第19話 教師たちの苦闘 つむじ風は読めない!
春の交流パーティーを目一杯楽しんだセレナとアミーカ。今日はその2人を捕まえようと苦労した先生達の苦労です。
時は少し戻り、春の交流パーティー前夜。
教師バルガスの苦い記憶…
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俺たち「つむじ風対策委員会」のメンバーは、
行きつけの食堂『月のしずく』で、軽い食事がてら明日の最終確認を行っていた。
「いいか、諸君。今日何も起こらなかったということは、『つむじ風』は明日何かしらの行動を起こす可能性が高い。」
ゴードン先生はそういうと手元のジョッキを握る。
「これ以上学校の風紀を乱させないためにも、明日は全力でパーティーを守るぞ!」
そう言ってジョッキを掲げて残った果実水を空けた。
委員長であるゴードン先生が、熱のこもった声で檄を飛ばしたが、
「しかしゴードン先生、パーティー会場で騒ぎを起こすのは…」
マチルダ先生がそう言って心配そうに眉を下げる。
彼女は例の二人の担任であり、一番心を痛めているのだろう。
「分かっている。だからこそ周到な計画が必要なのだ。奴らは皆が楽しんでいるパーティーを狙うだろう。」
「ですが衆人環視の中、大々的なことは仕掛けてこないのでは?」
「その通りだ、バルガス先生。狙うとすれば、会場の隅での小さなイタズラ…例えば、料理に何か仕込むとか、飾り付けに細工をするとかだろう。」
ゴードン先生はそう言って、まるで戦場の指揮官のように、食堂のテーブルに見取り図を広げた。
「そこで、我々教師6名の配置だが…マチルダ先生、君はあえて通常通り生徒たちの輪に入り、内部から不審な動きがないか監視してくれ。」
「は、はい!」
「残りの5名は、会場の壁際に等間隔で配置。会場全体を囲むように布陣する。パーティーの雰囲気を壊さないよう、あくまで自然に、だ。」
ゴードン先生は、念を押すように私を含めた4人の教師を見渡す。
「しかし視線は常にアミ…あの二人に集中させる!」
さすがにこの場でつむじ風候補のアミーカの名前を呼ぶのはまずいと思ったのだろう。
というか、確定もしてないのでここどころか、そもそも名前を言ってはまずい。
「そして、もしイタズラの瞬間を確認したら、即座に右手を高く上げろ。それを合図に、近くの者が応援に駆けつけ、対象者を確保する。 いいな!」
「「「はいっ!」」」
…まあ、犯行予告でもあるまいし、学校のパーティーで我々ができることと言ったら、これくらいが精々だろう。
あとは、奴らがボロを出すのを待つだけだ。
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「先生方、いつもご利用ありがとうございます。明日のパーティー、うちのアミーカもとても楽しみにしていて。いいパーティーになるといいですね。」
アミーカの母親である女主人が、ニコニコしながらお茶を出してくれた。
とても楽しみ?それはどういう意味でだ??
こんな一言ですら悪く取ってしまう自分は初等学校教師には向いていないのかもしれない…
「ええ、尽力させていただきます。」
ゴードン先生が胸を叩く。
「明日はセレナちゃんと一緒に心ゆくまで楽しむって、本当に楽しみな顔で。皆さんにも良い思い出になることを願ってますわ。」
女将は満面の笑みを浮かべて厨房へ戻っていった。
セレナと一緒にだと!!
私達はお互いに顔を見合わせて頷くと、残り少しとなったパーティーの準備に学校へと戻った。
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そして当日。
パーティー会場は生徒たちの笑顔で溢れていた。…俺たち対策委員会の教師陣を除いては。
配置についた俺とゴードン先生は、壁際から鋭い視線を会場全体に走らせる。
(……いた!)
入り口付近で談笑しているセレナとアミーカを発見。よし、監視開始だ。
セレナが何やら1年生の男子グループと話している。まさか、怖がらせて何かを企んでいるのでは
だが男子たちは嬉しそうだ。
(…杞憂か。)
今度はセレナたちが上級生の女子グループに囲まれている。
何か指示を受けているのか?
それとも、上級生を巻き込んだ大規模なイタズラか!?
すると近くを通っていたマチルダ先生が彼女たちの横を通り過ぎ、胸の前で小さく×を作る。
(気のせいか…)
…と、今度はアミーカが3年生の男子生徒を呼び止めた。
なんだ? 男子生徒は顔を真っ赤にして何か否定している。セレナもアミーカも普段通りだ。
(何か仕掛けているのか?)
心配になりそちらへ飛び出そうとした瞬間、
「もー、セレナのバカー!」とアミーカの
叫び声が聞こえた。
どうやら単なる悪ふざけの会話だったらしい。
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その後も、俺たちの心労は続く。
会場の隅で一人でいた1年生にセレナが近づこうとした時は「ついにターゲット発見か!」と身構えたが、寸前で他の友達が現れて連れて行ってしまった。
(うん?…未遂か?)
そして、メインイベントのチョコレートファウンテン。
(これだ、きっとここに何か仕掛けてくるに違いない!)
(チョコの中に何か異物を混入させる気か?)
俺とゴードン先生は、他の教師たちとアイコンタクトを取りながら、最大限の警戒態勢で二人を見守る。
しかし二人は目をキラキラさせながら、普通にマシュマロや果物にチョコをつけて美味しそうに食べている。
(これでは年齢通りの単なる子どもだ。)
しかしそれだけではなかった。
下級生のために手伝ったり、同級生に場所を譲り、無法を働いた生徒を蹴り飛ばして大説教をしているではないか。
いや、さすがに最後はやりすぎなので出ていこうとしたが、ここはマチルダ先生が収めてくれた。
しかし、なんだこれは?
これではイタズラコンビどころか、最早模範生ではないか!
私は頭がクラクラしてきた。
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その後も何も起こらずパーティーは大盛況のうちに無事終了した。
生徒たちが幸せそうな顔で帰っていく中、俺とゴードン先生は、チョコレートファウンテンの機械を倉庫に片付け、その場で崩れ落ち、うつむいた。
俺が動こうとすると、一番近くにいたゴードン先生もすぐ連携しようと緊張していたので、
だいぶ気疲れしてしまったのだろう。
「…………」
「…………」
重い沈黙が流れる。
「…ゴードン先生」
俺は顔を上げずに呟いた。
「つむじ風候補、実は間違ってましたとか、そういう可能性はないですかね…?」
「…………」
ゴードン先生はしばらく黙っていたが、やがて力なく顔を上げた。
「…今日の様子を見ていると、そうとしか思えなくなってきますな……。私も、分からなくなってきました…」
そうして、二人で項垂れていると、外では他の教師たちも片付けを続けている。
「さあバルガス先生、片付けを続けましょうか…」
そう言うゴードン先生だが立ち上がらない。
俺も「そうですね」などと言いながらも腰が上がろうとしなかった。
なんだか全身から力が抜けてしまったようだ。
そんな俺たちの姿を、倉庫の入口から「?」という表情で見ている二つの影があった。
「先生たち、どうしたんだろうね?」
「うーん、パーティーの準備とかで疲れたんじゃない?」
そう言って、セレナ・シルヴァーノとアミーカ・ルナリスは、仲良く手をつないで帰っていった。
まさかまたここで…とはな。
(奴らではないのか?)
(それとも俺達の作戦を全て読み切って今日は演じただけなのか?)
俺とゴードン先生は、ただ顔を見合わせて、深い溜息をつくしかなかった。
バルガス先生、悪い先生ではないんですが、ちょっと思い込みが激しいところがあります。
でもこの件以外はとてもいい先生で、生徒からも人気あるんですよ?




