第40話 マリーの想いと、セレナのまだ見ぬ夢
セレナを怒らせてしまったマリエッタ。
今日はマリエッタ視点で話が進みます。
「あちゃー、ちょっとやり過ぎたか。セレナをあんなに怒らせるつもりはなかったんだけどな」
私はベッドに寝転がりながら、セレナに言われた通り反省していた。
普段ならあれくらいのジョーク、皮肉めいた感じでかわすのに、今日はアミーカちゃんいたから余裕なくなっちゃったんだろうな。
(もう、かわいいったらありゃしない!)
しかしセレナにも言ったが、二人は小さいのにとても得難い経験をしている。
ヴェルダでは絶対に出来ない経験って考えたら、この旅行、私のワガママだけで終わらずに済んでよかった。
そう、実は今回の王都行き、来た理由は師匠のためとか工房のためじゃない。
ヴェルダでは出来ない、第一線の現場がヒリついているような状況で、昔の自分の腕がまだ通じるのか試したかっただけなのだ。
私の子どもじみたそんな願いをそのまま受け入れ、送り出そうとしてくれたルキウスには本当に感謝しかない。
セレナには照れ臭くて隠したが、ルキウスが私を好きなのではなく、私がルキウスを心から愛してるのだ。初めて会ったあの時の情熱はまだ胸の中で燃え続けている。
さすがにセレナを残して行くのは申し訳なくて家族旅行の形にさせてもらったが、パステルと会わなければ今回の旅行で一番ワリを食ったのはルキウスだろう。
私のために作ってくれてた薬、私のためじゃなくていい、ルキウスの努力が実って、彼の夢がまた一つ実現してくれたなら…
そんなことを考えていたらルキウスがお風呂から戻ってきた。
――
「あれ、セレナ達はもう寝たのか?」
「ええ。明日から2人ともわだかまりなく楽しめると思うわ」
私の言葉にルキウスはホッとしたようだ。
「しかしアミーカちゃんがあんなこと考えてたとはなぁ。セレナは本当にいい友達を持てて幸せだよ」
アミーカちゃんが相談に来た時、ルキウスも側にいたので事情は彼も知っている。
「学校側は手を焼いてたようだけどね」
私はクスクス笑った。
『ヴェルダ初等学校のつむじ風コンビ』
実はうちもフローラのところもすでに半年以上前から探りは入れられていた。
――――
「こういったイタズラが学内で多発しておりまして。
それで、そのう、大変申し上げにくいのですが...」
マチルダ先生はそこで言葉を区切り、唾を飲み込んだ。
よほど緊張しているようだ。
「我々の間でセレナさんとアミーカさんがやっているのでは?と疑問視する声が上がり始めててですね、その、こう、最近ご家庭で悩まれてるとか、何か変化があったとかないでしょうか?」
なるほど、緊張はそれが原因か。
半年に一度成績等に関して親へ報告する会、通称『報告会』。
その席で私たちは担任のマチルダ先生にそう聞かれた。
セレナが特に明るくなったのは入学して2ヶ月立たないくらい。
アミーカちゃんとは入学以来の友達なので、仮に二人が犯人だとしたら、今聞いたイタズラが多くなり始めた時期とぴったり重なる。
まともな親ならここで正直に言うんだろうけど。
イタズラひとつ止められない学校も情けないと思うし、何よりイタズラはどうも自分たちではなく、周りを楽しませるためにやってるフシがある。
ここはいったん保留でいいかな。
「最近ですか?そうですね、特に変わりなく元気に過ごしていると思いますよ」
「そうですか…いえ、大変失礼なことをお聞きしました。申し訳ございませんでした」
「いえ、学校の先生も大変ですものね。何かあったらご協力しますので、いつでもご相談ください」
そして私たちは無難に報告会を終え、家路についた。
――
私とルキウスはその後セレナたちを特に問い詰めることはしなかった。
正直子どもならイタズラのひとつやふたつ、当たり前だろう。
ただこのふたりはその先の被害や、バレないような計画まで考えてやっているようだ。
「それなら私たちが明かしちゃうのも野暮ってもんよね。先生たちが頑張って突き止めなくちゃ」
「最近は大人も子供も頭固いからな。二人に振り回されて新しい視点を開けばいい」
それが私たちの意見だった。
――
その状況が一変したのはつい先日。
報告会の時期でもないのにマチルダ先生に呼ばれた。
ルキウスは急な仕事が入ってしまい今日は来ていない。
部屋に入ると、なんとフローラも一緒だった。
あ、これはバレたなと思ったら案の定。
「すみません、以前おうかがいしていた『つむじ風コンビ』ですが、アミーカさんとセレナさんでした。今日はひとまずそのご報告をと思いましてお呼びだてさせていただきました」
言われた内容は予想通りだが、言われ方が違う。
以前の弱々しさからは想像もつかないほどハッキリと説明している。
何かあったのだろうか?
「変なお願いになりますが、このお話は私とお二方の間だけの秘密とさせてください。今日お呼び立てしてるのも、お二方から学校での様子を知りたいと言われたので時間をとったと、他の先生には説明してあります」
ますます訳が分からない。
「実は...」
話を聞き終えて私はようやく事情を把握できた。
秘密がバレたのがアミーカちゃんの自爆というのには、大笑いしそうになった。
フローラが顔を真っ赤にして、とても恥ずかしそうだったのは、ちょっとかわいそうだったけど。
マチルダ先生はその後、二人から教師としてのヒントをもらい、とても感謝をしていると。そこで二人のことは黙っておくことにした。
しかし親には自身からの感謝も合わせて、きちんと事情を伝えるべきと考え、今日の形になったそうだ。
しかしセレナも授業の全単元を二分割するとか面白いこと考えるわね。
アミーカちゃんもきっと料理関係だとは思うけど、夢について真剣に考え始めたみたいだし、先生もとても自信に満ち溢れてて頼もしいし。
「あー、黙ってて良かった!」
私が立ち上がって伸びをしながらそう言うと、マチルダ先生はギョッとした顔になって私を見上げた。
「だ、黙っててって。も、もしかして知ってたんですか?」
「いえ。ただ前に先生の話聞いたら入学2ヶ月後くらいからイタズラ始まったって言ってて、その頃から特にセレナ明るくなったから、たぶん時期的にセレナだろうなって」
そう言って私は座り直す。
「で、その頃の一番の友達はアミーカちゃんだったから二人でほぼ確定だなーって思ってたの」
「でも前回は特に何もって...」
「『最近』何か変わったことは?って聞かれたから最近のことは答えましたよ?
でも変わったのは入学2ヶ月後でしたからね。入学してからって聞いてくれたら素直に答えたんですけどね」
マチルダ先生はグッタリと机に倒れそうになり、一応教師だからという意地からだろう、再び姿勢を戻した。
「さすが、セレナさんのお母様ですね…」
「やだ、やめて。私なんて昔王都で『台風娘』なんて呼ばれてたんですから。まだまだヴェルダの『つむじ風』程度に負けるつもりはありませんよ。」
と、いたずらめいた笑顔を返す。
最終的に今日のことは卒業まで黙ることを3人で約束して会はお開きになった。
――――――
「まあ今日の様子を見てるとアミーカちゃんはもうイタズラどころじゃないだろうな。もう夢を見つけた一人前の顔になってたし。」
「そうねー、でもセレナはまだ見つからないんだって。」
私はちょっと不満げに口をとがらせる。
アミーカちゃんはとってもいい子だから私たちも大好きだが、やっぱり自分たちの娘には負けずに頑張ってほしいし、そのためならいくらだってサポートを惜しむつもりはない。
今は一歩負けてしまってるのが私にとってもちょっと悔しいのだ。
「何言ってるんだ、セレナに内緒であんな高度な魔導具製作のやり方教えてるから、セレナは夢なんて探すヒマもないだけじゃないか。」
そう、私はセレナに気づかせないよう、だいぶスパルタで教えている。
セレナは魔力も人並み以上にあるし、属性もある。
おまけに理解力はそこらの大人でも敵わないほどに高い。
別にセレナが将来、私のような製作特化の錬金術師になりたいなら、話は簡単だ。
私のやり方を余すことなくそのまま伝えれば、それだけでセレナはあと2年もすれば、ヴェルダどころか、王都でだって通じる腕前になるだろう。
だけどセレナはそれ以上を目指せる素質がある。
今伸ばせば、伸ばすほど、セレナが将来選べる選択肢は色々と増やすことができる。
出来るだけ本人にとって幸せと思えるような未来を掴める子になって欲しい。
親が出来ることは、そのための腕を出来るだけ長く広く伸ばせるよう育てることだけだ。
「分かってるわよー。でも負けてるの見ると悔しいじゃない。」
「期待するのはいいが、もう少しゆっくり見てやれ。花だって肥料をあげすぎたら根腐れするぞ。」
笑いながら注意するルキウスに、私はハイハイと軽く返事した。
「さあ、もう寝よう。明日から2人とも忙しくなるからな。しっかり寝て体力回復させておかないと持たないぞ。」
「そうね。助けに来たのに倒れたら笑い話にもならないわね。」
「そういうことだ。おやすみ、マリー。」
「おやすみ、ルキウス。」
私たちはランタンの灯りを消して床についた。
セレナとアミーカちゃん、二人の挑戦が、さらなる明るい未来へ続く道になるといい。
そんな願いを聞き届けたかのように、窓の外で星がひとすじ流れた気がした。
さて、明日からはいよいよセレナとアミーカの試練挑戦開始となります。
難しいお題に対して二人がどういうアプローチを考えるのか。
そこもお楽しみにお待ちください。




