとか『加熱鍋』も無事のようだ。
「で、お肉は?」
アミーカの問いに、私はとりあえず肉を切って食べてみる。
モグモグモグモグモグモグモグモグ
ガムかっ!!
なんなら三十分の時より固くなってる。これ空焚きがどうこうじゃないな。
「セレナ、これたぶん熱いままだとダメかも。私たちだって蒸し風呂こんなに熱いままだと長いこと入ってられないじゃない?」
「そうすると、もっと低い温度で『蒸す』ってことをやらなきゃかぁ」
私が目を閉じて考え込んでいると、また、澪の記憶が流れ込んできた。
――
大学の友達と動画サービスで見た低温料理のことで話してた時のこと。
低温で蒸すなんて、お肉に火がロクに通らないんだからマズいに決まってる!と決めつけた澪に対して、友達が反論。そこで実験しよう!となった。
フライパンで出来るというその動画のやり方を参考に安い鶏肉を買って友達の家で試す。
お湯の温度を保つっていうのが少し難しかったけど、なんとか完成。
出来上がりを一口食べた次の瞬間澪は椅子から降りて、友達に土下座。
「ほら、言ったとおりでしょ?」
友達の超ドヤ顔。
すぐ二人は大笑いし合って、美味しく鶏肉を食べた。
――
(......なんか澪って前世でも「つむじ風コンビ」組んでたみたいだね)
楽しそうな記憶についついそんなことを考えてしまったが、論点はそこじゃない。
「低温蒸し」という調理方法は存在し、専門外の大学生がお試しでやってみても出来る程度の難しくない内容だって言うことの方が重要だ。
(んーと、どうしたらいいだろう?)
私はこめかみをトントンつつきながら、歩き回る。
「ねぇ、アミーカちゃん。セレナちゃん、あれ何してるの?」
「セレナ、深く考え込む時にやるんですよね、あれ。本人自覚ないみたいなんですけど」
アミーカの言う通り、二人の言葉は私の耳には届いていても、私が今はそんなことに脳を使いたくないので、耳の入り口ですぐにシャットアウトだ。
たしか肉の低温スチームは六十度くらいで良かったはず。
低温スチームだと小さい鶏肉で二時間くらいやってたから、今回は三時間くらいは欲しい。
となると水を定期的に補充しなきゃだけど、蓋を開けると蒸気が飛ぶからなるべく開けたくない。
頭をフル回転させ、私は導き出した答えに対して即動き出す。
蒸し器を再分解して温度帯を変更、鍋肌に水を一滴単位で補充するための機構を追加。
これで水は最小限の追加で済むから、温度変化も起こりにくい。
『加熱鍋』の「弱」ボタンを六十度から六十三度へ少し強化。
これで六十三度の加熱に対して一滴単位で追加される水と相殺されて六十度くらいで落ち着くはず!
......落ち着いてくれるといいなぁ。
六十三度で~とか、具体的な温度が計れるわけじゃないから、あくまで体感値となるので、ちょっとぶっつけ本番なところはあるのは仕方ないとしても、いったん形は整った。
「出来たよ、アミーカ!やろう!!」
私はアミーカに新しい加熱鍋を掲げた。
「これがロックボア専用蒸し器、蒸気のゆりかご、その名も『クナ・ヴァポリス』よ!」
高々と掲げたクナ・ヴァポリスは今の私が出来る最高レベルの魔道具だ。
そして、これならアミーカを助けられる自信がある!
あとは試すだけだ。
私の胸中はとてもワクワクしてきた。
まるでこの王都旅行にくる前日の夜のように......
たぶん作中初めてのオリジナル魔導具名じゃないですかね。
完全オリジナル作品とはいきませんが、セレナの今の持てる力のすべてを
注ぎ込んだ一品です。
あとは次回以降、セレナの想いにアミーカが応える番となります。
お楽しみに!




