工作スキルの使い道
「はぁー……疲れた……」
鉄くずの山と化した元ジャンク・ゴーレムを前に、私はようやく人心地ついた。
勝った。
知恵と技とそして新しく手に入れたレア武器のおかげで。
レベルアップで体力が全回復していなかったら、たぶんまだ床にへたり込んでいたに違いない。
【レベルが上がりました! Lv.9 -> Lv.10】
私は改めて視界に表示されたウィンドウを確認する。
レベルがついに二桁になった。なんだかちょっとだけベテランになった気分だ。
【Lv.10に到達しました。ボーナススキルを一つ選択してください】
「お、また出た。レベル10が節目なのか、ただ運がいいだけなのか」
レベルアップのおまけでたまにもらえるボーナススキル。
私の幸運が高いからか意外と頻繁に見る気がする。
目の前に三つの選択肢が浮かび上がった。
・工作 Lv.1
・罠設置 Lv.1
・気配察知 Lv.1
「うーん、どれも魅力的だけど……今はやっぱり、これだよな」
罠や気配察知は守りのスキルだ。でも今の私に必要なのはもっと能動的に状況を良くしていくための力。
私は一番上の『工作』に意識を集中させた。
【スキル『工作 Lv.1』を取得しました】
「よし、これでスキルは4つ目か。なかなかいい感じに育ってきたんじゃない?」
私は満足しながら鉄くずの山へと歩み寄る。
レアドロップだったか。
瓦礫の中に二つのアイテムが落ちていた。
一つはさっきまで青白く光っていたゴーレムのコア。今はもう光を失い、ただのガラス玉のような塊になっている。
もう一つはゴーレムの体の一部だったらしい歪んだ鉄の塊だ。
「さて、お宝鑑定の時間にしますか」
【名称:ゴーレム・コア(小)】
【等級:ノーマル】
【備考:微弱な魔力を放ち続けている。何かの動力源になりそう】
【名称:高純度の鉄くず】
【等級:ノーマル】
【備考:加工しやすい、質の良い鉄。工作の材料になる】
「へぇ、ゴーレム・コアね。動力源か……。つまりこれがあれば何か動かせるってこと?今は使い道が分からないけど、取っておいて損はなさそう」
私はその二つのアイテムをアイテムボックスへと丁寧に収納した。
これでこのホームセンターにいた一番ヤバい奴は片付けた。
あとは心置きなくこの宝の山を探索できる。
私はさっき手に入れた『解体の鉄槌』を改めて鑑定した。
【名称:解体の鉄槌】
【等級:レア】
【状態:良好】
【効果:構造物、及び、無機物タイプのモンスターに対し、与えるダメージが中上昇する】
【備考:結構重い】
「『結構重い』って、そんなの見れば分かるっての。もうちょっとこう、気の利いた情報はないわけ?」
私はその頼もしい武器をアイテムボックスにしまい、代わりに相棒の鉄パイプを手に取る。
さてと。
私だけの、お買い物タイムの始まりだ。
***
「さてさて、お待ちかねのお買い物タイム、と行きますか!」
私は鼻歌交じりに、まず一番のお目当てだったネジや釘が並ぶ棚へと向かった。
壁一面に大きさや種類の違う金属製品の箱がずらりと並んでいる。まさに宝の山だ。
「あったあった! これこそ私の求めていた、最強の弾丸たち!」
さっきのゴーレム戦でもお世話になったコンクリート釘の箱を手に取った。これを『マインド・バレット』で撃ち出したら、ホブゴブリンの硬い皮膚だって貫けるかもしれない。
私は釘の箱をアイテムボックスへと次々と収納していく。
次に目指すは工具コーナーだ。
新しく手に入れた『工作』スキルを活かすにはまず道具がないと始まらない。
レンチ、ペンチ、ドライバーセット。キラキラと輝いて見える工具たちに私は目を輝かせた。
「こういうの、一つ一つ揃えていくのって、なんだか秘密基地作ってるみたいで、楽しいんだよな」
そう呟きながら使えそうな工具を物色していたその時。
なぎ倒された棚の奥に何か不自然なくらい綺麗な赤い工具箱が一つ転がっているのが見えた。
「ん? なんだこれ、やけに綺麗な箱だな……」
私は瓦礫を乗り越えその工具箱を手に取ってみる。
ほとんど傷一つない。
「鑑定」
【名称:万能ツールキット(小)】
【等級:レア】
【状態:新品】
【効果:中に入れた工具は劣化せず、使用者の『工作』スキルレベルに応じて、作業を補助する機能が解放される】
「出た、幸運ステータスのお仕事タイム。もう驚かないぞ……いや、さすがに驚くわ!」
作業を補助する機能!?
なんだそれ最高かよ。
私はその赤い宝石箱をありがたくアイテムボックスへと収納した。
その後も私の快進撃は続いた。
キャンプ用品コーナーではカセットコンロのボンベを箱ごと発見。これでしばらくは温かいものが食べられる。
防災グッズコーナーでは手回し充電式のラジオ付き懐中電灯を見つけた。電池切れの心配から解放される!
「完璧だ……完璧すぎる……!」
私のアイテムボックスはみるみるうちにサバイバルグッズで満たされていく。
水も食料も道具も燃料も。
今の私はこの終末世界で最も豊かな人間なんじゃないだろうか。
私は一通りめぼしいものを回収し終え、資材館の真ん中で大きく伸びをした。
うん、大満足だ。
私は自分の相棒であるただの鉄パイプに目を落とす。
「よし。拠点に戻る前に、一つ、試してみたいことがあるんだよな」
私は先ほど手に入れたばかりの赤いツールキットをアイテムボックスから取り出した。
***
ホームセンターの資材館。
ガランとしただだっ広い空間の真ん中に私は赤いツールキットを広げた。
中にはピカピカの工具がまるで宝石みたいに整然と並んでいる。
「さて、と。始めますか」
私がアイテムボックスから取り出したのは昨日までの相棒だったただの鉄パイプ。
そして工具の中から電動のディスクグラインダーと金属用のヤスリを手に取る。
『工作 Lv.1』。
手に入れたばかりのこのスキル。一体どんな効果があるのか。
私はスキルに意識を集中させながらディスクグラインダーのスイッチを入れた。
――キュイイイイイイン!!
甲高いモーター音が静かな店内に響き渡る。
そして不思議なことが起きた。
今までこんな工具触ったことすらなかったのに。
どうすれば鉄パイプの先端を鋭く頑丈な穂先にできるのか。その最適な角度、削るべき時間、力の入れ具合が頭の中に直感的に流れ込んでくるのだ。
「……なるほど。これが、スキルの力」
私はその頭に浮かんだイメージに従い、鉄パイプの先端を回転する砥石へとそっと押し当てた。
バチバチッ!とオレンジ色の火花が派手に散る。
金属が削れる甲高い音。
数十分後。
私はディスクグラインダーのスイッチを切り、出来上がったばかりの「それ」を手に取った。
ただの鉄パイプだったものはその先端が鋭く美しく研ぎ澄まされている。
素人仕事とは思えない見事な出来栄えだった。
「鑑定」
【名称:手製の鉄槍】
【等級:ノーマル】
【状態:新品】
【効果:刺突ダメージが小上昇する】
【備考:バランスは、あまり良くない】
「おー!ちゃんと名前まで変わってる!」
備考の余計な一言はご愛嬌だ。
私は完成したばかりの鉄槍をぶん、と軽く振ってみる。
うん、いい感じだ。
これを『マインド・バレット』で撃ち出せばその貫通力はただの鉄パイプとは比べ物にならないだろう。
私は満足げに頷き、自分の「作品」をアイテムボックスへと収納した。
食料、道具、そして新しい武器。
ここ二日の成果は相当なものだ。
私は再び自転車に跨り、夕日に染まるゴーストタウンを図書館へと走り抜けていく。
アイテムボックスはずっしりと重い。まあ実際に重さはないんだけど、気分的にはそんな感じだ。
これだけの資材があれば、しばらくは何とかなる。
今まで私を支えてくれたのは、間違いなく『マインド・バレット』と『幸運』だった。
でもこれからは、違う。
この『工作』スキル……自分の手で、必要なものを生み出す力。
これって、もしかしたら、一番大事なスキルなのかもしれない。
ただ拾って生き延びるだけじゃない。作って考えて、このクソみたいな世界を、ちょっとだけマシな場所に変えていく。
うん、悪くない。全然悪くない気分だ。
次回、生存者グループが登場します!




