第4話 消えたい私を止めた、不器用な家族の愛
サイフォンの原理のイメージでさっそく魔石からの魔力抽出を成功させたセレナ。
ママの驚きの表情はいったい?
「......セ、セレナ。なんでもう出来てるの?」
ママの驚愕の表情に一瞬で悟る。
たぶんすぐに出来てはいけなかった技術なのだろう。
私はとりあえず
「わかんない」
と誤魔化す。
ここで「サイフォンの原理がね......」なんて説明できるわけがない。いけない!澪のことがバレないよう慎重にいかないと。
ママは慌ててパパを呼ぶ。
「あなた、ちょっと。セレナが!」
「セレナがどうしたー!!」
パパは今日最速のスピードで自分の工房から飛び出してきた。
別にケガとかしたわけじゃないんだから、大げさだよ......
パパが私の右手に浮き上がる青色の魔力の球を見て驚きの表情を浮かべたと同時に、
――フッ
私の手から魔力の球が消えうせた。
「あー!せっかく出来たのにぃ」
「まあ、維持する方法をまだ教えてないからな。というかセレナ、これは初めてでそうそう出来るものじゃないんだぞ」
パパは少し真面目な顔をして言ってくる。
――
ちょっと嫌だな......まるで澪の記憶がこの世界に拒絶されてるように思えて。
私たちは二人で一人。その片割れを否定されるくらいなら、いっそこの世界から消えてしまおうか......
――
私のそんな暗い考えが顔に出てしまっていたのだろう。ママが慌てて近寄って、私の体をギュッと抱きしめた。
「大丈夫、セレナ。悪いことじゃないの。あまりに出来るのが早かったから、私たちがビックリし過ぎちゃったの。ね、あなた」
「ああ、そうだ!むしろこんな大天才が俺たちの娘で誇らしいぞ!!」
パパもママの上から私ごと抱きしめてくれる。
(あったかいなぁ)
二人の態度は明らかに取り繕いでしかない。
澪の記憶はそんな余計なことすら教えてくれる。
でも、二人が私を想ってくれるこの温かさもまた、本当のものなんだ。
私はバレないよう、目に浮かんだ涙をこっそりと拭い、二人から抜け出して
「大天才!?すごい?やったー!」
とジャンプして喜んだフリをする。
二人の真心にふれて、いつまでも落ち込んでなんかいられないもんね。
よーし、どうせなら、一気に全部の魔石で成功させて、どんどん次の段階に進もう!
私は魔石で遊びたいんじゃなくて、魔道具が作りたいんだから!!
「他の石もやってみていい?」
私の言葉にパパもママもウーン......と一瞬迷いを見せたが、
「よし、父さん達が見ててやるからやってみろ。今日はセレナの誕生日だ、いつまでだって付き合ってやる!」
とパパが言ってくれた。
「あなた、ポーションの納期は?」
「あれは明日までだから大丈夫さ。それよりいつも仕事で忙しくしてるんだ。こんな日くらいセレナに付き合いたいじゃないか」
一瞬難しい顔をしたけどママは諦めたみたい。
フゥッと溜息をもらすと
「そうね、誕生日に、魔力抽出成功。こんな記念日にセレナを放っておいたら神様に怒られちゃうわ」
と言って、また頭を撫でてくれた。
「よし、じゃあ次は『土の魔石』だ。やって見ろ」
パパは今度は黄色の石をくれた。
そして私は渡された『土の魔石』も成功させたのだが、この時にママに聞かれた。
「ねぇ、セレナ。何で腕変な上げ方してるの?」
あー、そりゃそうだよね。変だよね。
さてどうやって逃げようか。
「あのね、石から吸い出すってのが分からなかったから、石の中にいっぱいの水が入ってるって思って、それをこっちの手のコップに移し替えるってイメージしてみたの。そしたら出来たよ」
ここにきてパパとママはようやく納得いったようだ。
「なるほど!魔力抽出は石から吸い出す感覚を掴むのが難しいんだが、セレナは石もコップに見立てて、コップからコップに水を移すイメージでやったんだな?」
「うん、そう!」
よし、うまく逃げられそう。
「ねぇ、これ今度孤児院行った時教えてみるわ。すごいアイデアかも」
ママはボランティア好きでたまに孤児院行って勉強教えたり、炊き出しをしている。
錬金術師になりたいって子には、私みたいにさわりだけ教えてあげてるみたい。
内緒だけど料理は壊滅的にダメだから、炊き出しの時は作るのはパパで、ママは配膳係。
パンを焼くくらいなら大丈夫なんだけど、料理となると、からっきしになるみたい。
「あぁいいんじゃないか。孤児たちも助かるだろうし。さてセレナ、後は同じように風と火だな」
だけど待ってほしい。
2回連続でやったから、もう腕がプルプル通り越してプルップルなのだ。
休ませてー!
「うん、でもごめん。ちょっと休ませて」
って言って床にゴロンしてから気づいたんだけど、一回サイフォンの原理をイメージ出来たんだから、次からは別に本当に腕上げなくてよかったよね。
いや、失敗したなぁ。
「そうね、少しずつにしましょ。じゃないと私が追い抜かれちゃうわ」
ママはそう笑ってミルクを入れに立った。
「よし、じゃあ今日はパパが遊んでやる!何やりたい?何でもいいぞ」
パパも上機嫌だが本当に仕事いいの?
まあ仕事には絶対のプライド持ってやってるの知ってるから信じるけど。
「うーん、それじゃあ…」
とは言っても遊びって思いつかないなぁ。
そういえばパパは薬とポーション作ってるって言ってたっけ?
私のために納期無理してくれたみたいだし、ここは...
「じゃあ今度はパパの仕事見てみたい!」
この時の私は考えが足りてなかった。
私のことが大好きすぎるパパ。
そのパパにそんなことを言えばどうなるか、ちょっと考えれば分かったはずなのに......
「おぉー!セレナが俺の仕事にも興味を持ってくれた!パパは嬉しいぞ!!よし、じゃあ色々教えてやる」
そう言って私の腕を引っ張って、自分の工房へと大急ぎで移動した。
「あ、マ、ママー!」
呼んでみたが、ママは諦めろと言わんばかりに、静かに首を横に振った。
そうだよね。自業自得だよこれは。
これ以降、私はパパに対しての発言は十分に気をつけるようにしている。
誘拐まがいのように連れていかれるような、そんなあぶない愛され方を私は望んでないんだってば。
普通でいいの、普通で!!
しかし、工房に連れて行ったあとは、パパはすごく真面目に自分の仕事について説明をしてくれた。
基本はポーションを作るのが仕事だけど、お金がない人に向けて、出来るだけ安く薬効の高い薬も作っていること。いわゆる『薬』だけではなく魔導具の製作で使う『薬剤』などを作ることも仕事ということなどなど。
そうだった。パパは仕事モードに入ると、途端に真面目になる人だった。
そういう切り分けが出来るから、いつものオーバーな愛情表現も少し目をつむってあげてるんだった。
「セレナ、ちょうど今度ママの魔導具に使う薬剤のための薬草を取りに森へ出かけるんだが、一緒に行ってみるか?セレナも将来のために少し覚えておくと便利だぞ?」
森かぁ。私が捨てられてたって場所だな。
とは言っても自分自身に捨てられてた記憶がないから特に悪い気分もしないんだけど......
「じゃあ行ってみる!」
「お、そうか!日にちが決まったら教えるからな。セレナとお出かけ楽しみだなぁ。きちんと準備して、パパがセレナのことを守ってやるから安心するんだぞ」
守る。
その言葉でついつい楽しいだけの気持ちになっていた私も少し冷静になった。
そうだ、魔物はあまりいないとは聞くけど獣は普通にいるわけだし、私なんて犬に襲われただけでも逃げ切れないだろう。
けどビビってる場合じゃない。
私は一日も早く錬金術師になるんだ!
この魔力移動のイメージを広めたことで、以後ヴェルダの街周辺の錬金術師見習い達は、魔石からの魔力移動の習得が従来の1.5倍は早くなったとか、なんとか......




