第35話 豪快冒険者グレッダ、その正体は伯爵様
ママの昔の異名が分かり、調子に乗ったアミーカのせいで「つむじ風」のことをパパにバラされたセレナ。
果たしてパパの反応は?
パパはアミーカの話を最初こそ楽しそうに聞いていたものの、途中からみるみる顔が固まり、最後は天井を見上げてポカーンとしてしまった。
(まあ、そうなるよね...)
家では私の正体なんて欠片も見せてないし、アミーカが来た時も絶対バラすなって釘を刺していた。
森の件は盛大にバレてたけど、『つむじ風コンビ』はバレてなかったはず!
いや、バレてないからこそまずいのか...
一方、グレッダさんは話を聞き終えた瞬間、腹を抱えて笑い出した。
「ワッハッハッハ。『我道』と『台風娘』の娘だ、そりゃ筋金入りだろ。アミーカちゃんも頭の回り方がいい。将来とんでもねぇ規格外コンビになるぞ!」
そう言ってジョッキを掲げ、そのまま一気飲み。新しく運ばれてきたジョッキも掲げて、
「セントーレの若き希望に、乾杯っ!」
また一気。
(絶対に樽ごと置いた方が早いよね?)
心の声が聞こえたのか、グレッダさんはウェイトレスさんに手を挙げた。
「樽酒ひとつ。ここに置いといてくれ。柄杓もな。」
え、柄杓。
(いやいや、パパ絶対つぶれるって!)
幸い、パパは“つむじ風コンビ”ショックからまだ復帰できず、テーブルに突っ伏したままだ。しばらく気絶しててもらおう。
大きな樽が運ばれ、グレッダさんは柄杓で酒をすくい、行儀よくジョッキに注いで飲む。
大柄で豪快な雰囲気なのに妙に可愛い。
なんだろう、どこかのクマさんを思い出す。
すると突然、店中に響く声。
「今日はルキウスとの再会祝いだ!全員、飲み食い好きにしろ!俺のおごりだ!」
ウォォォォーーッ!
地鳴りのような歓声が酒場を揺らす。
「グレッダさん!そんなこと言って大丈夫なの!?」
「破産しますよぉ。」
私とアミーカが心配しても、グレッダさんは晴れやかな笑顔を浮かべるだけ。
その時、パパもやっと意識が戻り、
「お、おいグレッダ。本当にいいのか。」
「ルキウス、お前久々すぎて俺の正体忘れてるだろ?これくらい朝飯前だ。」
正体?なにそれ。ここの大旦那の息子とか?
アミーカと顔を見合わせていると、パパが小声で言った。
「こいつはこう見えても貴族なんだ。伯爵家の跡継ぎで...いや、もう継いだのか?」
「ああ、一昨年な。」
「じゃあ伯爵様だ。」
……へ?
「ええっ、こんな人が伯爵!」
思わず叫んでしまい、パパに頭をパーンッと叩かれた。
(痛いけどこれは私が悪い。)
「す、すみません、グレッダ様。」
「ワッハッハ。構わねぇよ。そんな反応、挨拶みたいなもんだ。呼び捨てでいいぞ、セレナちゃん。」
(貴族のイメージ、全部崩れたんだけど。)
場が落ち着いた頃、アミーカが少しうるんだ目で私をつつく。
「もー、セレナ。私より目立つのやめてよね?」
「こんな人が伯爵」発言をちょっと心配してくれたのか。
私は笑ってアミーカの頭を撫でた。
「大丈夫、ちゃんと“二番手つむじ風”でいるよ。」
私はグレッダさんに、気になっていた疑問をぶつけてみる。
「貴族って王城で働いてるイメージなんですけど、冒険者やってもいいんですか?」
「貴族の世界で庶民が働くのは普通だろ?なら庶民の世界で貴族が働いたって問題ねぇよ。」
アミーカも続けて質問。
「でも、もっと豪華なご飯とか食べてるんじゃ…?」
「それはここの親父に失礼だな。俺はここが一番ウマいと思ってるぞ。」
そう言ってニッと笑う。
パパも説明を添える。
「珍しくはあるが、貴族の冒険者もいるんだ。工房で庶民の親方に怒鳴られる貴族の弟子なんてのも王都じゃ普通に見られるぞ。」
ほー、想像よりずっと自由なんだ。
「じゃあ、庶民と貴族の違いって何ですか?」
私の質問に、グレッダさんが答えた。
「俺達は自分たちの生活以外にも広く手を伸ばす。それは国のためや国民のためのことだ。」
そしてまたジョッキを空にする。全く酔う気配がない。
(水飲めばいいのに。)
「その貢献の高さを国民や国に認められて『貴族』と呼ばれるのさ。中には血筋がどうとかバカなことにこだわるエセ貴族も多いがな。」
「2人とも覚えておきな。俺達は国や国民が認めてくれるから”偉い”立場にいられる。そのための努力を忘れた者はもう貴族でいちゃいけないのさ。」
私はまっすぐ頷く。
アミーカは、まだぽかんとしている。
後で教えてあげよっと。
なんか固い話題になってきたから、私は話題を変えてみた。
「でも冒険者って、そんなに儲かるんですね。」
「儲からんぞ。報酬は装備のメンテでだいたい消える。ケチると死ぬからな。」
じゃあ伯爵家のお金はどこから?
「うちは国防と魔導具販売で伯爵として認められてるんだ。冒険者の仕事全部が戦闘じゃないのは分かるか?」
私とアミーカは首を振る。
「洞窟の素材採取とか、遺跡調査とか。必要なら戦うが、目的が果たせりゃいいだろ?」
確かに、言われてみればそうだ。
「だが魔物を放置すると被害が出る。だから魔物絡みは優先で受けて、討伐と情報収集を続ける。これが国防だ。」
パパも続く。
「ギルドも魔物関連はグレッダみたいな討伐専門に回す。情報も揃うし、情報が揃えば定期討伐も組みやすくなって安全が確保しやすくなるからな。」
ふむふむ。
「で、貴族の冒険者は大体これをやってる。」
「魔導具で爵位ってなんですか?」
今度はアミーカが聞く。
「伯爵家以上ならだいたい家に工房を持ってる。素材を仕入れて作って売る。普通はそうだな?」
私は頷く。
「だがうちは素材を俺が取りに行き、加工も製作も家で完結する。だから安く作れる。」
「なるほど、安く仕入れて高く売る。商売の鉄則ですね。」
パパが苦笑する。
「違う。安く作れる分、冒険者には格安で売ってるんだ。」
グレッダさんも補足する。
「セレナちゃん、冒険者はどれくらいいると思う?」
私は少し考えて、
「300人くらい?」
「正解は倍の600人。王都だけなら300人だから、それなら正解だな。」
そう言って私の頭をわしゃわしゃ撫でる。
(力強いって、髪めちゃくちゃだ。)
「冒険者が装備を買えなくなると、魔物討伐が減る。そうなると騎士団が駆り出される。そこで他国から攻められたら?」
「負けちゃう。」
アミーカが答え、グレッダさんが満足げに頷く。
「だから冒険者の数を維持するために、こいつの家は格安で魔導具を売ってる。」
パパの説明でようやく腑に落ちた。
目的は魔導具を売ることじゃなく、国を回すための戦力維持。
それが貴族の「稼ぎ」と「役割」になるわけだ。
「まあ冒険者は買う頻度が高いから、売上としても悪くないけどな。」
そっかぁ。
そういう「冒険者のための」みたいな、作る相手を絞った魔導具作りもあるんだな。
それはそれで専門性が高くなって面白そうな気もする。
いずれはそういうのもやってみたいなと思いながら、私はグレッダさんたちの話にまた耳を傾け始めた。
この話、まさしくセレナの叫びに集約されます。
「ええっ、こんな人が伯爵!」
なぜなら途中まで貴族にするつもりなんてなかったんですよね。
ただこの後の展開的に貴族にしておかないと話が広げられないとなって、急遽登板してもらいました。




