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植物まみれのおうち

しばらく投稿できず申し訳なかったです。

金土日で遅れを取り戻させていただきます。

目が覚めたのは、真夜中だった。

寝心地が良すぎたせいか、ぐっすり眠ったはずなのに、逆に数時間で目が冴えてしまったらしい。


苔のマットレスはふかふかで快適。

でも、静まり返った夜に一度起きちゃうと、もう寝直すのは難しい。


(……仕方ない。起きちゃったなら、ちょっと実験でもしてみるか)


外に出ると、月明かりが昨日作ったばかりの蔦のドームを淡く照らしていた。

昼間は「守りの砦」って感じだったけど、夜に眺めると、なんだか生命力に満ちたお城みたいだ。悪くない。


腕に絡んでいたヨツバを軽く撫でる。ツルが小さく揺れて「起きたの?」とでも言いたげだ。


「……ちょっと実験。付き合ってね」


私は地面の雑草に手をかざし、スキルを展開する。


生活魔法〈植物〉――成長促進。


すると芽がにょきにょきと伸び、数秒で腰の高さにまで育った。


(おぉ……本当に一瞬でこんなに? 雑草でもこの威力なら、応用は無限大だな)


さらに家の壁になっている蔦にも魔力を流し込んでみる。

ヨツバの『創生建築』と私の『生活魔法』。二つを合わせると、成長速度も太さも目に見えて違う。壁全体が魔力に押されるように、ぐんと厚みを増していく。


(……なるほど。強度も上がる。補強や家具の素材作りに使えるな、これは便利)


結果を頭の中にメモするみたいに整理しつつ、私はいくつかのパターンを試した。

ただ伸ばすだけ、編むように重ねる、束ねて柱にする……。


夢中になっていたその時、頭の中にアナウンスが響いた。


【生活魔法〈植物〉の熟練度が一定に達しました。スキルレベルがLv.2になりました】


「あ、上がった」


小さく呟いて、すぐに詳細を確認する。


【生活魔法〈植物〉 Lv.2】

【効果:植物の成長促進に加え、形状操作が可能になる】


(形状操作……? 要は、伸ばすだけじゃなく、形まで整えられるってことかな)


試しに足元の草に「椅子っぽく」と念じる。

すると茎がねじれて絡み合い、丸い座面を持ったスツールが出来上がった。


触ってみると、強度はそこそこ。

ちょっとチクチクはするし、全体重をかけたら潰れそうだけど、見た目はちゃんと椅子だ。


(……すご。レベルアップするだけで、ここまで変わるのか)



私はその場に腰を下ろし、静かな復興地区の夜空をしばらく見上げていた。



しばらく夜空を眺めていたけど、新しいスキルのことが頭から離れず、じっとなんてしていられなかった。

私は再び拠点の中へ戻る。


(よし……まずは、この暗さをどうにかしよう)


夜に本を読むにせよ作業するにせよ、光源は必須だ。

私はアイテムボックスから、ホームセンターで手に入れてそのまま放置していたオイルランタンを取り出す。……でも置き場がない。


(なら、作っちゃえばいい)


壁際の一角に意識を集中させる。

さっき手に入れたばかりの「形状操作」をイメージする。


「――壁から、ランタン用のフックを生やして」


私の命令に応え、蔦がするすると伸び、先端がくるりと曲がって、美しいフックの形を作る。


「おお……!」


思わず声が漏れる。

さっそくランタンを吊るして火を灯すと、温かなオレンジ色の光が壁に反射して、部屋全体をやさしく包み込んだ。


(……うん、雰囲気あるじゃん。俄然やる気出てきた)


灯りに照らされた室内を見回す。

……やっぱり殺風景だ。ベッドとランタン以外、何もない。


(次に必要なのは……机だな。本読むにしても食事するにしても、机は必須)


壁際のスペースに「机」をイメージする。

四本の脚にしっかりした天板、高さは腰くらいで……。


「――ヨツバ! 机、お願い!」


すると壁の蔦がうねり、勢いよく絡み合い始めた。

みるみるうちに机らしき形が出来上がっていく。


(お、すごいすごい! やっぱり私のスキルは超便利……!)


と、思ったのも束の間。完成品を見て、私は固まった。


……机? いや、机っぽい何かだ。

天板は波打ち、置いた物は全部転げ落ちそう。脚はそれぞれ違う方向を向いていて、長さもバラバラ。


(うん、これは……芸術作品? オブジェ? 机ではないな)


「調子に乗るとすぐこれなんだよなぁ…」


私は腕を組んで唸る。

どうやら、このスキルは「ぼんやりした完成形」をイメージしただけじゃダメらしい。



私はもう一度壁に向き直り、今度は「平らで丈夫な一枚板」をイメージした。

蔦が横方向にみっしり編み込まれ、表面が滑らかになるように魔力を何度も通して整える。


できた。見事な「木の板」だ。

同じ要領で四本のまっすぐな脚を作り、最後にそれらを組み合わせる。


やがて目の前に、シンプルだけど頑丈そうな机が完成した。

私は天板にそっと手を置く。少しごつごつしてるけど、確かな木の感触。


「よし。今度はちゃんと机だな」



机ができたことで、私の創作欲はすっかり火がついた。

さて、次は……椅子だな。


外で作った“スツールもどき”は座れるには座れるけど、チクチクして落ち着かない。

この立派な机には、それに見合うちゃんとした椅子が必要だ。


今度はもう慣れたものだ。

まずは座面となる板を一枚。次に背もたれ用の板を一枚。そして脚を四本。

それらを丁寧に蔦で組み合わせる。


完成したのは、少し武骨だけど背もたれ付きの椅子。

腰かけてみると、ぎしっとは鳴るけど、ちゃんと座れる。


(……コツ掴んだな。大事なのは、具体的にイメージすること。ヨツバは、それに完璧に応えてくれる)


調子に乗った私は、次に本棚に挑戦した。

昨日拾ってきた本を置くためだ。

板を何枚も作り、蔦で段を重ねていく。下段は大型本用に高さを広めに取る。


やがて完成したのは、見た目は多少いびつだけど立派な多段本棚。

さっそく本を並べてみる。うん、ちゃんと「本棚」だ。


その後も、私は夢中になって家具を増やした。

ローブを掛けるハンガーラック。

食料品を入れるための簡単な戸棚。


……失敗して、途中で謎のキノコが生えてきたりもしたけど、それはそれでご愛嬌。


殺風景だった拠点が「部屋らしい空間」へと変わっていた。


私はランタンのオレンジ色の光に照らされた部屋を、満足げに見渡す。

もちろん、職人の家具には遠く及ばない。全部、植物の塊だ。


でも、これは私が、自分の力で作ったもの。


(……うん、悪くない。居心地、だいぶマシになった)


椅子に腰を下ろし、今日の成果を噛みしめる。

そして、頭の中で次の課題を並べ始めた。


(寝床と家具はできた。次は――)


真っ先に浮かんだのは、一つの切実な願い。


お風呂に入りたい。

温かい湯に、ゆっくり浸かりたい。


体を清潔にするのは衛生面はもちろん、精神的な安定にも直結する。

絶対に必要だ。


幸い、拠点のすぐ近くには小さな川がある。

もともとここを流れていたものではなかったみたいだけど、鑑定したら汚染の心配はなかった。

水は確保できる…。問題はどうやって温めるか、だ。


そしてもう一つ。食料の安定供給。

今は備蓄に頼っているけど、それがいつまで続くか分からない。

自分で生産する手段を持たなければ。


(……畑、だな)


『生活魔法〈植物〉』があるんだ。これを使わない手はない。

瓦礫を片付けて家庭菜園を作れば、新鮮な野菜だって夢じゃない。

そうなれば、私の生活水準は一気に跳ね上がるはずだ。


そもそも、この世界に残ってる缶詰みたいな保存食がいつまでもつかもわからないし…

いつか必ず食糧難になるときが来るはずだ。

それまでに自活できるようにしておかないと、後々困る。



お風呂、畑、そして食料の安定確保。

やることは山ほどある。けど、これは「生き延びるため」じゃなくて、「生きやすくするため」の作業だ。言い換えると、快適生活計画の第一歩。


(……っと、さすがに頭がぐらぐらしてきたな)

MPはまだ余裕があるのに、集中力の方が先に切れたらしい。やっぱり精密作業って、思った以上に脳みそを使うんだな。徹夜コースは無理。


「今日はここまで!」

誰もいないけど、わざわざ声に出して宣言してみる。自分に区切りをつける儀式みたいなもんだ。


ランタンの光に照らされた拠点は、昨日までの殺風景な廃墟とは別物になっていた。

ベッドに机に椅子に本棚。出来は素人感丸出しだけど、全部、自分の手で作った“家具”だ。


苔のベッドにダイブすると、ふかふかが背中を受け止めてくれる。思わず「んふー」と変な声が出たけど気にしない。


(よし。明日はリクのところを手伝って、それから畑の下準備かな)

やることが多いのは大変だけど……逆に言えば、暇で腐る心配はない。


「……おやすみ」


そう呟いて、私はランタンの灯りを消した。

冷静に考えて、隣の家(?)から定期的に独り言が聞こえてくるのに対してリクくんはどう思ってるんでしょうか……

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― 新着の感想 ―
とても面白かったです。1人で生きる覚悟などなかなか出来ない、こんな世界ではなおさらでしょう。でも人間関係なんて非常にめんどくさい。なまじ色々出来ると頼られちゃいますからね、これからも楽しみにしています…
こんな世界だし夜中に家族の死に様夢見て飛び起きるとかモンスターの群れに襲われるトラウマで眠れないとかザラだろうし、夜中の独り言とかきっと「あー…」でたぶんスルーしてくれますよ。
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