第28話 償いの薬草探索 ― 行商人のために走る少女たち
「つむじ風コンビ」についてはマチルダ先生と2人の秘密となり、いつも通りお休みに遊ぶ仲良しコンビ。
今日はリオも一緒です。
朝のヴェルダは澄んだ空気が気持ちよかった。
今回はそんな日に起きた驚きの事件の話。
今日は学校が休みで、私はアミーカとリオの三人で、街外れの広場を思い切り走り回っていた。
「リオ速すぎ! 私、全然追いつけないんだけど!」
アミーカが笑いながら息を切らす。
リオはシルフドッグ特有の風の魔力で脚を軽く強化し、私たちの周りを輪を描くように駆け抜けていった。
「ほんと成長したよね。前はすぐ疲れて座り込んでたのに」
そう言って笑った矢先だった。
前を見ていなかった私たちは、街の入口で停車していた行商人の馬車に思いっきりぶつかった。
「きゃっ!」
ガタン、と馬車が傾き、荷台からガラス瓶がひとつ転げ落ちる。
「ダメっ、それ落ちる!」
願いもむなしく、瓶は石畳に落ちて、
「ガシャーン!」
鋭い音を立てて砕け散った。
中からは、淡い香りを放つ薬草がオイルに浸された状態で染み出していく。
「ご、ごめんなさい!」
私とアミーカは顔を真っ青にして謝った。
馬車から降りてきた行商人の青年は、壊れた瓶を見るなり目を大きく見開いた。
「これはまずい。急ぎで必要な方がいるんだが。」
落胆というより、焦燥の色が強い。
仕事上のミスというより、誰かのために本気で困っている顔だった。
「い、いくらですか? 弁償できます。」
「いや、金の問題じゃない。これは滅多に採れない薬草なんだ。」
彼は無理に笑ったけれど、その奥にある焦りは隠しきれていなかった。
「片付け、手伝わせてください。せめてそれくらいは。」
私がそう言うと、青年は驚いたように私を見つめ、静かに頷いた。
「ありがとう。気持ちだけでも救われるよ。」
片付けをしながら、私は薬草の断片を慎重に観察した。
葉の縁の形。表と裏の質感。香りの残り方。
(この薬草、知ってる……パパの本で見たのと同じだ)
胸の奥がざわついた。
行商人さんは明日王都へ立つらしい。
この薬草がないと困る理由は話してくれなかったけれど、事情の重さは十分伝わった。
「アミーカ、これ、探しに行かないと」
視線を交わしただけで、彼女は頷いた。
リオに薬草の残り香を嗅がせると、彼は少し戸惑ったように鼻を震わせて、
「ワンッ!」
力強く吠えた。
あの森の奥に、まだ同じ薬草があることを知っているかのように。
「行こう、リオ。お願い、力を貸して」
三人で走り出し、森へ足を踏み入れた。
昼間なのに薄暗く、冷たい空気が肌にまとわりつく。
落ち葉の上を踏むたびに、森の音が不自然に小さく感じられた。
「リオ、すごい。私、こんなに深くは来たことないよ。」
リオは低く唸りながらも進み続ける。
私は怖かったけれど、薬草の葉の感触を何度も思い出し、胸の奥の熱に変えていった。
(逃げたくない。助けたい。)
その時、リオがぴたりと立ち止まった。
一本の草を鼻先で示す。
「……これ、だよね?」
「うん、間違いないよ。」
喜びの声を上げた、その瞬間だった。
「……グルルルルッ!」
リオが今まで聞いたことのない低い声を出した。
茂みが揺れ、巨大な影が姿を現す。
硬い毛並み。鋭い牙。岩のような巨体。
「ロックボア…!」
私は震える声で言う。
最近ママに「魔物図鑑」で見せてもらったばかりだ。
鼻息が地面を震わせ、獣の目がこちらを射抜く。
前足を掻く音が、突進の予兆。
怖くて、逃げたくて、涙が滲んで、でも—
私は薬草を握る手だけは絶対に離さなかった。
(こんなところで終わりたくない。まだやりたいことがある…!)
「アオォォォーン!!」
森を裂くようなリオの咆哮が響き渡った。
風が一瞬、渦を巻く。
ロックボアの巨体がわずかに怯んだように見えた。
私とアミーカは息を呑んで、リオの背中を見つめた。
そこに立っていたのは、ただの小さなシルフドッグではなかった。
この物語初の敵意を持つ魔物の登場です。
セレナとアミーカどころか、こんなの大人でもどうしようもありません。
それに対するリオの鳴き声は何を意味するのでしょうか?
次回、乞うご期待!




