第29話 ロックボア襲来とリオの秘められた力
突然のリオの鋭い鳴き声。
それは何の前兆なのか...
リオは前脚を踏みしめ、風の魔力をまとった。
耳が後ろへ倒れ、全身の毛が逆立つ。
その姿に、ロックボアが「敵」として認めたように鼻息を荒くする。
「リオ、無茶しないで。」
声は震えていたけれど、背中に伝わる気配は揺れていなかった。
ロックボアが地面を大きく削りながら突進してくる。
その一歩ごとに振動が走り、森の空気が重く沈む。
「避けて!」
叫んだ瞬間、リオの体がふっと軽くなった。
彼は風に押し上げられるように跳び、獣の角をかすめる距離で身を翻す。
「すご!」
アミーカが息を呑む。
私も喉が詰まって声が出なかった。
でもロックボアは止まらない。
木々をなぎ倒しながら、再びこちらに向き直る。
私は咄嗟に火の魔力を手にかざし、熱ではなく明るさだけが上がるよう念じてロックボアの顔へ散った。
視界を奪うほどではないけれど、一瞬だけ動きが鈍る。
その隙にリオが駆け出す。
小さな体が風に乗り、一本の白い線のように走る。
すれ違いざま、ロックボアの脚に風の刃が生まれた。
バシュッ
鈍い肉の音がして、ロックボアが体勢を崩す。
「リオ!」
私が呼ぶと、振り返ったその瞳ははっきりと意思を宿していた。
守るために戦う、そんな強い光。
ロックボアは痛みに咆哮したが、もうさっきまでの勢いはない。
脚を引きずり、森の奥へ退いていく。
完全に消えるまで、私たちは一歩も動けなかった。
静寂が戻った瞬間、膝ががくりと落ちた。
「怖かった…でも、リオ、ありがとう」
涙がこぼれるより早く、リオが私の手に鼻を寄せた。
その温かさに、さっきまでの恐怖がほどけていく。
「ほら、薬草。ちゃんと採れたよ。」
葉の香りがかすかに漂う。
このひとつで、あの行商人さんの困りごとはきっと救える。
座り込んだまま夜空を見上げると、枝の向こうに星がひとつ光っていた。
「帰ろうか。」
声に出した瞬間、胸の奥の緊張がほどける。
リオが静かに寄り添い、アミーカがほっと息を漏らした。
「二人とも、本当にお疲れさま。早く届けないとね、薬草」
森を抜ける頃には、街道に柔らかい灯りが差していた。
私たちはその光をたどりながら歩く。
街へ戻ると、行商人のおじさんがまだ店を片付けている最中だった。
「なんだと、君たちだけで森に出かけたのか。なんて危険なことを。」
薬草を差し出すと、おじさんはそう驚きながらも、目を潤ませて両手で包んだ。
その手が震えているのを見て、胸の奥が熱くなる。
「だが助かったよ。これがなければ、あの依頼は果たせなかった。ありがとう。」
「よかった、間に合って。」
不意に肩の力が抜けて、安堵で笑みがこぼれた。
アミーカも手を合わせ、リオは尻尾をひと振りする。
おじさんは深く頭を下げた後、そっと小袋を差し出した。
「これは報酬だ。君たちのおかげで救われたよ。」
袋は思っていたより重かった。
金額よりも、その気持ちが心に重く響く。
「また何か困ったことがあったら言ってください。わたしたち、まだまだですけど、できることなら。」
そう言うと、おじさんは穏やかに笑った。
「その言葉だけで十分だ。ありがとう。」
リオが小さく鳴き、アミーカと私が顔を見合わせて笑う。
こうして、この事件は終わった。
怖い場面もあったけれど、三人で乗り越えたからこそ今の達成感がある。
街の灯りが揺れ、夜風がそっと頬をなでる。
「さあ、帰ろう。今日のこと、忘れられない一日になったね」
そうつぶやくと、リオが寄り添い、アミーカがうんとうなずく。
その温かさに包まれながら、私たちは家路についた。
次回から「王都旅行編」が始まります。
王都ならではの新キャラや、マリエッタ、ルキウスの過去、セレナとアミーカの試練と成長など、色々詰め込んであります。
次回もぜひお楽しみください。




