第33話 噴水騒動と“我道“ルキウス
王都観光5分で大爆発に遭遇し、王城前でスベるパパ。
今日の噴水広場でやらかすのはいったい誰?
王城の見学を終えた私たちは、王都の中心にそびえる大噴水へ向かった。
中央の大きな噴水を、5本の噴水が時間差で囲み、最後に6本すべてが空へ跳ね上がる。
その光景は、まるで都市そのものが息づいているみたいだった。
「この噴水は、真ん中が王都。周りの五本が五大都市を表してるらしいぞ。今回通ってきた温泉都市ウルヴィスもそのひとつだ」
パパの説明を聞きながら見とれていた私とアミーカは、不規則な水の動きが面白すぎて、近くに寄ろうと駆け寄...れずに、パパに捕まった。
ただ、リオだけは止められなかった。
リオはあろうことかそのまま噴水に飛び込み、バシャバシャ駆け回って楽しそう。
「ずるいっ、リオ!」
私がそう言うと、呼んだ覚えはないのに、本人(本犬?)は
「呼ばれた!」
と勘違いしたらしく、尻尾をぶんぶん振りながら噴水の中から突進してくる。
しかも...風の魔力をまとって!
次の瞬間、私はリオのタックルをまともに受けて地面へ倒れ込んだ。
「あったぁ...あれ、 痛くない。」
着地の直前、ふわりと風のクッションができていた。リオが作ってくれたらしい。
「リオ、風まとって突進はダメ! 私ふっとぶんだから。」
両手で頬を挟んでそう怒っても、リオは鼻をぺろっと舐め、
「ワンッ!」
と嬉しそう。
まあリードでずっと繋ぎっぱなしで可哀想だったし、これくらいならいっか。
その時隣のアミーカが私を指をさして爆笑した。
「セレナ、びしょ濡れだよ。」
見ると服が腹まわりまでびっしょり。
(リオ、どうせなら当たるところも風の膜張っておいてほしかったよ...)
水の冷たさにブルッと震えると、パパが近づき、私のお腹に手のひらをかざす。
ほのかに温かい風が流れ、少しずつ服が乾いていった。
「すごーい!今の魔法?」
「火魔法でちょっとな。パパもこのくらいならできるぞ。」
初めて見るパパの魔法に、私もアミーカも目を丸くする。
「教えて、魔法のやり方。」
「私も習いたいです。」
パパは困ったように肩をすくめた。
「教えてやってもいいんだが、この国じゃ13歳未満へは魔法指導が禁止なんだ。暴発しやすくて危ないらしい。」
「えぇー。」
「ふたりが爆発していいなら教えてやるぞ?」
くっくっく、とわざとらしい悪役スマイルで迫ってくる。
(ふっ、この私とやる気だな?)
「ここに幼女誘拐の変態がいまーす!」
「いまーす!」
どうだ、打ち合わせなしのこのコンビネーション!
アミーカとさらに続けようとした瞬間、パパの手が私の口をふさいだ。
「それ以上言うなら2時間コース。」
低い声が耳元に落ちてきて、私たちはピタッと体ごと止まる。
森へ勝手に入り2時間コースのママの説教を受けたのはつい最近のことだ。
2、3日は夢に見るほどの、あの地獄。
((あんなの絶対イヤ!!))
アミーカと心の声が重なった気がした。
次に私たちは市場へ。
王都の市場には、見たこともない食材や素材がところ狭しと並んでいた。
魔物の爪や皮、それに肉と、どれも雑多に積まれている。
ん?.....肉!?
「魔物の肉は昔は毒だと思われてたが、アリーチェ様が分類を進めたおかげで、今じゃ食べられる部位が知られてるんだ。」
パパの解説で納得した。初めて見たので、まさか食べるものという想像がつかなかったのだ。
(さすが転生者。でもヴェルダじゃ魔物の肉なんて見たことないな?)
「魔物のお肉って普通なんですか?」
とアミーカが尋ねると、パパは首を振った。
「王都周辺は魔物が多いからな。俺たちの街じゃまず見ない」
「どうして多いの?」
パパは少し迷ってから、声をひそめた。
「マナ・パイプラインは知ってるな? あれに魔力を注ぐ巨大魔石“マナ・マテリアル”が王都にある」
(あぁ、たしかに供給元がないとおかしい。今まで気にしたこともなかったな。)
「これは噂だがな、強い魔力に惹かれて魔物が集まる。だから王都周りは魔物が多いって話だ。王都ではこの話を嫌う人もいるから、口にはしないようにな。」
「別に悪い話じゃないのに?」
「それはもうひとつの理由なんだが…また機会があれば教えてやろう。」
パパの珍しく難しい顔に、私は追及をやめた。
代わりに別の質問。
「ねえパパ、あのお店の魔物の爪や皮って何に使うの?」
「錬金術だ。うちでも使うぞ。ただ加工後のしか見たことないだろ」
私とアミーカが爪をつついていたら、店主のおじさんにギロッと睨まれた。
「ご、ごめんなさい…」
「ハハッ、触っちゃダメだぞ、2人とも。オヤジ、すまん。詫びに氷狼の爪を7つくれ」
「……家族想いなんだな。」
「ただの酒好きだよ。」
そのひと言で店主の態度がやわらぐ。
???
家族想い?何のことだろ。
「その爪どうするの?」
「ちょっと使いたいことがあるんだ。」
あっさりとはぐらかされた。
(むぅ、気になるじゃんか。)
しつこく聞いてもパパは笑うだけで教えてくれず、仕方なく私たちは歩き続けた。
やがて錬金術ギルド本部へ着いた。
「ここは技術指導や素材販売をしてくれる場所だ。各街に支部があって、ヴェルダにもある。料理も同じような「調理師ギルド」があるぞ。」
パパが向かい側を指さす。
「あっちは冒険者ギルド。魔物討伐や薬草採取をする冒険者たちが集まる。俺は錬金術師ギルド所属だったが、あっちで働いてることが多かったな。」
(ここがパパが働いていた場所なんだ。)
そう思っていると、ギルドから強面でガタイのいい冒険者が出てきた。
革鎧、両手剣、大きな荷物。
その人はパパの指差しを自分に向けられたと勘違いしたのか、一瞬ムッとしたが、すぐに驚いた表情になる。
「お前、ルキウスか!? なんでここに!」
冒険者はパパに駆け寄ると、バンッバンッ、と勢いよく肩を叩く。
パパが痛そうに顔をゆがめた。
「いてぇよ、グレッダ! 相変わらず乱暴だな。」
軽口を交わしたあと、私たちは自己紹介。
「はじめまして。」
するとグレッダさんは目を見開いた。
「はぁ、あの“我道”ルキウスに、こんな大きな娘さんがねぇ」
「は、なんだそれ? そんな異名知らねぇぞ。」
「仲間内じゃ有名だったぞ。長老にも先輩にも媚びず、派閥は全部スルー、邪魔するやつは黙らせる。我が道を貫く“我道”ルキウス、ここにあり!ってな。」
「どこの三文芝居だ!!」
パパが珍しく本気で怒った。
(たしかにダサい……)
アミーカと目を合わせ、必死に笑いをこらえる。
パパは私たちの肩を抱き、真剣な顔で言い放った。
「ふたりとも、今すぐ忘れろ。ママにも言うな」
私たちは激しく頷いた。
よほど嫌なのだろう。でも私は後でママに言うけど。
パパがグレッダさんに向き直った瞬間、アミーカと視線を交わす。
(舐めないでほしい。ヴェルダ初等学校のつむじ風コンビを)
街に戻ったら「月のしずく」で大声で叫んでやる。
翌日には街中に広まるに決まっている。
だが広める名前がもうひとつあろうとは、私もアミーカもこの時はさすがに予想が付かなかった。
はい、正解はリオでしたー。
風の魔法まとって突進とか、それもうなんて武器かと。
そしてグレッダさん登場。昔冒険者ギルド専属で働いてた頃からの飲み仲間です。
しかもこのグレッダさん、もう一つ秘密が。
それは2話先ということで!
またお会いしましょう〜♪




