第21話 錬金術師デビュー?小さなコックさんセット製作
アミーカの寂しそうな呟きに、誕生日プレゼントを何か作ってあげたいと考えたセレナ。
さて、何を作るんでしょうか?
アミーカへの最高の誕生日プレゼントを作る!
そう決めたはいいけど、具体的に何を作ろうかな?
アミーカは食堂の娘さんで、もうお店の手伝いもしてる。
だから、やっぱり料理に関係するものがいいよね。
昨日ママが付与してたみたいなエプロンもいいけど、せっかくだから、もっと特別感のあるものがいいな。うーん…
—
…そうだ! 前世で姪っ子にあげたコックさんセット。
確か上はコックコートみたいな雰囲気で、下は前から見たらスカートみたいにも見える可愛い柄の前掛け、最後に浅い帽子のセットで、あれメッチャ喜んでたっけ。
アミーカは11歳で実際お店で使うやつだから、デザインはあれをベースに、もう少し実用的な感じに寄せたやつ作ろう。
あれなら特別感あって、アミーカも喜んでくれるに違いない!
「うん、それにしよう!」
私は一人でうんうんと頷く。
問題は、付与だ。今の私にできるのは、1つの素材に1つの効果だけ。コックコート、前掛け、帽子、それぞれ1つずつなら、なんとかなるかも?
「ねぇママ、アミーカのプレゼントなんだけど…」
私は早速ママに相談してみた。
「コックさんみたいな服を作ってあげたいんだ。それでね、服とエプロンに付与をしたいんだけど、私でもできるかな?」
「まあ、素敵なアイデアね! 耐火と撥水ね。うん、セレナならもう練習すればできる範囲だと思うわ。ただ…」
ママは少しだけ考え込む。
「付与系魔導具を作るにはね、普通『薬剤』を使うのが一番確実なのよ。こういう魔力を素材に定着させやすくする、特別な液体ね。」
ママは手近にあった瓶を取り上げ私に見せた。
「セレナはまだ使ったことないでしょう?」
「えーと…うん、ない」
「そうよね。それなら、ついでに作り方と使い方をパパに教えてもらいなさい。薬剤の扱いは、パパの専門分野だもの」
そういえばだいぶ前にパパに今度薬剤の作り方教えてもらうって約束してたなぁ。
私がすっかり忘れてたんだけど。
数年越しの約束なのでちょっと申し訳ないなぁと思いつつ、ここは心を決めてパパにお願いすることにした。
「それで、帽子はどうするの? 何か付与する?」
「帽子はね、これから夏になるでしょ? 厨房ってすごく暑いってアミーカが言ってたから、帽子から風が出て、涼しくなるようにしてあげたいんだ!」
我ながら、良いアイデアじゃない!?
「まあ、涼しくなる帽子! それはアミーカちゃん、喜ぶわねぇ」
ママも感心してくれたみたいだ。
「でもね、セレナ。風を出すには、それほど大きな魔力でなくていいんだけど、自分で魔力を出さないといけないから、人よっては負担になっちゃうわ。」
(えぇー!そんな仕組みなんだ?)
考えてみたら私が初めて『水の魔石』から水を出したみたいな感じかな。
風の魔力を付与した帽子が魔石がわりになって、魔力を込めれば風が出るとか?
「あと風量もその人の魔力の精度次第になるわね。アミーカちゃん、そんな訓練してるとは思えないから、ちょっと危ないわ。」
心配そうな顔をしてママは続ける。
「あとこれが重要なんだけど、使い続けるといつかは魔力が切れる。そうするとその素材はそれでおしまい。また新しい素材で作り直さないといけないの。」
「ママ、付与って意味あるの、それ?」
デメリットだらけで付与の意味がよく分からなくなってきた。
「だから付与は基本的には魔力を放出するものじゃなくて「耐火」みたいに属性の効果を与えるものなのよ。与えたままなら魔力は大きく使うこともなく長持ちするわ。」
なるほど〜。
付与系学ばな過ぎたなぁ。知らないことだらけだった。
「魔力を出すなら『回路系』の方が得意なの。こっちなら風のオン、オフも風量調節も、本人の魔力関係なしに、製作者の意図通りに動いてくれるわ。魔力が切れたら魔石を交換すれはそれで済むし。」
おお、それそれ。さすがママ!
「その風を起こす魔導具は、セレナにはまだ難しいからママが作ってあげる。」
そう言ってママは風の魔石を掴み取る。
「セレナは、それをどうやって帽子の中に上手に隠して、使いやすく組み込むか、考えてごらんなさい。そこがセレナの腕の見せ所よ?」
ママがいたずらっぽく笑う。うん、それなら私にもできそう!
よーし、俄然やる気が出てきた!
—
涼しくなる帽子…風が出る帽子…。どうやって組み込もうかな?
そこまで考えて思い出す。
「あ、ママ!風の魔導具ってどういう形でどのくらいの重さ?」
危ない、危ない、これ聞いとかないと帽子の設計なんて出来るわけないじゃん。
「あー、そうね。だいたいこれくらいの形で…これくらいの重さかな?」
ママが例に上げてくれたものはいわゆる前世のモバイルバッテリーくらいのもの。
すごいな、こんなサイズで作れちゃうんだ。
「すごいね、こんなに小さく出来るんだ」
「用途や相手によってサイズ変わるわよ?今回は子供の頭の上の狭い空間を冷やすだけだから小さくて済んでるの。」
(はー、なるほど。涼むために風を体に当てる扇風機と、部屋をまるごと冷やすクーラーの違いみたいなもんか。)
—
さて、続き、続き。
普通コックさんの帽子って、あの細長いやつだよね。でも、あれにどうやって風の魔導具を隠すんだろう? スイッチとかも押しにくそうだし…。
うーん…あ! そうだ!
こっちの世界でも見かける夏の風物詩、麦わら帽子!
あの帽子って、編み目が粗いから風通しがいいし、形もしっかりしてる。
あれベースに作ればいいんだ。
帽子のつばを切り取って、少し帽子の高さを高くしてあげる。
てっぺんを少しだけ窪ませた形にして、そこにママが作ってくれる風の魔導具を仕込む。
そうしたらスイッチだけは触れるように上に蓋をしちゃう。
これなら見た目もスッキリするし、使いやすいはず!
最後にコックさんの帽子みたいに全体を白い布で覆えば雰囲気は出るし、この布が魔導具の抑えにもなって、帽子を落としたくらいじゃ中身が飛び出すこともないはずだ。
……落とす?
えーと、えーと、ママに確認だけど魔導具の周りに棉を敷き詰めて上げれば緩衝材的な役割を果たすから、落としても少し安心!
(よし、これならいけるはず。)
「ふふふ…」
完璧な設計に、思わず笑みがこぼれる。
「じゃあママ、次の休みに、コックコートに使えそうな布と、可愛い柄の前掛けと、帽子の材料、一緒に買いに行ってもらえる?」
「ええ、もちろんよ。素敵なプレゼント、一緒に作りましょうね」
ママも私の計画に賛成してくれたみたいだ。
…となるとあとはパパの「薬剤」指導かぁ…。
私が少しだけ遠い目をしていると、いつの間にか工房から出てきて話を聞いていたらしいパパが、目をキラッキラさせながら私の肩を掴んだ。
「セレナ! ついにパパの出番だな! よーし、最高の薬剤の作り方、パパが手取り足取り教えてやるからなーっ!!」
「う、うん…よろしくおねがいします…」
約束を伸ばし伸ばしにしてたことは全く忘れているのか、最高の笑顔だ。
まあそれならそれで。
アミーカのためでもあるし、頑張ろう!
こうして、アミーカへの誕生日プレゼント計画は、両親の協力を得て、本格的に始動したのだった。
コックさんの存在は知られてますが、庶民からするとコックさんのいるお店は、かなり敷居の高いお店で、年に一回行けたらいいね。レベルで、お店も大きな街にしかありません。




