第23話 胸の奥に眠る、不思議な力
お買い物から薬剤指導まで頑張ったセレナは美味しいパスタを食べてつい寝ちゃいました。今日はいよいよ付与本番です!
さぁ、いよいよ本番だ!
私は何度かお試しの布で付与を練習した後、買ってきた『サラマンダーコットン』の布を広げ、さっき作ったばかりの薬剤を、布に均一に塗り広げていく。
そして深呼吸。ここに火の魔力を込めるんだ。
(布全体に、ムラなく、均一に…)
「ゆっくりでいいわ。焦らず、慎重に。布全体に、魔力が染み込んでいくのをイメージするのよ。」
ママが私の両肩に手を置き、落ち着いた声でアドバイスをくれる。
私は目を閉じて、自分の火属性の魔力をそーっと布に流し込んでいく。
広い面積に均一になるよう、ゆっくり、ゆっくりと。
イメージとしては布の中央から水を注ぎ、それが波紋状にゆっくり、全体へと広がるイメージ。
(あっ、ちょっと右側に多く流れちゃってるかも!?)
慌てて修正しようとすると今度は左側が多くなる。
「むむむ…!」
やっぱり難しい! でもこんなことで負けてられない。
—
「……いいなぁ」
いつも太陽みたいに明るいアミーカのもらした心から寂しそうな一言。
あれを救えずして何が大親友だ!
初等学校入学式、初めて声をかけてくれて友達になってくれたのはアミーカだ。
イタズラばかりのアミーカだが、本当は誰よりも人を気にかけ、優しい性格なのを私は知ってる。
アミーカのイタズラはみんなに学校生活を笑って過ごして欲しいっていう、ちょっとひねくれた優しさ。
私は一緒に過ごす中でそれに気付いてしまった。
そんな優しいアミーカに、寂しい思いなんてして欲しくない。
いつでも私の隣でバカみたいに明るく笑っていてもらいたいんだ!!
—
そんな風に余計なことを考えてたのが良かったのかもしれない。
私は魔力をコントロールするのも忘れて、ただただアミーカのことを想って魔力を流していた。
その時!
布全体が淡いオレンジ色の光をパッと放ち、すぐに元の状態に戻った。
私がそれ以上魔力を入れようとしても弾かれてしまい、これ以上入れられない。
「もしかして、できた?」
「どれどれ?」
ママが布を手に取り、隅々まで目をこらす。
「よし、セレナ合格!よく最後まで制御しきったわね。」
「やったー!!!」
私は思わず飛び上がって喜んだ。
リオが足元にいたので、抱き上げて高くあげる。尻尾をぶんぶんと大きく振り、「ワンッ、ワンッ!」と鳴く。
初めての薬剤作りと、初めての広い面積への付与。どっちもすごく大変だったけど、ちゃんと成功させられた!
この調子なら、前掛けエプロンの撥水付与も、帽子の組み込みも、きっと上手くいくはず!
私は完成したコックコートの布をぎゅっと抱きしめて、アミーカの誕生日への期待に胸を膨らませるのだった。
—
そして次の日。
コックコート用の布への耐火付与が成功して、私はすっかり自信をつけていた。
「このいきおいで、前かけエプロンの付与もやっちゃおう!」
次は、買ってきた黄色いギンガムチェックの布に、水をはじく「撥水」の付与だ。
昨日作った薬剤を手元に用意し、耐火付与の時と同じように、まずは薬剤を丁寧に塗り広げる。
そして今度は水の魔石を使って、魔力を込めていく。
火の魔力とはまた違う、ひんやりとした感覚。布全体に、均一に、均一に…。
昨日のアミーカへの想いをもう一度思い出しながら、集中する。
…よし!
今度は昨日よりもスムーズに、布全体が淡い水色の光を放ち、付与が完了した!
「やった! ママ、これもできたよ!」
「すごいわセレナ! もう付与はマスターしたも同然ね!」
「セレナは本当にすごいな!パパに教えてほしいくらいの上達度だぞ!!」
ママもパパも、手放しで褒めてくれる。えへへ、やっぱり褒められると嬉しいな。
「でも初めてにしては順調すぎね。付与のバランスも申し分ないし。なんでこんなに上手く出来てるのかしら?」
ママはそこが気になるようだ。
こういうママを見ると、錬金術師って研究者でもあるんだなぁとしみじみ感じる。
まあ隠すことは何もないし、私は正直に付与の時のことを余さず伝える。
「制御は正直全然定まらなかったの。でもアミーカのあんな顔見たくない、アミーカには笑ってて欲しいっ!って強く思って、気が付いたら出来てたの」
ママは「あー、なるほど」と呟いた。
「これは錬金術師の中でも作り話レベルのウワサなんだけど、作る相手のことを深く想って付与をすると実力以上の力が出ることがあるらしいの。」
「それ俺も聞いたことあるな」
パパも同意してくる。
「何人も試したんだけど、失敗例ばかりでほとんど成功しなかったから、たまたまだろうっていうのが今では定説なんだけど、セレナの様子を見てたら意外と本当なのかもね。」
へー、そんな話があるんだ。
火事場の馬鹿力みたいなやつかな?ちょっと違うか。
でももし本当にそうだとしたら、私のアミーカへの友情を認めてもらえたみたいでちょっと嬉しいな。
—
さあ残るは、帽子だ!
私が考えた設計図――麦わら帽子みたいな素材をベースにして、てっぺんに風を起こす魔導具を仕込むやつ―をママに見せると、
「まあ、面白いことを考えるわねぇ!」
と感心してくれた。
「風を起こす魔導具はもう作ってあるわ。あとはセレナは、この帽子の加工と部品を組み込むのを頑張ってちょうだい」
「うん!」
帽子の加工は、思ったよりも大変だった。
硬いシート状の素材を細く切って、頭の形に合わせて立体的に縫い合わせていく。
あー、前世で近所の子供用に麦わら帽子を作るっていう町内会の企画参加させられた時は心底嫌だったけど、まさか、まさか転生先で役に立つとはねー。
人生何がどう転ぶかわからないもんだ。
幸い前に帽子の交換をしたことがあるので分かるが、アミーカの頭は私とほとんどサイズは変わらない。
私のほうが気持ち少し大きいくらいだったので、縁に厚めの布でカバーすることを考えたら、ベースの帽子部分を私のジャストサイズにしたら、最終的にアミーカにとってのジャストサイズになるはずだ。
ん?誰!?そこで私の頭でかいとか呟いたヤツ?許さないからねっ!!
—
指ぬきしてるのに、指に針を刺しちゃったり、形が歪んじゃったりしながらも、なんとか帽子の形が出来上がった。少し高さを出して、てっぺんを設計通りに窪ませる。
よし、いい感じ!
ママが作ってくれた風の魔導具は、事前に教えてくれた通り、モバイルバッテリーみたいな形をしていた。裏には小さなスイッチと、風の強さを3段階くらいで調節できる小さなダイヤルが付いている。
「これを、帽子のてっぺんの窪みに固定するのよ。ちゃんと綿を詰めて横ズレしにくいように、落としても大丈夫なように、しっかり保護してあげるのを忘れないでね」
「うん!」
私は窪みに魔導具を置き、その周りと上に綿をたっぷり敷き詰める。
その上にスイッチだけ出せるよう穴を開けた厚紙で蓋をする。
最後に、全体を白い布で覆って、コックさんらしい帽子の形に整える。スイッチとダイヤルがある部分だけは、ちょっと不格好だけど、布に小さな穴を開けて、指で操作できるようにしておく。
これでどうかな?
私は試しに被ってみると、魔導具のせいでちょっと帽子は重めだけど、まあ重すぎて辛いってほどでもないし、あまり高さも出してないので、バランスが悪くて頭が振られるということもない。
一応及第点ってことでいいかな。
最後に買っておいた黄色い小さなリボンを帽子の横に付ける。
エプロンの色に合わせた差し色が入るから、少しは帽子も可愛らしく見える…といいな。
「……できた!」
ついに、アミーカへのプレゼント、
「小さなコックさんセット」一式
が完成した!
明後日がアミーカの誕生日。
(間に合って良かったぁ。)
白いコックコート(耐火付与)、黄色いギンガムチェックの前掛け(撥水付与)、そして、てっぺんから涼しい風が出る特製のコック帽!
薬剤や付与、帽子づくりと難関だらけだったけど、ちゃんと形に出来た。
あぁ、早くアミーカに見せたいな!
今回の付与ですが、アミーカのために!という強い思いがあったので成功出来てます。後日試してみてもこの時のような感覚になれず、結果セレナもたまたまと結論付けました。




