第36話 王都の酒場で出会ったパパの“昔を知る人”
こんな人が伯…ゴホゴホ。
グレッダさんの正体が判明し、立て続けに今回も新しいキャラクターが出てきますよっ♪
だいぶ話し込んでいたが、ふと我に返る。
(あれ、料理、どうなってたっけ。)
そう思った瞬間、店の奥から男の人が3人、やけに大きな皿を慎重に運んでくるのが見えた。
まさかと思ったけれど、その皿は迷いなく私たちのテーブルへ。
ドンッ。
置かれた瞬間、テーブルが小さく軋んだ。
皿はテーブルのほぼ全面を占領し、飲み物しか残りスペースがない。
その上には、湯気をまとった巨大な肉の塊。
前世でのアニメで見た“マンガ肉”を数段階パワーアップさせたような代物だ。
そして店の奥から店員さん達がわらわらと出てきて私たちのテーブルを取り囲み、
「セレナちゃん、アミーカちゃん、初の王都セントーレヘようこそ!楽しんでいってね。」
と声をそろえて歓迎のメッセージ。
「は、はい。ありがとうございます。」
私たちはドギマギしながら、お礼を言った。
パパは横を向いて笑いをこらえている。
「パパ、これパパの仕業でしょ?」
「いや、さっきむくれてたから、笑顔にしてやりたくてな、アーハッハッハッ!」
私がパパをポカポカ叩いていると、アミーカはお肉の方が気になったようだ。
「こ、これ、なんのお肉ですか?」
「ワッハッハ、ロックボアの丸焼きだ。アミーカちゃんたちが遭遇した魔物だな。丸焼きは初めてだろ?」
確かに、私もアミーカもこんなのは初めて。
「ねえグレッダさん。魔物図鑑じゃ、ロックボアって固くてマズいって書いてあったよ?」
私の言葉にグレッダさんは頷く。
「ああ、ウソじゃないさ。だがここの店主の秘伝ダレに漬けてじっくり焼くと、魔法みたいに柔らかく、ウマくなるんだ。試してみな。」
試しにナイフを入れると、何の抵抗もなく通った。本当に柔らかい。
切り分けたお肉を口に運ぶ。
すると、香辛料の香りがふわりと広がり、奥からお肉の旨味がじわじわ湧き上がる。
と思ったら、次の瞬間には一気に押し寄せ、香辛料、塩気、肉汁が混ざり合い、熱となって胃へ落ちていった。
「「おいしーーー!!」」
私とアミーカの声が見事に重なる。
あまりの美味しさにパクパク食べ続けてしまうが、私とアミーカじゃ3日分はありそうだ。
全然減った気がしない。
「リオも、ほらよ。」
グレッダさんに促され、ウェイトレスさんがスジ肉煮込みをリオの前に置く。
一口食べた瞬間、家では見たことがない勢いでガツガツ食べ始めた。
相当気に入ったらしい。
レシピあとで聞いといてあげよう。
「どうだ、うまいだろ?」
グレッダさんが誇らしげに笑った、その時。
バンッ!
酒場の扉が勢いよく開く。
栗色の髪を揺らし、白衣の女性が駆け込んできた。視線はまっすぐ私たちへ。
「ルキウス!?『金の太陽』にいるって本当だったのね。」
前世のお医者さんみたいな白衣をラフに着こなす女性。
パパと同年代か、少し下くらい?
(修羅場?修羅場かな?)
私はパパだというのに、思わずドラマのような展開を期待してしまう。
だがパパはそんな私の期待を大きく裏切り、
「おー、パステル。なんで俺がここにいるって?」
と、呑気なもの。
「グレッダさんが『ルキウスに奢る』って言ってたでしょ?その場にいたうちの職員が聞いて、私に報告してきたの。」
女の人はツカツカと大股で近づきながら、そう話す。
「まあ落ち着けよ。娘たちが目を白黒させてるだろ。」
確かに、勢いに圧されて私もアミーカも完全に固まっていた。
パステルさんはハッとして頭を下げる。
「ごめんなさい。ルキウスを捕まえなきゃって焦ってて。」
「そのクセ直せって昔から言ってるだろ。」
「何よ、ルキウスだっ……」
「はいはい、そこまで。」
パパが手を上げて制した。
「セレナ、アミーカ。この人はパステル。王都で働いてた頃の後輩だ。パステル、こっちは娘のセレナと、友達のアミーカ。」
「よろしくお願いします。」
お互い頭を下げあう。
「そういえばセレナ、パステルは“内緒のチーズ”の贈り主でもあるぞ?」
「えっ、あのめちゃくちゃ美味しいやつ!?」
パステルさんは一瞬きょとんとしたあと、大笑い。
「な、内緒のチーズって。はぁ、ルキウスがホントにお父さんしてるなんて、アーハッハッ。」
さっきの焦りはすっかり消えたようだ。
ひとしきり笑ったあと、ようやく本題へ。
「まだ王都にいるんでしょう?」
「ああ。マリエッタがベーネ工房の手伝いをしててな。年内いっぱいかかるかもしれん。」
「ならルキウス、悪いけど手伝って。もう少しで“魔力酔い”の新薬が形になりそうなの。」
パパの表情が一瞬で変わる。
「本当か。」
「この王都で、そういう冗談はご法度でしょ。」
パステルさんの説明は簡潔だった。
王都の巨大魔石“マナ・マテリアル”。
強大な魔力を蓄えるが、魔力の弱い人間には“魔力酔い”を引き起こす。
まあ一日中気持ち悪くて頭が痛いとかで考えてもらえば間違いないと思う。
貴族は魔力が高いものが多く関係が薄く、庶民だけが苦しむ厄介な問題。
なので対応も後手後手らしい。
「2人とも、市場で話さなかった、“マナ・マテリアル”が嫌われる、本当の理由はこれだよ。」
なるほど、納得がいった。
たしかに苦しめられてる人たちからしたら、恩恵以上に厄介な代物だろう。
パステルさんはそんな人たちのために職場を辞め、研究室を建てて、長年向き合い、ようやく突破口を掴んだのだという。
「最後の壁を越えるのに、どうしてもあなたの力が必要なの。」
……ん?
私は素朴な疑問を口にする。
「ねえパステルさん。パステルさんってパパの後輩なんでしょ?」
「ええ、そうよ?」
「なんでパパにタメ口で、パパより偉そうなの?」
ブッ!!
パパとグレッダさんが揃って酒を吹いた。
パパが私の口を慌ててふさごうとし、グレッダさんは大笑い。
パステルさんはなぜか言いづらそうにモジモジ。
もしや、と思ったところで。
「まあまあ、二人じゃ言いにくいだろ。セレナちゃん、こいつらは昔付き合ってたんだ。」
グレッダさんの爆弾発言。
パパはグレッダさんに掴みかかり、パステルさんも猛抗議するが、グレッダさんは涼しい顔。
アミーカは頬を赤くし、リオはスジ肉のおかわりを平らげて寝ている。
平和だなぁ。
「でもな、ルキウスは仕事以外だといい加減でよ。パステルに愛想尽かされて振られたんだ。」
私が「なるほどね〜」と呟くと、パパが涙目になる。
「セレナぁ、お前がそんなこと言うとパパ泣くぞ。」
「ご、ごめん。パパが真面目なのは知ってるよ。」
慌ててフォローする。
そして前から気になっていたことをぶつけた。
「でもさ、王都なら腕のいい錬金術師、いっぱいいるでしょ?なんでわざわざパパに?」
「ルキウス、話してあげてないの?」
パステルさんが驚いた目を向ける。
「俺は自画自賛が嫌いなんだよ。」
「それ、あなたにも当てはまるのね。いい? セレナちゃん。あなたのパパは昔、王都で“三本の指に入る錬金術師”って言われてたの。王城からスカウトもあったくらい。」
「……は?」
私とアミーカは同時にパパを見る。
パステルさんは続けた。
「そのスカウトを断ったせいで、王城の偉い錬金術師に睨まれちゃって、ギルドが仕事しづらくなったの。それで責任を取って王都を出ることになったのよ。」
知らなかった...
じゃあ前に聞いたパパが王都を出た理由ってあれで全部じゃなかったんだ。
(辛かったろうな、パパ...)
ふとパパを見ると、ただただ外を眺めていた。
その顔は辛くも見えるし、悲しくも見える。
「でも、そんな腕の持ち主が戻ってるなら、他を頼る意味なんかないじゃない?こっちに頼むに決まってるでしょ。」
なるほど。だから本気で頼みにきたのだ。
王都から出たけど、いなくなって悲しんでくれたグレッダさんや、こうして頼りにしてくるパステルさん、いい人とも関係築けてるんだな。
(そりゃ、王都嫌いになんかなれないよね。)
パパは目を閉じて眉を寄せる。
「うーん、手伝いたいのはやまやまなんだがなぁ。セレナ達の面倒だってあるし...」
パパが悩むその背後から、静かだがよく通る声が響く。
それは今まで私が聞いたこともない、力強い声だった。
ちなみにルキウスとパステルは仕事が忙しいこともあって、付き合ってた期間は半年、恋人らしい時間としては賞味1ヶ月あったかなぁ?くらいです。
この辺もそのうち外伝で書いてみたいですね。




