第42話 動き出す蒸気の革命、ロックボア攻略開始
ロックボア肉の「固い」という問題に対して、まずは現状を知ろうと
セレ×2コンビ(セレナ&セレス)とアミーカは王都の市場に出かけます。
私たち三人は王都の市場に出向き、魔物肉の取り扱い店でさっそくロックボアのお肉を仕入れてきた。
てっきり肉が固くて不人気食材かと思いきや、『金の太陽』に続け!とばかりに研究を重ねるお店もそれなりにあるようで、そこそこの売れ筋商品だとのことだ。
私たちも残り少ないお肉を何とか手に入れることが出来た形だ。
そしてセレスさんの案内で貴族街にある、とあるお屋敷へ。
――
この王都はざっくり説明すると、一番外が庶民街、ベーネ工房があるのはここだ。
次に壁に囲まれた中にあるのが貴族街。貴族、または貴族の屋敷に勤めるものしか入れず、庶民が入るには貴族からの招待状や召喚状を門で提示して入る必要がある。
貴族街の中心に城壁に囲まれた王城がそびえるといった形だ。庶民外の外にも王都としての壁があるので、外敵が王城を攻めようとしたら、都合三枚の壁を超えなければいけないことになる。
なんとも固い守りだ。
――
セレスさんが案内してくれた屋敷はすごく立派で、少なくともヴェルダの街でこんな建物は見たこともない。
「はぁ〜、すっごい」
「ねぇ〜、こんなの始めてだよ」
私たち二人が屋敷を見上げてボーっとしていると、セレスさんが
「ほらほら、ふたりとも時間ないんでしょ?さっさと行くよ」
と私たちの背中を押して中に入るよう促す。
「え、で、でも勝手に入ったら......」
「あ、ごめんごめん、説明してなかったね。ここグレッダ様の別邸。料理試すのにここ使っていいってさ。だから早く入った、入った。」
「え、ええーっ!!」
静かな貴族街に私たちの叫び声が響き渡った。
――
どうやらグレッダさん、本当にアンフェアなことが嫌いな、貴族らしくない貴族のようで、
お金も稼いでない子どもが、支払いが理由で試験に備えられない
―ならば支払いはこちらで持つ
子どもだから自由に料理を試せる環境がない
―ならば場はこちらで用意する
と、きちんと全力を尽くさせないと納得いかないらしい。
なんていうか、すごくきっちりしているというか、めんどくさ......いや、ありがたい人だ。
とりあえず中は非常に充実した調理設備で、なんでも試せそうだ。
それこそロックボアの丸焼きが作れそうな大きなオーブンまである。
(これで別邸なんだ。貴族って本当にすごいなぁ)
早速肉を焼く、煮るの二パターン、下味を入れてみたもの、隠し包丁を入れてみたもの、肉を叩いて柔らかくしてみたものの色々な組み合わせで試してはみたものの......やっぱダメ。
いざ口の中で噛もうとすると弾力がヒドイ。
いや、これ弾力か?もう歯がほとんど食い込みもしないよ。
『金の太陽』の人、絶対肉漬け込んだだけじゃないでしょ!
「これは......ちょっと根本の料理方法から考えないとダメかもね」
アミーカがだいぶ難しい顔で考え込んでしまってる。
たしかに小手先でどうこうというレベルじゃなさそうだ。
んー、料理方法ねぇ。焼く、煮る、揚げる......他になんかあったかなぁ。
――
「ねぇ、澪、寒いからコンビニで肉まん買ってこうよ」
「私はピザまんがいいかなー」
――
ふっと、頭の中に澪の記憶が流れ込む。
ピザまん美味しそう......じゃない!
『蒸す』があったじゃん!!
「ねぇ、アミーカ!『蒸す』はどう?」
私は興奮のままアミーカに確認してみる。
あれ?でも『蒸す』って一般的だっけ??
「蒸す?蒸すってもしかして蒸し風呂の蒸す?」
あ、蒸し風呂は知ってるけど、調理方法としては一般的じゃないんだね。
まあ意味が通じるならいいや。
「そう!ほら、蒸し風呂入るとなんか指がふにゃふにゃになるじゃん?だからお肉も柔らかくならないかな?ってさ」
私は適当な説明でなんとか蒸し料理への道筋を開いてみようとする。
アミーカは私の言葉にしばらく考え込んで、
「試してみてもいいかも」
と呟いた。
「でもセレナ、あれだけ固いお肉だから、しっかり蒸さないと無理だと思う。それ専用の道具でもない限りは......」
「目の前にいるの誰だと思ってるのよ?アミーカがこれだけ頑張ってるんだもん。親友のあたしが頑張らなくてどうするの。作ってみせるわ、道具のひとつやふたつ。私は”錬金術師”なんだから!」
勢いで言った言葉だったが、何か大切なこと、言葉に含まれなかったけど、とても大切なことが心によぎった気がする。
(もしかしたら私の『夢』に繋がる何かかも?)
そう考えたらもう止められない。
私は澪の知識を引っ張りだして、『蒸し器』の構造を思い出す。
――
たしか難しくはないはず。
大きな鍋の中に水を張り、水が直接当たらないよう簀の子を敷いて材料を置き、蓋で水蒸気を閉じ込めて蒸し上げる。
これだけのはずだ。
魔導具としてなら『加熱鍋』があるから、あれをベースに強弱スイッチだけ付ける。
それで簡単に出来るはずだ。
「セレスさん、『加熱鍋』ってある?壊しても構わないやつ」
「壊していいやつなんてあるわけないじゃん。そしたら実験に必要ってことで一つ買ってきてあげるよ。これと同じでいい?」
と、セレスさんは近くにあった『加熱鍋』を指して聞いてくる。
「これの一回り大きいのお願いします!」
「OK、買ってくるからここで待っててね。別邸なら護衛の人もいるから安全だし。」
そう言い残すとセレスさんはあっという間に見えなくなった。
は、早いな、あの人。
そういえば強いんだっけ?体動かすのも得意なんだろうな。
「アミーカは蒸す前に少しでも柔らかく出来ないか考えてみて」
「うん!すごいね、『つむじ風コンビ』でこんな大挑戦するなんて思ってもみなかったよ」
「私たちならやれるよ。さあ、頑張ろう!!」
そう言って私はセレスさんが戻るまでに鍋に必要な素材を書き出し、簡単な設計図を組み、あとは素材さえ揃えば着手できるよう準備を整える。
アミーカも保存庫に入って色々と探してるみたいだ。
良かった。私もアミーカの力になれそうだ。
錬金術師として、アミーカの料理を一段も二段も上に引き上げられる魔道具を作る。それが出来たら、今は分からない、でも絶対に分からなきゃいけない何かが掴めそうな気がする。
これはアミーカの夢に続く道だと思っていた。
だけど、私の未来に続く扉でもあるんだ。
(絶対にこの扉、開いて見せる!!)
私は心にそう固く誓い、こぶしを握りしめた。
セレナも自分の未来へのヒントを見つけたようで、とても積極的になりましたね。
エンジン全開、これからが『つむじ風コンビ』の真骨頂です。
次回は蒸し器試作と料理試作のドタバタ回になりそうです。




