第31話 王都到着。ママが昔に戻れる場所へ
アミーカとの王都旅行が決まったセレナ。
今回はついに馬車で出発!
窓の外の景色や、家族の意外な一面も楽しみながら、一緒に王都まで旅しましょう。
年末が近づくにつれて寒さが増すのに、胸の奥だけは妙に熱かった。
今日から王都へ向かう。家族と、アミーカと、リオも一緒に。
早朝の馬車乗り場は吐く息が白いほど冷えているのに、澄んだ空気が気持ちいい。
アミーカの両親と、ママとパパがお互いに丁寧すぎるくらい頭を下げ合っていて、その真面目すぎるやり取りに私とアミーカはクスクス笑った。
(出発前からこんな楽しいってどういうこと。王都着いたら爆発しちゃうかも?)
馬車に乗り込むと、バルドさんとフローラさんが大きく手を振ってくれる。馬車が動き出し、二人の姿が少しずつ小さくなっていく。
私たちは見えなくなるまで手を振り続けた。
(さあ、いよいよだ)
胸の熱がじんわり広がって、私は窓の外を、光る雪面でも見るみたいにぼんやり見つめていた。
「ねえセレナ見て。あれ、『行ってらっしゃい お気をつけて』って書いてる!」
アミーカの指差す先には、旅立つ人へ向けられた大きなメッセージ。
パパがにやりと笑う。
「あれは出る人用だ。入る時は『ようこそ』になるんだ。王都はもっと洒落てるぞ。」
「楽しみね。」
ママの声が少し弾んでいて、胸の奥がまたあったかくなる。
三日目。
馬車の窓いっぱいに、冬なのに花が咲き乱れる草原が広がっていて息をのむ。赤、黄色、紫の嵐。
「うわあ、めちゃくちゃ綺麗。」
「こんなのヴェルダじゃ絶対見られないよね。」
私もアミーカも完全にはしゃぎモード。
パパは得意げに鼻を鳴らす。
「この辺りはウルヴィスって温泉で有名な都市の影響で、地熱が暖かいんだ。冬でも花が咲いてる」
説明はちゃんと聞いてるけど、
(いや追いつかない。綺麗すぎて頭が処理を諦めてるんだけど)
って感じだった。
そんなふうに景色に圧倒されて、アミーカとどうでもいいことで笑い合っているうちに五日目の昼が来た。
視界の端に、空へ突き刺さるような巨大な外壁が姿を見せた。
「お、そろそろ到着だな。」
パパが低く呟く。
「二人とも、荷物まとめて。」
ママの声と同時に馬車が止まった。
「着いた?」
「いや、まず荷物チェックだ。この街には王様がおられるからな。厳しいぞ」
窓の外では、門番さんたちが馬車一台一台を丁寧に確認している。
(これが、“国の中心”)
自然と背筋が伸びた。
そこへ別の門番さんが声をかけてくる。
「シルフドッグですね。王都では魔物扱いとなりますので、首輪と紐の着用をお願いします。責任は自己負担で」
首輪と紐を渡される。
(王都って、細かいところまで徹底してるんだ。)
新鮮さと緊張が混ざった感覚がじわりと湧いた。
巨大な門がゆっくりと開く。
それはあの激動の九日間の始まりの扉でもあった。
「ふわあ、すごい!」
「見てセレナ、建物が全部でっかいよ。しかも石造りばっかり。ヴェルダと全然違うね!」
私とアミーカは入口からずっと圧倒されっぱなし。
パパは少し誇らしげに言う。
「これが王都だ。パパとママが若い頃に住んでた街だ」
(あれ、パパって王都嫌いなんじゃないのかな?)
疑問が出る前に、ママが淡々と補足する。
「パパは人が嫌いなくらいで、街ごと嫌うほど狭くないわよ。」
「まあ、それに好きなやつらだってまだまだいるしな。」
ちょっと照れたように続けるパパ。
そんな空気に私がふわっとしていると、ママが急に手を叩く。
「はいはい、まずは師匠のところへ挨拶! 下宿も確認するわよ。」
迷いゼロで歩き出すママの後を私たちは急いで追いかけた。
歩いて五分。
『ベーネ工房』の裏口へ。
ママはノックもせず扉をガチャッと開けた。
「久しぶりー! 師匠いるー?」
(ちょ、ママ。ノックは?)
「マリー、久しぶりじゃない!」
「あ、クラリス久しぶりー!」
同年代くらいの女性が普通に返してきた。
(え、王都ってノックなしが当たり前なの?)
続いて奥から年配の女性が姿を見せ、ママを見てクスッと笑う。
「マリーは娘ができても相変わらず子どもみたいね」
ママは満面の笑みで飛びついた。
「師匠、本当に久しぶりです!」
(待って、これ誰。私の知ってるママどこ行った)
アミーカと私は固まって、パパだけが肩を震わせて笑っていた。
「初めて見るママだろ?」
全力で頷いた。
奥へ案内されてソファに座ると、師匠さんが穏やかに微笑む。
「可愛いお嬢さんたちね。私はベーネ・ファブリシア。マリエッタの師匠よ」
「セレナ・シルヴァーノです。ママに魔導具を習ってます。」
「私はアミーカ・ルナリスです。セレナの親友で、今回は一緒に連れてきていただきました。」
(くぅ、アミーカの方が丁寧じゃん。)
何か負けたような感じで悔しさに浸っていると、クラリスさんがお菓子とお茶を並べてくれる。
見たことない甘いものばかりで、私もアミーカもテンションが上がった。
その瞬間、リオが匂いにつられて立ち上がる。
風の魔力がふっと揺れて器が動き、テーブルから落ちそうになる。
「「あっ!!」」
しかし器が落ちる寸前、ママがとっさに足を伸ばし、ギリギリで止めた。
「ふう。ギリギリセーフね。」
ママのホッとした言葉に対し、その様子を見ていたパパが、小声でぼそっと言う。
「マリー、見えてるぞ。」
(見えてるって……下着!?)
ママは器をテーブルに戻し、そろっと足を整えると、気まずそうに舌を出した。
ベーネさんは呆れ顔。
「相変わらず足癖悪いね。ここにいた頃もドアを蹴って閉めては壊してただろうに。」
王都に来てまだ少ししか経ってないのに、完璧ママ像がガラガラ崩れていく。
「なんかマリエッタさん、いつもと違ってすごく楽しそうだね。」
アミーカの声に、ふっと気づかされる。
(あ、そっか。ここはママの“元の場所”なんだ。だから子どもっぽく見えるんだ)
そう思うと、いつものママがほんの少し近く感じて、胸の奥があったかくなった。
ママが昔の姿に戻ってセレナたちもびっくり。
次回はパパに連れられ王都観光が始まります。
花畑シーンは、見たら私もセレナ達みたいに絶対はしゃぐだろうな…なんて妄想しながら書きました。
今回もお読みいただきありがとうございました。




