魔術師の資質②
朝食後――
「レオ、今日から本格的に訓練を始めます」
「はい、おばあさま」
「ザガン、レオのサポートをお願いします。人選は任せます」
「かしこまりました、大奥様。私と補佐にムル、マリウスでよろしいでしょうか」
「ロネン、ワシも一緒に――」
「まだ貴方が教えるほど、レオは成長していません」
祖母は一切の迷いなく言い切った。
「レオ。貴方には確かに才能があります。ですが、まだ未熟です。ですから、まずは私が基礎を叩き込みます。安心なさい」
「いや、そうではなくてな……」
「父上、ここは母上にお任せしましょう」
父の目が「説得は無理だ」と語っている。
周囲の使用人たちも同じ表情をしていた。
「レオ、無茶だけはするな」
「坊ちゃま。我々が全力で補佐いたします。ともに頑張りましょう」
――覚悟を決めた。いや、決めるしかなかった。
私たちは市街地の外れにある砂漠へとやって来た。
「坊ちゃま、喉が渇いたらすぐにお申し付けください」
ザガンをも上回る巨躯。筋骨隆々のマリウスの声が、腹に響く。
背には、自分が入ってしまいそうなほど巨大なリュックを背負っていた。
「おばあさま、今日は何をするのですか?」
「今日から体作りを中心に行います。この砂漠を走り、足を鍛えます」
「走るのですか?」
「もう怖じ気づきましたか?」
「いえ、そうではなく……」
私は皆へ視線を送る。
祖母を含め、私以外は全員が普段着に武器を携えていた。
「坊ちゃま、我々は問題ありません」
マリウスが笑顔で答える。
「では、行きますよ」
祖母の合図と同時に、全員が走り出した。
十分ほどで、私の呼吸は乱れ始めた。
さらに進むと、真っ直ぐ走ることすら難しくなる。
「ザガン、休憩に入ります。周囲警戒を。マリウスはテントの設営を」
「「かしこまりました」」
コクッ――ムルはいつも通り、無言で頷くだけだった。
マリウスはリュックからテントを取り出し、あっという間に設営する。
続けて水筒から水を注ぎ、私に差し出した。
「お待たせいたしました。坊ちゃま、ゆっくりと十分ほどかけてお飲みください」
「ありがとうございます」
「レオ。剣とは、見て覚えることも大切です。これから軽い模擬戦を行います。よく見ていなさい」
「マリウス、相手を」
「かしこまりました、ロネン様」
祖母は剣を鞘に収めたまま構える。
対するマリウスは、常人なら一つでも扱えぬであろう両手斧を、両手に持っていた。
――明らかな体格差。
互いに礼をする。
先に動いたのはマリウスだった。
両手の斧を同時に振り下ろす。
祖母はそれを、片手で――剣先にもう一方の手を添え、受け止めた。
「いいですか、レオ。体格で劣る場合、このように正面から受けると、こちらの攻撃が止まります」
「ですが――」
次の瞬間。
祖母は剣をわずかに傾け、斧をいなそうとする。
それを悟ったマリウスは、力を緩めた。
――その一瞬。
祖母の剣が、彼の喉元に添えられていた。
「このように、相手の“されたくないこと”を突き、力を出させないのです」
「……参りました」
私は思わず拍手を送る。
祖母は、にやけるのを必死にこらえていた。
その後も、限界まで走り――休憩し――模擬戦を見学する。
ザガンの剣。ムルのレイピア。
それぞれに対し、どう対処するかを祖母は実演とともに説明していった。
帰る頃には、頭も体も限界を迎えていた。
「レオ。貴方は賢い子ですね」
祖母が穏やかに言う。
「顔に出ていますよ。頭も疲れている。つまり、模擬戦を考えながら見ていた証拠です」
「貴方は剣を握る頃には、すでに剣士として最低限の動きができているでしょう」
ザガン、ムル、マリウスの三人も静かに頷いた。
――少し、嬉しかった。
翌日からは、ザガンとムルが武器を変えながら、体力と筋力の訓練を行った。
そうしているうちに――
シュタインベルク家の者が訪れる日が来た。




